表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
95/123

40話 魂に刻みし憤怒

 ■■■


 左丹は肉弾戦で餓鬼を倒せるとは微塵にも思っていなかった。不意打ち気味の一撃ならばわずかな希望を見いだせるが、真正面からぶつかり合うとなると、魔力が乏しい左丹にはまず無理だと理解していた。

 だが、ここで自らの手で餓鬼を下さなければならないと左丹は考えていた。




 復讐に燃える魔法少女を知っているからこそ、未来ある子供たちにその役目を担わせてはならないと感じていた。魔界では破壊と騒乱を巻き起こした左丹だが、こちらの世界に来て、いや七つの大罪『憤怒(イラ)』をアークドラゴンに明け渡した時から、考えを改めた。


 もう、自分の役目は終わった。世界のために憎まれ役を務めるのはもうおしまいだ。破壊と復讐をもたらし、恐怖で縛るのはもうごめんだ。これからはそうでない、平和を求めるべきだ、と。


 だからこそ左丹はこの世界に降り立つや否や、まず知識を求めた。平和をもたらすにはどうしたらよいか、人々が健やかに暮らすにはどうしたらよいか。

 そうして時間をかけて知識を蓄えた左丹は、これからの未来ある子供たちに教育を施すべく学園を作った。それが、桐陵学園だ。


 学園を建てた左丹は、学園長として学園を動かすことになる。初めは何度も失敗を重ねた。それでも諦めず未来のために努力を重ねた。



 結果、魔法少女と能力者と鬼が入り混じる他に例を見ない学園となった。

 左丹はその結果に喜びを感じていた。

 力を持つ子供が、その力を正しい方向へ使えるように見守り、時に教えるのが大人の役目だと感じていた。

 それが自分の贖罪と。


 左丹は、平和を願っていた。






 だからこそ。

 餓鬼を倒すのは自分の役目だと主張する。

 自らの命を懸けて。


 魂に刻み込んだ憤怒の力を持って、餓鬼を下す。



 禁呪『憤怒の力』

 本来周囲の力を吸い上げて自らのものと為す強化魔法であるが、これを左丹は魔力暴走を引き起こさせるのに使った。


 自らが餓鬼に喰われ、餓鬼の魂と同化する時を狙って。

 『憤怒の力』を発動させ、周囲の力を無秩序に吸い上げ、オーバードライブさせる。

 餓鬼に同じように喰われた魂の力を暴走させ、餓鬼を膨れ上がらせ、破裂させる。

 一歩間違えば、掌握され餓鬼の力となっていた一か八かの大勝負。


 しかし、左丹はこの勝負に負けるつもりはなかった。

 確実に、魔力暴走を起こし、餓鬼に致命傷を与え、その存在を消滅させる。

 肉体が滅びようと魔力がある限り存在し続ける七つの大罪を倒す一つの手段だった。

 力を失わせ、存在を消滅させる。

 左丹が取れる唯一の方法だった。

 自らを犠牲とした自爆攻撃。

 それは今成功した。






 ■■■


「UoUoooooOoooooooonoo!」


 餓鬼はその肉体を撒き散らしながら叫び声が虚空へと消えゆく。

 今まさに力を失い、存在が消えようとしていた。



「サタン様ぁ……」

「海道左丹……これを狙って……」

「……学園長」


 離れた場所で餓鬼の大爆発を見る3人は半ば呆然としていた。


 凛は自らが仕えていた主が自爆同然の攻撃を仕掛けそれが成功したことに、喜びと悲しみと無念が入り混じり涙を流した。

 アテネは自らが与り知らぬところで起きた戦いに呆気なさを感じた。

 ほむらは今まで復讐を願ってきた相手が自らの手を下すことなく消滅する様に、復讐の終結を喜ぶ気持ちとどこか何か物足りなさを感じる喪失感が心を占めていた。







 餓鬼の力が次々と消滅し、存在が希薄になるにつれ、周囲に展開していた“谷”が揺らぎ、元の場所と繋がった。

 すっかり日が暮れ、暗くなる廊下に真理とあかりが今か今かと待ち構えている光景がそこにあった。


「終わった……?」


 真理の言葉に3人はこくんと頷く。


「真理、これで終わったんだ」

「そうなのか、アテネ。とりあえずお疲れ様」


 真理はそこに餓鬼も左丹の姿もないことにすべてを察し、アテネを抱きしめた。


「ほむらちゃん……」

「あかり。終わったよ、私の戦いは」

「ほむらちゃん」


 ふらふらと歩くほむらをあかりはぎゅっと抱きしめた。このままどこかへ消えてしまいそうなほむらをあかりの傍に縫い止めるかのように。





「全てが終わった」


 凛は頭がぼぅっとするのをなんとか押しとどめ、これからしなければならないことに頭を回した。

 左丹が残した言葉を、無駄にしないために。

 左丹が残したものを、守るために。











 しかし。


「iyadaiyadaiyaだいやだいやだ嫌だ!うしないたくないうしないたくない失いたくない!卜はぼくはボクは僕は!マダタリナイまだたりないまだ足りない!スベテヲすべてを全てを!テニイレルマデハてにいれるまでは手に入れるまでは!僕は、全てを、喰らい尽くす!!!」



 今にも消えていこうとしていた餓鬼が、

 周囲にある餓鬼から解き放たれていく魂を再び喰らい、

 この世界に再び現れた。




 今まで持っていた魂の大半を失い、

 同じように魔力の大半を失い、

 以前の澄ましたような性格さえも失い、

 ただ全てを喰らい尽くすという本能に従った獣として、

 この世界に執着深くその姿を現したのだった。




「全テヲ喰ラウ! マズハソノ魂カラダ!」


 以前の人の姿を失い、4本足を生やした毛並みが汚い貧相な狼のような姿の獣は目にも留まらぬ速さでほむら達に襲い掛かった。


 まっさきに反応したのは、異常な魔力の集まりを第6感で感じ取っていた真理だった。


「『アイギス・シールド』!」


 魔力を凝縮させ原子・魔素の移動を妨げる直径1メートルほどの円形の盾を出現させ、餓鬼の攻撃を防いだ。

 がきんと鈍い音を響き渡らせ、餓鬼の突進を受け止めた。


 その音にはっとしたアテネが魔法を放つ。


「『風の掃射(マシンガンショット)』!」


 風が唸り、大木さえも切り倒せる鎌鼬が餓鬼の体を打ち付ける。

 しかし、餓鬼に堪えた様子はなく、唸り声を上げて体勢を整える。


 ほむらとあかりは餓鬼に向かい合い、魔力を集中させた。


「我の生命(いのち)を喰らいて、ここに現出せよ。『火炎処女(フレイム・メイデン)』!」

「我に宿りし奇跡の化身よ、我に力を貸したまえ。『大天使(ガブリエル)』!」


 轟、と周囲の空気を切り裂いて、ほむらの傍らに『火炎処女(フレイム・メイデン)』が、あかりの全身には白い輝きが現れた。


「『火炎処女(フレイム・メイデン)』、燃やし尽くせ!」

「お願い、ガブリエル。ほむらちゃんを援護して!」


 あかりから白い光がふわふわと浮かび上がり、『火炎処女(フレイム・メイデン)』の中に入り込む。『火炎処女(フレイム・メイデン)』の背中からは白い翼が一対現れ、炎は一層燃え上がる。




「ウォオオoooooオオオオouuuuuuU!」


 餓鬼は遠吠えを上げ、口を大きく開け、脚を振り上げて飛び掛かる。

 『火炎処女(フレイム・メイデン)』はその口目掛けて真っ白い業火を解き放つ。

 ほむら達の視界を真っ白に染め上げる光が輝き、轟音を鳴り響かせた。






 しかし、それでも餓鬼は生きていた。

 全身を焼き爛れさせ、前右足はその衝撃に使い物にならなくなっても、その根源的な“飢え”を満たすため、立ち上がった。



「ソノ、魂ヲ、寄コセエエェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


 餓鬼は宙を舞い、障害を潜り抜け、魔法を解き放ちへたり込む『天使(ガブリエル)を宿す者』であるあかりに狙いを定めて、その肩へ噛み付いた。




「いやああああああああああああああああああああああああああ!」

「あかりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 ほむらは目の前のおぞましい光景に叫び声を喉裂けんばかりに上げた。




 自分が何より大切に思う少女が目の前で襲われているのだ。

 何より復讐を願ってきた相手に。


 また自分の大切なものが奪われるかと思うと、ほむらはひどく堪らなかった。許せなかった。感情を抑えられなかった。


 殺す。

 自らの持つすべてをもって。

 コイツを消し去る。



「うあああああああああ!」


 蒼炎を瞬時に纏い、拳を餓鬼に叩き付けながら魔法を詠唱する。


「我が身を喰らいて神の力をここに顕現せよぉ!我の大切なものを守る絶対無比の力をここにぃ!全てを無に帰す力をここに寄こせぇ! 『神装(しんそう)イグニス』!!!」



 『本当にいいのか、その身が朽ち果てることになろうとも』、という声にほむらは迷うことなく頷く。大切なものを守り、復讐の仇を下すには自らの身を犠牲にすることに何の躊躇いもなかった。







 真っ白い光がほむらの体を包み、その姿を変化させる。


 蒼き炎に包まれていたその浴衣は、火が舐めるように消え失せ、生まれたままの姿になったほむらを新たな衣が覆い尽くす。

 何の色にも染まらない、いや全ての光が混じり合い為し得た、その白色の晒しがほむらの胸元と下を隠し、その晒しはほむらの腕や脚に纏わりつき、まるで踊り子のような姿になっていた。さしあたって神の踊り巫女といったところか。



 ほむらは目を見開いた。

 体に纏わりつく真っ白な晒しがその感情に従ってはためき、真っ白な炎を纏う。


 ほむらの腕には白炎が蒼炎に代わって燃え上がる。



「絶対に殺す!」


 怒りという感情がほむらの原動力となってその炎を一層燃え上がらせた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ