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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
89/123

34話 狂気乱舞



 ■■■


「こっち」

「うん」


 アテネ達が餓鬼と遭遇した頃、こちらでも餓鬼を追いかけている二人の魔法少女がいた。

 後藤ほむらと、九条あかり。

 炎を自在に操る魔法少女と、光と回復魔法を使う魔法少女。

 常に復讐に燃えて自らを戒める少女と、常に友達を憂う心優しい少女。


 その二人は、この学園を蹂躙せんとする餓鬼を目指して前へ進んでいた。


「……ん!?」

「この声は?」

「聞いたことのあるような……」

「あっ、竜崎アテネちゃんだよ、きっと」

「そうか……交戦しているのか」




 ほむらはぎゅっと拳を握りしめた。

 もうすぐで常に復讐を願ってきた相手に出会える。

 そのことが堪らなく嬉しく、そして苦く思えるのだった。


 私は復讐の相手を倒すことができるのか。

 私の復讐の炎は餓鬼を燃やし尽くせるか。

 私に餓鬼の命を刈り取れるほど力があるのか。


 ほむらは疑念に囚われながらも自らの悲願を達成しようと気持ちを入れ替えるようにして息をついた。

 あかりは隣のほむらの様子に気付いていながら自分ではどうしようもないと理解していた。自分ではほむらの復讐を止めることはできないと。いくらほむらの前に延びる道が修羅の道だとわかっていたとしても、ほむらのことを考えれば止めることなぞ出来やしなかった。だからこそ、自分はそんなほむらのそばにいて支えてあげると心に決めたのだった。



「ほむらちゃん、無理はしないでね」

「うん……わかってる」


 あかりの言葉にほむらは神妙に頷いた。


「でも、もしも私が暴走したら、その時は」

「うん! その時はほむらちゃんを止めるよ。友達として、ううん。ほむらちゃんを一番気に掛けている親友としてね!」

「……ありがとう、あかり」


 ほむらは自分を気に掛けてくれる存在がいるということに喜びを感じながら、餓鬼を追って階段を駆け下りた。









 ■■■


「はぁ……くっ」


 真理はアテネを抱き支えながら息をついた。餓鬼の魔法を撃ち消して真理は自分の魔力が少し減ったために軽度の疲労を感じた。それが餓鬼の放つ魔力のプレッシャーと相まって、真理の肉体と精神の両方に負担をかけていた。それでも、目の前に“敵”がいるとなればよそ見することなんてできやしなかった。


 真理は餓鬼を見据えた。

 餓鬼の目は今までに見たことないくらいに純粋で、それでいて狂っていた。

 ただ自らの欲望に忠実で、そのためには何事も躊躇うことはなかった。




「真理、ありがと。もう大丈夫よ」

「そうか、それなら良かった」


 真理はアテネを立ち上がらせる。アテネの目には闘志の炎が灯っていた。




「くくくっ、何かあると思っていたがこういうことだったとは」


 餓鬼は心底楽しそうに手振り身振りで驚きを示す。


「無色の魔力。実に面白い! ぜひ食べてみたいねぇ!」




 アテネは静かに魔法を唱える。

 魔力がアテネの体へ静かに収束していき、魔法という一つの形へ昇華していく。


「命の種を世界へ伸ばし、時に暴虐の嵐を巻き起こす風神よ! 私に力を! 『風陣舞』!」


 風がアテネを包み、まるでアテネが風を自らの羽衣のように従えて着飾っているかのようだった。アテネの赤紫色に輝く髪が靡き、その姿は堂々としたもので、餓鬼に気圧されたり感情を爆発させた様子はなく、静かに怒りの炎を燃やしていた。


「我の呼び掛けに応じて目覚めろ、禁術『竜の力(ドラゴンソウル』」


 アテネはさらに『竜の力(ドラゴンソウル』を発動させる。アテネの目は黄金に輝き、体内を駆け巡る魔力の量が倍増する。皮膚はそれまでの柔らかな質感を残したまま、まるで竜の鱗のように固くなる。爪と牙はにゅっと少し伸び、体に纏う風は一層厚みと激しさを増した。




「ほほぅ、それなら私もそれなりで迎え撃たなくては、な」


 餓鬼は虚空へ手を伸ばし、自らの能力のキーワードを告げる。


「『遺魂展開(レトリックコード)=白鳥舞』『召喚(サモン)=法具:笑撃大槌』」


 見透かすことのできない黒い渦が餓鬼の手の中に現れ、餓鬼の手には赤い大きなピコピコハンマーが握られていた。


 アテネはそのピコピコハンマーを見て、どこかで見たことがあると思った。

 そして、それが何か“気付いてしまった”。


 それは、アテネの魔法少女としての先輩だった白鳥舞(しらとりまい)の法具だったのだから。



「それは……!」

「見たことあるんじゃないかな。この持ち主は結構この界区域では有名だったらしいから」

「なぜ、それを!」

「そんなの、私が“食べた”からに決まっているじゃないか」


 餓鬼は何のことなしに当たり前のように告げる。

 もっとも残酷なことを。


「いい機会だ。君たちに教えてあげよう。

 私はいくつも能力や魔法を使ってきたんだが、実は私の能力はただ一つなんだ。

 それは、“食べたものを自分のものとすること”。

 それは物だけに限らず、魂も対象でね……こんなこともできるんだよ」


 餓鬼は空いている左手で顔を隠し、すぐにその手を外した。


 そこには先ほど餓鬼に食われてしまった麗奈の顔があった。



「なっ……」

「今はちょっと顔だけだね。能力とかはもうちょっと掛かるかな。そういうちょっぴり難しいことは消化が進まないとできないんだよね」

「……貴様ぁあ!」

「くくくっ、どうだい、君の大事に思ってた人がこんな風に使われるのは?」


 餓鬼は麗奈の顔で人のことを舐め腐ったように嘲笑った。

 アテネは手をぎりっと握りしめ、怒りに身を任せる寸前まで体を打ち震わせた。


「……狂っていやがる」

「それは私にとって褒め言葉だねぇ」


 麗奈の顔を張り付けた餓鬼はピコピコハンマーの法具を頭上へ掲げる。


「それじゃあ、いい具合に怒ったところでショータイムへ入ろうか」



 アテネは風を巻き上げ、足元の空気を破裂させながら餓鬼へ飛び込む。

 餓鬼は重力に自らの膂力を加えてピコピコハンマーを振り下ろした。

 アテネは避けることはせずにあえてそのピコピコハンマーにグリフィンを合わせて攻撃を防いだ。

 みしみしとアテネを支える床を軋ませながら、二人は激突する。アテネは風に加え竜の力で自らとグリフィンを強化しているため、餓鬼と拮抗できている。


 振り下ろした状態で力を込めてグリフィンごとアテネを叩き潰そうとする餓鬼。

 下から掬い上げるように餓鬼を切り裂こうとするアテネ。


 両者は拮抗し続ける。

 しかし、その拮抗状態は崩れる。


「くっ!」

「らあああああああああ!!!」


 いつの間にか走り寄っていた真理が魔力をかき集め全力を尽くした『アイギス』を施した拳で餓鬼へ殴りつけたのだった。

 餓鬼はアテネに集中していて、なかなか気づくことができず、至近距離に迫ってようやく気付き、体を逸らすことによって真理の拳を回避した。

 しかし、真理に注意を寄せ体を逸らしたことにより、拮抗が崩れ、餓鬼のピコピコハンマーを押し退けてアテネのグリフィンが餓鬼の右腕を切り落とした。


 餓鬼はピコピコハンマーを握る右腕を捨て、後ろに飛び退き体勢を整えようとする。しかし、強化されたアテネはすぐに餓鬼を追いかけ、空いている左手に魔力を凝縮させ至近距離で餓鬼に放つ。


「死ねええええええええええええええええええええ!!!」


 アテネの手から放たれる魔力の奔流が暴風となって餓鬼の体を穿つ。餓鬼の体はまるでゴムボールのように飛び弾んでいった。




「はぁはぁ」

「まだよ、真理」

「わかってる」


 アテネと真理の言葉に応えるかのようにゆらりゆらりと餓鬼は立ち上がり、にやりと笑みを浮かべる。顔は元の男のものになっており、右腕は切り下ろされ黒い血がだらりだらりと流れ落ちていた。


「さすがと言っておこうか、“鬼狩り”」


 餓鬼は怪我を負っているにもかかわらずとても楽しそうだった。



「さて、準備は整ったことだし。さっそくメインディッシュと行きますか!」


 左手でぱちりと指を鳴らすと、体は緑色の光に包まれ、元の怪我一つない姿へ戻った。


「なっ」

「うっ」


 さすがにこれにはアテネ達は呻き声を上げた。

 餓鬼を倒すには、一撃必殺が必要だということがよくわかった。



「さぁ、始まりだよ」


 餓鬼は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言葉を紡いだ。


「『遺魂展開(レトリックコード)=錦城麗奈』『魔力生成=呪魂双銃』『能力展開=呪弾生成』」



 黒い渦が巻きあがり、餓鬼の手には麗奈の使っていた二つの拳銃が収まった。





 戦いはまだ幕を開けたばかりだ。




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