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Second Moon Ⅰ  作者: 愛祈蝶
光と影
7/20

九番目の月




―――――八番目の月から





月は満ち―――――――






―――――――――九番目の月








「かすみ~起きろ!」




………ん……つかさ?……




「……ん?……何時?」



隣にあるはずの温もりはない。香澄は、重たい瞼を動かしながら声のする方向に意識を向ける。



「……いいから起きて支度しろ!…一泊出来る準備もな!」



司の声は、真上から降ってきた。



「…………いっぱく?…………なんの話?……」



…………眠い…………



……瞼が上がらない……



香澄は、寝ぼけ(まなこ)を擦りながら、起き上がろうとしていた。



「……クックッ……早くしねーと、置いて行くぞ」



………ボケボケだな…っふっ………



司は、ベッドの端に座り、香澄の寝ぼけた顔を覗き込み、腹を震わせていた。香澄は、寝起きの頭で司の言っている意味を必死に考える。



…………どこに?…………



「ねぇ、……どこか…………行くの?」



香澄は、まだ半分眠っているようだ。



「着いたら分かる。お前は、起きてシャワー浴びて来い」



司は、香澄の頬を優しく撫でた。



「うん」



どこに連れて行かれるのか分からないが、香澄は言われた通りバスルームに向かった。シャワーを浴びているうちに、ようやく頭が回りだした香澄。



………今日って土曜日だよね……マスターが言ってたのは……この事?……




………明日もバイトは……休みなんだよね…何処に連れて行ってくれるんだろう………




……司とお出かけ…初めてかも…………ふふっ………



香澄は、わくわくしながらも、何処に行くのか少しだけ不安もあった。



………司はもう、シャワー浴びたのかな………




……いつもなら………



“乱入してくるのに”と、独りでバスルームから出ながら、いつもと違う司の様子を気にせずにはいられない。





「起きたみてぇだな。クックッ………やっと香澄の顔になったな………クックッ」



司は、笑いながら近付き、入れ替わるようにバスルームへと消えた。




「……な……っ…………」




香澄は、一瞬ムスッとしたが、どう考えても様子がおかしい司に、不安を覚えた。



………ん……一緒にシャワーもなし?!………




しばらくバスルームのドアを見つめていた香澄だったが、自分の部屋に入り、着替えを済ませ、手早くいつものナチュラルメイクを(ほどこ)した。




………私、飽きられた?!………




……可愛くないから、愛想尽かされた?………




鏡の中の自分に問い掛けながら、昨日から様子がおかしい司の事を、頭の中で何度も巻き戻しながら思い出していた。



………言ってくれるまで、聞かないって決めたんだから、………




……待つしかないよね…………




聞かれたくない事、触れられたくない事は、誰にだってある。言いたくない事も…………。




一泊に必要な物をカバンに詰めていた香澄は、机のそば傍にあるダンボールに気づき、一昨日の事を思い出した。




………あ……この段ボール……




それは――――――――





「香澄さん、アパートに寄られますか」




「はい。まだ運びたい物があるので、お願いします」




「かしこまりました」




海堂の運転で、学校帰りにアパートに向かった香澄は、バイト前の(わず)かな時間で、運びたい物と捨てる物を分けていた。運ぶものは多くないが、捨てる物をゴミ袋に詰めたり、少しずつだが掃除もしたりしていた。




…………あ……これ……




…どうしよう……




その日、香澄は、クローゼットの奥に仕舞い込んでいた愁との交換日記や手紙、写真、第二ボタン……たくさんの思い出が詰まった箱を見つけた。




………封印したんだけどな…………




香澄は、愁と別れて半年が過ぎた頃、辛さのあまり、愁を思い出すモノは、箱に詰めて仕舞い込んだ。モノは箱に詰めて封印出来ても、心の中にある思い出や愁への気持ちは封印できないままだった。その頃の香澄なら、この箱を開けようなんて、思わなかっただろう。泣いてしまうから。




突然、“年上の彼女が出来た”そう告げられた時、あまりのショックに、香澄は言葉が出なかった。




“結婚するまでは”と拒み続けた自分を悔みもしたが、香澄は、他にも自分に非があるのではないかと、ずっと思い悩みながら、愁への想いを断ち切れずにいた。




……あの頃は、辛かったな………




…………あの時は……




………忘れたくて………



……忘れたくなくて……………






香澄は、懐かしくなって、箱を開けようとした。この時、香澄は、何故か穏やかな気持ちでその箱を見ていた。




…………司に話してないんだよね………




………愁先輩の事…………




……どうしよう……この箱…………捨てるなんて出来ない………





……司は、私の過去の恋愛、聞きたいのかな?聞きたくないのかな?………





……私は、司の女関係は……聞きたくないな…




……ショック受けそうだし……




……知らない方が幸せって事もあるよね?…………




……過去を塗り替える事は、できないんだし………




……でも、過去があるから、……




……今があるんだよね……





…司はどうなんだろう……





……隠し事は嫌いみたいだし、話した方がいいのかな…………








いろんな事を考えながら、香澄は時間を忘れていた。






そこに、“ピンポーンピンポーン”と大きな音がして、香澄は、現実に引き戻され、時計を見て慌てた。



………わ……こんな時間…



いつもは時間を見て部屋を出ていた。いつもより十分も過ぎている時計を見て、急いでマジックのふたを開けた。




……海堂さん、待たせてるの忘れてた…




「は~い、ごめんなさ~い!すぐ行きま~す」




香澄は咄嗟(とっさ)に“運ぶ”と箱に書き、部屋を出た。










………捨てられないよ……







……未練とかじゃなくて……










……大切な……想い出だから………







………宝物だから………








荷物の運搬は思ったより早く、バイトを終え、海堂の車で帰宅した時には部屋に運ばれていた。香澄は、ご飯の支度を終え、急いで段ボールの荷物を片付けていた。




………これは、そのまま仕舞っておこうかな………




………捨てられないけど、目に付くところには置きたくないし………





「………ん…おも~い…………無理だよ…」





………どうしよう………




香澄は、その箱をクローゼットの奥に仕舞っておこうと思ったが、自分で運べる重さではないことに気づき、あれこれと考えた。




……司が帰って来たら、運んでもらう?!………




…………でも…………





重くて動かせないその箱をそのまま置いていて、司に“それは何だ?”と聞かれた時の事を考える。できれば、放置しておきたくない。



…………う………………



隠すつもりはないが、司に誤解をされたくもない。香澄は、自分で段ボールをどうにかしようと考えた結果……。



……中身を少しずつ運べば………



封を開け、クローゼットの奥に空の段ボールを準備し、ノートやアルバムを箱から箱へと移動させ始めた。




が、“ピンポーン”と鳴ったインターホンが、その作業を中断させた。




そう、この時司が帰宅し、その後、香澄は司との二人の時間に気をとられ、段ボールの存在をすっかり忘れてしまう。




昨日の夜、自分の部屋に着替えを取りに行った時も、箱の存在を忘れたまま、今に至る―――――――




“ガチャッ”という音が香澄の耳に入ってきたと同時にドアが開き、現実に引き戻された。



「かすみ~準備できたか……あ……」



司がドアを開けると、段ボールの傍らでノートを数冊手にしている香澄と目が合った。



……………っ……………



“バタン”

思わずドアを閉めた司は、ドアの前で深呼吸した。




…………ふぅ……俺は何も知らねぇ………




胸に痛みが走り、“バクン”と波打つ心臓が苦しい。




………何も…見てねぇ………




……そう思わねぇと……




………あのノート全部、二度と見れなくしちまいそうだぜ………






………俺は、…何も見てねぇ………





司は、自己暗示をかけるように頭の中で繰り返した。波打つたびに刃物が刺さるような鼓動を必死に抑えながら。




そして、呼吸を整えながら、もう一度ドアノブに手を掛け、意を決して再びドアを開けた―――





“ガチャ”


「パン、焼けたぞ」



閉じていた目を開けながら、ゆっくり顔を上げると、目の前に、いつもより大きめのカバンを手にした香澄が立っていた。




「…………あ…準備出来たのか?」




再び司の心臓は、“バクンバクン”と不協和音を奏でながら暴れだす。




……落ち着け!俺!………




「うん。パン焼いてくれたんだ……ありがとう!」




にこっと笑ったつもりの香澄の笑顔は、ぎこちなく、司は黙ったまま、ドアを開け放って香澄を部屋から出した。そして、チラッと部屋の中を見た。




段ボールは開いたまま、我が物顔(わがものがお)でそこに居座っていた。



「…………っ…………」




…………まだ、アイツの事……?………




司は、唇を噛みしめた。




香澄は、ベーコンエッグとサラダを手早く作り、フライパンを洗う。司は、香澄が座るのも待たずに、パンやベーコンエッグにがっついていた。



香澄は、司が焼いた少し冷めたパンをかじりながら、ぎこちない空気を感じていた。 司は、何も話さず、黙々と食べ続けている。




「司は嫌いな食べ物とか、ある?」



香澄が沈黙を気にしたのは、初めてかもしれない。“何か話題を”と考えに考えて、出てきたのはこれだ。



「………あぁ…ガキの頃から食えねーもんは、あんまりねーな」




………レトルトは食えねーわけじゃねーからな………




……味だって、嫌いじゃねーんだ……




「そっか」



返事が返ってきた事に安心した香澄は、再びパンをかじる。司は、香澄が食べ終わるまで、ひたすらコーヒーを注ぎ足し、飲んでいた。




………“プラトニック”とか、俺には分かんねぇ……




………惚れた女と二人きりだぞ?……手ぇ出さねーとか、…俺には分かんね――――!!!!………





……昨日は、寝れなかったぜ………




………愁は何年もだろ?!……





………分かんねぇ……




司の視線は前方だが、心ここにあらずだ。自分とはまるでタイプの違う男に、嫉妬と焦りを感じていた。





……香澄は?愁がタイプなのか?……




………何年も付き合ってたんだしな…………





………あ"ぁぁぁぁ――――!!!!………







……考えるのは止めだ!!!今日は大事な用があるんだ…………




香澄が食器を洗っている間も、マンションを出てからも、司の頭の中は“愁”が占領していた。





二人は、車で目的地に向かっている。何処に向かっているかは、運転する司しか知らない。




「寝てていいぞ」




あくびを連発する香澄に、司は優しい言葉を落とした。




「……でも、助手席で寝られたら、司……」




強烈な睡魔に襲われ、限界だった香澄だが、“助手席で寝るな”と父親に(しつけ)られていたため、瞼を上げる事に必死だった。




「俺は大丈夫だ。居眠りなんか、しねーよ!」




………や、そうじゃなくて、……




「司は嫌じゃないの?…『運転してる人に失礼だ』って、お父さんが…」




香澄の父親は、母親ほど脅迫的ではなかったが、厳しかった。特に“男に関する事”には厳しく、外出させないのも電話を繋がないのも携帯を持たせないのも、父が母にそうさせていたからだった。






「………ックク……さっきからアクビ連発の香澄ちゃんが、気ぃ使うとはな……ッククッ」




「ご……ごめん…」



「昨日眠れなかったのか?」




司は、ほとんど寝ていない。香澄が寝返りを何度も打っていた事も、知っていた。




…………っ…………




香澄は、司の言葉に昨夜の自分を思い出す。




……寂しくて眠れなかった、とか、素直に言えたらなぁ………




「うん…寝付けなかった………司が先に寝ちゃったし……」




………は?……ひょっとしてコイツ………





……俺、昨日、もったいねー事したのか?………



……いや、違うよな………香澄だもんな………






「………ヤりたかったとか?…」




司がチラリと香澄を見ながら投げた言葉に、香澄は、真っ赤になりながら必死に否定の言葉を吐き出した。




「っ……ちがうし……」




香澄は、“ボボボボボッ”と体中が燃えているような錯覚さえ起こしそうだ。




「………俺と、ヤりたくねーのか…」




司は、ぼそっと呟いた…










「……ち…ちがうし………」





香澄は、はっきりと言葉を返していた。










…………?!…………










……今、なんつった?………




司は、一瞬、目を見開いた。










「かすみ……お前…………ヤり…」


「……っ…違うからっ……」





香澄は、司の言葉を(さえぎ)り、恥ずかしそうに否定する。





………は?…わけわかんねぇ…………






…『ヤりてーのか?』と言えば……



…………『違う』………







…『ヤりたくねーのか』と言えば…



………『違う』……………





………?……?……?………?……?…………?……







………意味わかんねぇだろ…………










司の頭に、はてなマークが飛び回っている頃、香澄は、今にも顔から火が出そうな程、真っ赤になって震えていた……。




“ドクン……ドクン”と高鳴る鼓動を必死に抑える。香澄の脳裏には、昨晩から今朝の司。




…………“おかえりなさいのキス”も恥ずかしくて出来なかった…………




……………っ……………




…………なかなか“すき”って言えない…………




…………嫌われちゃったのかな…………




“ドクンドクン”と何かに激しく胸をたたかれているようだ。香澄は、顔中を真っ赤に染めたまま、口を開いた。




「…………ぎゅって…」




「………は?……」





司は、カーステレオのボリュームをめいいっぱい下げて、香澄の声に耳を傾けた。










「………ぎゅって…………して欲しかった…」





香澄は、言葉を発してすぐ、窓に張り付くように身体ごと司と距離をとった。




………恥ずかしい………




狭い車の中では逃げることもできず、身体中が熱くなりながらも、窓から外を見ていた。いや、見ている振りをしていた。景色など目に入るはずもない。








…………!!……………




……今、香澄が言ったんだよな?………




…………っ……………





司は、しばらく固まっていたが、次第にニヤける顔を隠せずにいた。








………あ"ぁぁぁぁ―――!!!……何で高速のっちまったんだ俺は!!!!…………








正面を見て運転しながら、直ぐにでも抱きしめたい衝動を、抑えることに必死だった。







………つーか、行き先変更したくなっちまったぜ?………







香澄は、助手席のドアにくっついて、窓の外を見ていた。司から、香澄の顔は見えない。司は、ガラスに映る香澄の顔を(ひそ)かにチラチラ見ながら、自然に頬を緩めた。




………すぐにでも食っちまいてぇくれぇ、可愛いヤツだよな……




………過去なんて、知ったことか!!………





……香澄は俺の女だ………





“ストン”とどこか割り切れたように、司の目の前には、澄み渡った青空が広がっていた。





だが、疑問は残る。





………『ぎゅってして欲しかった』……てーのは、“ヤりたかった”とは違うのか?………





……ベッドでぎゅって…………それで俺が止まるはずねーし………







……分かんねーな………







香澄の事を、考えれば考えるほど、わからない事が増えていくのだ。







「うわ~っ、すごい!!綺麗!!」



香澄が歓声を上げ、司の視界にも真っ青な海が入ってきた。車は、高速を降りた後、海沿いの道を軽快に走っていた。BGMは司の好きな曲が流れていた。




「この曲好きっ!」




無邪気に言う香澄の、“好き”に、司は、過剰に反応する。司は、目を細めて笑いながらも、どこか寂しい気がしていた。




……いつか、絶対言わせてやる!!………




心の中で誓いをたてながら、もうすぐ着く目的地で、香澄に話す言葉を、頭の中で繰り返した。





香澄は、あの“ぎゅっとして”発言で、血圧が上がったのか、体温が上がったのか、眠気も覚め、真っ青な海と澄み渡る空に見入っていた。車が海沿いから離れ、上り坂を登り始めた後も、海を探して、キラキラした笑顔を振りまいていた。



………コイツ、海が好きなんだな……





「着いたぞ」




程なくして車が止まり、辺りを見回した香澄は、しばらく固まっていた……




「降りるぞ」




「う………ん……」




…………?……………





…………えっ?…………




……司、どういう事?………




………なんで?………




香澄は、駐車場の案内板を見るなり、一気にテンションが下がった。




……な…なん……で?………




「先に、寄るところがある」



「う……うん……?…」



香澄は、司の後について歩いた。“トクン”と心臓が波打つ。




ふと振り返った司は、



「あ、悪かったな、お前足みじけぇもんな…………クックックッ……」



歩みを止めて、笑いながら香澄の手を引いた。香澄は、“足が短い”と言われても、ムッとする事もなく、怒る気にすらなれなかった。




………デートに使う場所じゃないよ……絶対………




香澄は、今日で夫婦生活も終わってしまうの?と、悪い方にばかり考えていた。




……“一緒”って………………“一緒に来る”って事だったとか?………



………違うよね…………





司に手を引かれて辿り着いたのは、フラワーショップだった。



千日紅(せんにちこう)あるか?」



司は、店内に入ってすぐ、迎えてくれた店員にそう尋ねた。店員は、何か考えるように目を伏せた。



「お電話下さった方ですか?千日紅、白とピンク、仕入れておりますよ」



「は?……電話はしてねーぞ」



「…………っ…そ…そうですか、すみません。花束でしょうか」



店員の男性は、少々挙動不審ぎみだったが、



「これで二つ、花束にしてくれ」



司の置いた“諭吉さん”に、にっこり笑って、大きめの花束を二つ、手際よく作った。



「ありがとうございました」



店員に見送られ、店を出ると、司は、恥ずかしそうに、



「お前が持ってくれ」



と、言いながら花束を香澄に持たせて、目的地に向かって歩き出した。




………もしかして………




香澄は、なんとなく、司がここに来た理由が分かった気がした。




“センニチコウ”



香澄はその花を見つめながら、司に置いて行かれないように、ついて行った。




長い石段を登り、途中で水を汲み、辿り着いた場所、そこは、(はか)だった。




香澄は、書いてある文字を解読しようと食い入るように見ていたが、読み取れなかった。




「親父の墓だ」



「……司のお父さん?」



「あぁ。幸司(こうじ)…“幸せを(つかさど)る”と書いて“幸司”って名前でな?……極道だったらしいぜ。俺が生まれる前は……。この間、お袋がカミングアウトした。……薄々気付いてたけどな……事故死にはなってっけど、本当のところは分かんねー。昔の極道だからな……」




香澄は、言葉を探していた。香澄にとって、極道がどうこうは関係ない。ただ、…………ただ、司が、心配だった。






「うん。お父さん、会ってみたかったな…」



呟くような香澄の言葉に、司は安心したのか、頬を緩めた。白とピンクの千日紅を生けた後、線香に火をつけ、二人はしゃがみ込んだ。司は、タバコとライターを供え、小さなボトルも供えた。




………酒だ、親父……タバコもな………




……香澄、連れてきた……




二人は、無言のまま墓石に手を合わせた。




……初めまして、お父さん………




……司に出逢わせてくれて、ありがとう……




香澄は、顔も知らない幸司に、心の中で話しかけていた。







どれだけ時間が経っただろう……。足が痺れて、香澄は立ち上がった。司は、まだ幸司と話しているようだった。




「つかさ?」




……………?……………




その時、香澄は、司の名を呼ぶ女の声を聴いた。





「つかさ!」




…………誰?…………




香澄が声のする方に顔を向けると、上品な着物を着た女性が、こちらに向かって歩いていた。千日紅の花束を、両手に抱えて。




女性と一緒に、背の高いゴツい男が二人いる。

香澄は、“司のお母さん”見た瞬間にそう思った。




“トクン”とまた鼓動が激しくなる。香澄が、ふと司の方を見下ろすと、



「……かぶっちまったな」



司は香澄を見上げながら呟き、立ち上がった。そして、香澄の肩に手を置いた。



「…お袋だ」





男二人に声をかけ、諒子(りょうこ)は途中から一人で墓に向かってやって来た。



「初めまして、司の母です」



近くで見れば見るほど司に似ている諒子に、香澄は、緊張しながら頭を下げた。



「は、初めまして。香澄です」




………綺麗な人…若いし、優しそう……




ゆっくり顔を上げた香澄に、諒子はにっこり笑い、



「司から聞いたわよ。……ふふっ……司で良かったの?」



司に目をやりながら言葉を投げた。

香澄は、はにかみながら頬を染め、顔を隠したい気持ちだったが、



「つかさ……さん…が、いいんです…」



諒子の目を見て言い切った。

諒子は目尻を下げ、司に似た優しい笑みを浮かべた。



「ありがとう香澄さん。良かったわね、つかさ?……ふふっ……」



真っ赤な顔をした香澄と、耳を赤くしている司に向かって、諒子は穏やかに微笑んだ。司は、胸の内を見透かされているような気がしていた。




………お袋、勘がいいからな……




……いい歳して…年齢不詳の妖怪みてーだしな……ふっ………





「ここで会うとは、…………幸司が呼び寄せてくれたのかしらね」



諒子は、遠い目をしながら、墓石に視線を向ける。



「親父に、香澄を会わせたかったんだ」



司は、香澄の肩を抱き寄せながら、墓石に体を向ける。



「千日紅、覚えていたの?」



「花屋に電話したのは、お袋か?」



司は、店員の様子を思い出していた。



「……ふふっ……そうよ。これで千日紅は、親子で全部買い占めたみたいね…………ふふっ」



花挿しに入りきらない花をそっと置き、線香の煙が(ただよ)う中、諒子は手を合わせ、目を閉じた。




……幸司…久しぶり……独りにして……ごめん………




諒子は、長い間、心の中で幸司と話をしていた。




諒子が幸司と話している間、司は、香澄を少し離れた場所に連れて行った。



「センニチコウはな、親父とお袋の想い出の花らしいぜ。男の癖に、“ロマンティスト”っつーか、…ハハッ…お前が言ってた、月の話もな、親父が似たような事を言ってたらしい。“愛と同じだ”とか…なんとか……」



司は、照れ笑いをしていた。香澄は、耳を赤くした司を愛おしそうに見つめていた。



“センニチコウ”の花言葉は、“不滅の愛”。千日経っても色が変わらないことからその花言葉を持つ。二人にどんな思い出があるのか、詳しいことは司も知らないが。




…………司も、お父さんに似て、ロマンティストなんじゃない?…………




「お父さん…会ってみたかったな……どんな人だったんだろう……」



香澄は、何気なく呟いた。



「ま、俺も、お前も、この墓に入れば会えるだろ。親父独りじゃ寂しいだろうしな」



…………独り?…………



……………あ……………




……お母さんが下條のお墓に入るから?……



香澄は、墓石の前でずっと手を合わせている諒子に目を向けた。そして、心の中で幸司に懇願する。



………司のお父さん、司を守ってね……私より先に連れて行かないでね………




“墓場まで一緒”と司は言ったが、同時に逝けるとは限らない。幸司の墓石をじっと見つめる諒子が、とても小さく見えた。





「家族が(そろ)ったな。…………ふっ……」



司は、嬉しそうに微笑んだ。諒子は立ち上がり、墓石を撫でていた。振り返った諒子の目尻には涙の後が残っていた。



「香澄、家族も揃ったし、始めるぞ!」




…………?……………



………始めるって…何を?………




「何を?」



キョトンとしている香澄の背中に腕を回した司は、墓石に向かって歩き出した。諒子は優しい笑みを浮かべながら、二人を見ていた。



「親父とお袋が立会人な」




…………たち…たちあいにんって…なに?……





戸惑う香澄をよそに、諒子は呆れたように言葉を落とす。



「あら、司、墓石の前なんて、香澄さんが可哀相(かわいそう)よ!……女心が分からないわね…」



「ダメなのか?」



……俺なりのケジメのつもりだぞ?………



「………ハァ……全く、……幸司のプロポーズみたいだわね、『一緒に墓に入ってくれ!』って、いつの時代なのかと思ったわよ?」




…………?!…………




「……ふっ…ふっははははっ……」




香澄は、二人の会話を聴きながら、笑いを(こら)えられなくなり、とうとう声を出して笑い出した。



『下條香澄として、俺と墓場まで一緒だ』



司のプロポーズ?を思い出し、香澄は、照れながらも、諒子の言葉に吹き出していた。司は、隣で耳を赤くしている。追い討ちをかけるように、諒子は続けた。



「つかさ、まさか…プロポーズまで幸司と同じじゃないわよね?」



「っ……ふっふぁはははっ……」



「香澄、お前笑いすぎだ!」



司は、香澄の頭に手を乗せて、罰が悪そうに目を泳がせた。





「あら、図星?!…………ふふっ…本当に幸司に似てきたわね…で、立会人として、何をすればいいのかしら?」



諒子は、穏やかに笑いながら、司を見上げた。司は、ポケットから小さな箱を取り出し、手のひらにのせる。



「…………ふふっ…分かったわ」



諒子は、その箱を受け取り、墓石を背にして二人の目の前に立った。香澄は、何となく、今から起こる儀式に予想がついた。



諒子は、かしこまる二人に優しく微笑み、箱を開ける。



「幸司が、見守ってくれるはずよ」



そう言いながら、二人に指輪を差し出した。





「神に誓うとか、俺の柄じゃねーから…仏になった、親父に誓う」



司は、香澄の左手を取り、指輪をゆっくりはめていく。




………こんな輪っか、心まで(しば)れるとは……思ってねーけどな………




………紙切れだって、同じだ…………大事なのは………




「絶対外すんじゃねーぞ!……この墓に入るまで!」




司は、香澄の瞳をじっと見つめながら、力強く言葉を放った。

司の瞳をじっと見ていた香澄は、



「うん、……」



返事をするのが精一杯だ。何か言いたいのに、込み上げる感情に言葉が出て来ない。瞳に溜まる涙を必死に堪えていた。



諒子に差し出された指輪を、司のゴツゴツした指に通しながら、“何か言わなきゃ”と焦る香澄に、司は続ける。



「親父に誓う。コイツを一生守るってな!俺は嘘は()かねーからなっ!」




………わたしも………




「わ……わたしも誓うっ……一生…司について行くっ…………」





香澄が、墓石に向かって言葉を発した時、季節に似合わない温かい風が吹き、三人を包んだ―――――








寄り添いあう二人を涙ぐみながら見ていた諒子は、涙を隠すように後ろを向き、



「幸司、また来るわね」



墓石を撫でながら囁いた。振り返った諒子は、来る時に一緒だった男二人に視線をやった。



「そろそろ、時間のようね、……香澄さん、今度ゆっくり話しましょうね…」



諒子の優しい微笑みに司を重ねながら、香澄は頭を下げた。



「宜しくお願いします」



諒子は香澄の肩に両手を置き、頭を上げさせた。ゆっくり顔を上げた香澄に、にっこり笑いながら、



「司を宜しくね」



と言葉を落とし、背中を向けて去って行った。



「優しそうなお母さん……」



「お前の親だ。墓ん中の親父もな」



司は、何かに背中を押されるように、香澄の肩を抱き寄せた。



「ぎゅってして欲しかったんだろ?」



香澄は、自然に司に抱きついていた。しばらくの間、二人は墓石の前で抱き合っていた。



そして、



「飯食って、移動な」



司の言葉で、二人は近くのラーメン屋に向かう。遅めのお昼を食べ、車に戻った。



「おいしかったぁ」



「ラーメン好きなのか?」



「うん。高校の時…」




…………あ……………




「高校の時、なんだ?」



………墓穴掘っちゃった……




「課外学習がお昼前に終わってね、親に内緒で、……友達と、帰りにラーメン食べたの。不良でしょ?…ドキドキしたんだぁ…」




………は?……不良?………




………ラーメン食って不良か?……コイツの頭、……どうなってんだ?……




……いや、仕方ねーか………



司は、育った環境の違いを実感した。



「友達って、男か?」



…………わ…………やっぱり聞くよね………



司のお決まりのセリフを聞き、迷った香澄だが、



「……女の子だよ……」



と、初めて嘘をついた。



………嘘……ついちゃった……………



「そうか」



司は、それ以上は何も言わず、車を発進させた。





しばらく頑張っていた香澄も、お腹が一杯になったからか、いつの間にか眠ってしまった。香澄が目を覚ました時、すでに日は沈んでいた。窓の外には、ずっとついて来る月。香澄は、車が何処に向かっているか、見当もつかなかった。



「……ふっ……目ぇ覚めたみてぇだな」



司は、微笑みながら声をかけた。



…………やだっ…爆睡しちゃった………



「…ごめん……寝ちゃってた……」



「……ックククッ……目ぇ半開きよりは、マシな顔だったぞ?……ックククッ…」



司は、眠らないように我慢していた香澄の顔を思い出して、笑いを堪えられなかった。




……え…目…半開き?!…わたし…どんな顔してたの?!………




……恥ずかしい………




香澄は血圧が急上昇したみたいに体中熱くなり、一気に目が覚めた。



「ックククッ……ックハハハッ……もうすぐ着くぞ…………ックハハハッ…」



「……もぅ!そんなに笑わなくてもいいじゃない!…………ムゥ…」



香澄は、窓に顔を向け、ムクれていた。




………まぁ、そんな膨れっ面、すぐ直してやるよ……




司は、香澄にサプライズを用意していた。長時間の運転と寝不足から、疲れてはいたが、香澄の喜ぶ顔を想像しながら、頬を緩ませた。




ほどなくして、目的地にたどり着く。




……………え……………




「…………っ………………」



香澄は、目の前の光景に、驚き、言葉に詰まった。

司に手を引かれてやってきたこの場所は、後一ヶ月もすれば十二月、連日ライトアップされて、カップルで(にぎ)わう。香澄は、見たこともない景色に目を奪われていた。



司は、実家にいた頃、何かと気に掛けてくれていた義理の叔父に頼み、今日だけ点灯してもらった。ここは叔父の仕切る街。司は、新婚旅行のつもりだった。



宝石のようにキラキラ光るイルミネーション、空には九番目の月、香澄はたくさんの宝石を見上げながら、キラキラした笑顔を振りまいていた。



「……ぅわぁ……きれい……」



司は、はしゃぎ回る香澄に手を引っ張られて歩いた。



………ふっ……海堂に感謝だな……




……アイツ…女いねーとか、ウソだろ………




この旅行を計画したのも、叔父に話をするよう(うなが)したのも、海堂だ。海堂の父親は、組の幹部。幸司をよく知っていたらしい。司と海堂は十代の頃からの古い付き合いだ。



……アイツ、浮いた話ねーな…………




司は、海堂の結婚の心配をするほど、心に余裕が出来たらしい。香澄の笑顔を見ていると、悩んでいた事も一時的に忘れる事ができた。






「……香澄、どうした?……」



香澄は、突然立ち止まり、一点を見つめていた。香澄の視線を辿って行くと、ライトアップされた建物……。



……あれ……何て言うんだ?……確か……



「ねぇ、司、あそこって入れるの?」



香澄の問いに、司は一旦思考を止めた。



「行ってみるか。入れるだろ」



香澄の手を引きながら、司は思い出した。




………チャペルだ…………




司は、結婚式は挙げようと思っていた。だが、香澄は親族を呼べない。友達も奈津美以外は呼べないだろう。チャペルの中をキョロキョロしながら歩き回る香澄を見て、司は、どうにかしてやりたいと思った。



「香澄、ドレス着てぇか?」



「…………え……」




………着たいよ…でも………高いし……




………呼べる人も、奈津美しかいない………




「着たいよな……お袋もな、結婚式挙げてねーんだ……」



「お母さんも?」



「あぁ…時々言ってたな。『ウェディングドレス着てみたかった』ってな」



「…………うん…着てみたいけど、お金のかかる事はしなくていいよ…」



遠慮する香澄に、司は、ドレスだけでも着せてやりたいと思った。





「お前、俺に遠慮すんな。もっとワガママ言え」




………そんな優しい事言われたら、私、………




香澄は、ワガママを言って嫌われるのが怖かった。自分には、母と同じ血が流れている。母のようになりはしないかと、自分に怯える事もあった。



「……まぁ、そのうち着せてやる。俺が決めるけどな」



黙ったままの香澄に、司は、目尻を下げて笑いながら言い放った。



「ありがとう」



香澄は、無垢な笑みを浮かべていた。




香澄も司もチャペルから出て、キラキラ輝くイルミネーションの世界を歩き回った。現実離れしたこの空間に、癒されていた。



「寒くないか?」



そう広くない公園だが、かなりの時間冷たい空気に晒されている。一通り回ったところで司が声をかけた。




………寒くないけど………



香澄は、司の腕をぎゅっと掴んで、身を寄せた。他に人が見当たらない、この現実離れした世界に、大胆になっていたのかもしれない。




「………ふっ……腕組みてぇのか?」



“ボッ”と頬を染めながらも、香澄は、背の高い司の腕に掴まるように、ぴったり寄り添った。



「司とデート、初めてだね」



嬉しそうに笑う香澄に、



「デートっつーか、新婚旅行だ」



司は、耳を赤くしながら照れ笑い。



「新婚…旅行?……」



「あぁ、オジキに頼んで貸し切った。……ふっ……お前が喜んでくれて良かったぜ……」



「かしきり――――?!」



香澄は驚いて、思わず叫び声を上げた。



……確かに人がいないとは思ったけど……貸し切ったの?………





「あぁ、俺達が帰ったら、このライトは消えるぞ」




………司の叔父さんってスゴい………




「……夢みたい……」



にっこり微笑む香澄の唇に、司は思わずキスを落とした。“チュッ”と音をたてて離れた唇が愛しい。



「…………っ…………」



香澄は、嬉しくて、司にもたれかかった。体重をかけるようにもたれかかる香澄を、司は、自然に抱き締めていた。香澄は、夢を見ているようだった。




…………つかさ…ありがとう……




そう言おうと顔を上げると、“チュッ”と再び、キスが落ちてきた。




「そろそろ出るか」



司は、言葉を落とすと同時に、香澄の肩を抱き、駐車場に向かって歩き出した。





司は、機嫌のいい香澄の顔をチラチラ見ながら予約したホテルに向かって車を走らせた。車はホテルの入り口で停め、二人はエレベーターでレストランへと向かった。



夕食を食べながら、司はこの後の事を考えていたが、長時間の運転と寝不足で、思考回路が上手く回っていない。香澄もまた、今夜の事を考えながら、綺麗な月を見ていた。



香澄のデザートは、フルーツの盛り合わせ。司の前には、大きな栗がのったモンブラン。香澄は、美味しそうにリンゴや梨、オレンジを食べていた。司は、香澄の口元を見ていた。




かなり量のあるカットされたフルーツをペロリと食べた香澄に驚きながら、司は食後のコーヒーを飲んでいた。



「部屋行くか?まだ何か食いてーか?」



「もうお腹一杯だよ。おいしかった。ありがとう」



香澄は、イルミネーションを見て以来、終始笑顔だ。司も、香澄の笑顔を見ながら、目じりを下げっぱなしだ。





二人は部屋に入り、届けられている荷物から着替えを出す。



「香澄、先にシャワー浴びて来い」



…………っ…………



「う…うん」



司の言葉に、香澄の表情が曇った。



「……なんだ?一緒がいいのか?」




…………あ……えっと………




「……そ…そうじゃなくて……ハハッ…」




香澄の照れ笑いに、司は頬を緩ませる。



「オジキに電話しとかねーとな?ま、電話が済んだら俺も入る」



「うん」



嬉しそうに笑った香澄を見て、司は笑い出した。




……………?……………



「……ッククックッ………一緒に入りてぇんだろ?……ックククッ……待っててもい……」


「ひ…独りで入るからっ…………」



風呂上がり並みに赤くなり、あたふたする香澄に、司は目尻を下げて微笑んでいた。





香澄がバスルームに入ったのを確かめた後、司はまず海堂に連絡を入れた。



「あぁ俺だ…………あぁ………ありがとうな!…………明日の夕方には戻る…………は?…」



司は、会社の事を海堂に任せて来た。その連絡だけで、終わるはずだった。




「……どう言うことだ…………」




が、司の低い声が、室内に響いた。




………何でだ……っ…………




「………分かった。………あぁ………その話は明日帰ってからだ…………調べろよ………あぁ……」




…………っ…………




電話を切り、司は叔父へ電話をかけた。






そして………




「……つかさ?……」




香澄は、司が入って来る気配がないため、バスルームを出た。司は、ベッドに横になっていた。香澄は司の隣に正座して、揺すってみる。



「司……疲れてる?…………お風呂あいたよ?……入らないの…?…」



「…………ん……」



司は目を閉じたまま吐息を漏らし、突然“グイッ”と香澄の腕を掴んだ。



「…………キャッ…っ……」



寝ぼけたままの司は、そのまま力任せに香澄を自分の上に乗せる。そして、香澄を抱いて、ごろんとそのまま横向きになった。



「……ん―――ん…かすみか?」



目を瞑ったまま司は呟く。




……他に誰がいるの!……寝ぼけてるの?!…




「…うん。………つかさ、お風呂……」


「好きだ……」




…………え?!…………



司は香澄をぎゅっと抱き締めながら、呟いた。




「…………かすみ……」




…………え……っと……



「つかさ?」




司の温もりを感じながら、香澄は、“言わなきゃ”と心の中で繰り返していた。



………つかさ……好き……








「わたしも………………って………え……」




言いかけた言葉を止めたのは、“グゥ……スー……スー……スー………グゥ”と繰り返す穏やかな音――――




“……スー………グ―ゥ……スー……”司の不規則なイビキが聴こえてきて、香澄は急に体温が下がった気がした。




………ふふっ………




香澄は、重い司の身体からゆっくり抜け出し、司に布団をかぶせた。

そして、司を抱き締めるようにして、眠りに落ちた―――





千日紅(せんにちこう)”について補足させていただきます。



千日経っても、色が変わらない様から、花言葉は、《変わらぬ愛・不屈の心》



ドライフラワーや仏花としても知られています。


色は他にもありますが、“Second Moon Ⅰ”では、白とピンクを用いております。

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