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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
87/123

32話 呪銃の魔女

 ■■■


 麗奈と十音(じゅおん)二葉(ふたば)は群がってくる鬼達を倒しながら、鬼が出現してくるゲートを目指して前へ前へ突き進んでいた。



「十音!」

「うん」


 先頭を歩いている麗奈の言葉に、十音は『光絡鎖(こうらくさ)』という鎖の法具を鞭のように振り動かした。俊敏に動かされる『光絡鎖(こうらくさ)』は前にいたのっぺりとした顔のゴリラの鬼を引き込んで、その鬼を地面に倒した。そこへ二葉が身体強化魔法を発動させながらモーニングスターの法具『Good Morning And Good Night(おはようからおやすみまで)』を振り回し、他の鬼達を一気に攻撃した。麗奈は戦闘の様子を見極めながら自らの魔力で生成した拳銃2丁に魔力弾を装填させ、狙いを定めトリガーを引いた。麗奈が込めた魔力弾は炎を帯びていて、当たった鬼は眉間を貫かれながらその頭部は火に包まれた。


 麗奈はどの属性の魔法でも使うことができるが、銃弾に魔法を込めるしかまともに魔法を発動することができない。アテネや早苗が当たり前に使うような『~の矢』といった簡単な攻撃魔法は使うことができないが、銃弾に込めればどの属性でもまんべんなく発動できるという少し偏った性質を持っている。


 麗奈は中学2年の頃に鬼になりかけていた男に襲われているところをアテネに助けられて、それがきっかけで魔法少女になった。願いは“私も憧れの人のようになりたい”ということ。麗奈の両親はそれなりに地位のある大人だったが、地位があるが故に子供である麗奈をあまり構うことができなかった。麗奈は小さいころから表立ってではないにしても疎外感を感じていた。また、麗奈自身いろんなことが卒なくこなせたため、誰かに助けてもらうという体験をしてこなかった。そのために、アテネに助けられたことが一層麗奈にとってあこがれを抱く要因となったのだった。

 麗奈が銃を使う根本的な要因として、麗奈自身気が付いていないが、幼き頃に両親と家族旅行に行ったときに父親が嗜みとしてピストル射撃をしているのを見たことがあった。その時に感じた銃への興味と父親との思い出が、麗奈の主武器として拳銃を選ばせた。






「『火炎弾(フレイムバレット)』!」


 麗奈の持つ2丁の銃口から赤い炎が走り、次々と鬼を狙い撃つ。

 十音が鎖で鬼の動きを縛り、二葉がモーニングスターで鬼の抵抗力を奪っているからこそ、麗奈は思う存分銃撃を行うことができる。中~遠距離武器しか持たない3人だが、その連携は即興にしては上出来でバランスが良かった。



「『縛鎖(チェイン)』」


 奥の方で唸り声を上げる大柄な灰色狼の鬼に対し、十音は魔法の鎖を追加してその体を地面に縛り付けた。十音は拘束系魔法が得意だ。属性は光や地属性が相性がいいが、だからといって他の属性が使えないという訳ではない。攻撃魔法も多少なりとも使えるが、あまり威力が出ず、むしろ拘束魔法で絞め上げた方がよりダメージを与えられるという始末である。

 十音は狼の鬼を拘束しながら恍惚そうな表情を浮かべ不気味な笑い声を上げていた。トリガーハッピーならぬ、チェインハッピーである。



「『物質硬化(マテリア)』」


 二葉は硬化魔法を発動させながら、十音が取りこぼした鬼達の攻撃を全身で受け止め、モーニングスターで薙ぎ払う。棘棘の先端が鬼達の体を抉りながら吹き飛ばしていく。


 二葉は地属性魔法が得意で、岩を飛ばしたりする攻撃魔法から、地形操作や土人形操作などといった補助系の魔法まで幅広く扱える。地属性の他には火属性も多少だが扱うことができる。

 本来、敵から距離を取って戦っている二葉だが、今回の鬼達を相手にして他の面子に接近戦を任せるには心もとなく、仕方なく二葉は敵の勢いを抑えるために前に出ていた。あまり痛いのは得意ではなく、常時硬化魔法を発動させて痛みを感じないようにしながら、敵を薙ぎ払っていく二葉。




 3人が3人個性を出しながら目の前に群がる鬼達を倒していくのだった。






 そして。


「あれが、鬼達が現れてくるゲートじゃない!?」

「そうかも」

「それを倒せば、とりあえず大丈夫だってことだよね」


 3人はあまりの(ざこ)の多さに多少辟易していたところへ現れた新たな目標に、やる気を取り戻した。



「まず、私が!」


 十音が『光絡鎖(こうらくさ)』を勢いよく振り回し、鬼達の集団の中へ投げ入れた。


「『構築(コンストラクション)』!」


 鎖は何かの力に導かれるようにして勝手にしゅるしゅると動き出し、鬼達に絡みつきながら紋様を描き出した。


「『展開(プログレス)』。めんどくさいから、後省略ぅ!」


 十音の自らの魔力に興奮して高ぶった声を上げながら、詠唱(キーワード)を刻み込む。


「『爆鎖縛炎陣(しばってばくはつしてもえろ)』!」



 刹那眩い光が十音の描いた紋様から迸り、校舎全体を揺るがすような爆発を起こした。

 鎖が描いた魔法陣を元に、巨大な魔法を発動させる。それが十音の最大火力だった。

 拘束する以外にも鎖にはこういった使い方があった。




「うわっ……建物の中だから凄い。これ大丈夫かなぁ……」

「だいじょうぶだいじょうぶ。こんな事態だから、こんなことやっても大丈夫だよ、きっと……」


 二葉の感想に、特大魔法を放ってようやく落ち着いた十音が不安げに答える。



「生き残ってるのは、ほとんどいないね。それにしても、よく床や壁が残っているね」


 麗奈はそう言いながら拳銃で生き残った鬼達を狙い撃っていく。


「まるで、ここで魔法を使うことを想定していたかのような耐久力……というより『保護(プロテクション)』系統の魔法が掛かってるね、これは」

「だからかー」

「でもなんで」

「とりあえずさっさとゲートを壊しましょ」


 麗奈が生き残りを倒している間、二葉は鬼達を魔界からこの世界へ呼び込むゲートへ近寄った。ゲートは青い禍々しい光を放っていた。

 二葉はモーニングスター『Good Morning And Good Night(おはようからおやすみまで)』を振り上げ、全力で魔力を流し込み、勢いよくゲートへ叩き付けた。



 二葉の一撃は、ゲートを凹ませその形を使い物にならないほどに歪ませ、その動きを完全に停止させた。破壊されたゲートはその形をさらに穴の開けられた風船のように歪ませ、しゅうっとその姿を消した。




「よし、これで終わりだね」

「そのようだね。これで鬼たちが群がってくることがなくなるよ」

「あとは、その。元凶を叩かないと」

「七つの大罪の『暴食』を司る『餓鬼』だっけ」


 3人は先ほど急に耳に聞こえてきた学園長の通信を思い出した。



「それにしても、2人とも強いんだね。改めて見直したよ」

「そんな……」

「いやはや、麗奈ちゃんの方が強いじゃん」

「私は、そんな。あの人に近付くことさえできてないし」

「ん? 憧れの人でもいるの?」

「うん、もちろん魔法少女のね」

「それは、わかってる」

「それでどんな人なの、その人」


 二葉はどこか嬉しそうに麗奈に尋ねた。


「強くて、かっこよくて…… 私の一歩も二歩も先を進んでいるの。私では到達しえないところを歩いているような人なの」

「それって男?」

「ううん。2年生の女の先輩だよ」

「ほぅ」

「麗奈ちゃん、その人の子と話す時凄い嬉しそう」

「そう?」

「うん」


 麗奈は思わぬ指摘に顔を赤らめた。


「そんなことないと思うんだけど」

            カツン

「いやいや、顔がゆるんでますぞ」

          カツン

「えっ、そう?」

        カツン

「そう、今だって」

      カツン

「えっー」

    カツン

「あれ、何か近づいているよ」

  カツン

「そうね。何かしら」

カツン

「何!」


 麗奈が音の先を見ると、そこには一人の男が立っていた。

 黒いスーツを来た禍々しいほどの魔力を垂れ流しにした、悪魔がそこに立っていた。

 よく目を凝らすと至るところに返り血と思わしき赤い斑点がついていた。



「おやおや、なかなか楽しめそうな、それでいて喰いでのある子達だ」


 その男はぺろりと舌なめずりした。その様子は見てるものをあまりの恐ろしさに身を凍らせるほどであった。






「お、おまえは、誰だ!」


 恐ろしさに身を震わせながら言葉を発せられた麗奈は勇気があるといえるだろう。


「私か。私は餓鬼だよ。全てを喰らいし悪魔だよ」


 語尾になぜか星が付きそうな勢いで話す餓鬼だが、見てるものはあまりの恐怖に身じろぎひとつできなかった。



「うーん、君の匂いはどうも嗅いだことがあるような。いや、厳密にみると違うようだね」


 ソムリエを気取ったようなその男は、にこにこと笑っていた。

 例えるなら悪魔の微笑。



「まぁ、いいや。ちょっとなかなか美味しそうなのと出会ていなくてね。お腹がすいているんだ」


 すたすたと麗奈の方へ歩く餓鬼。

 麗奈たちはこれから何が起こるか考えもつかないまま、身動きできなかった。


「それでは、いただきます」





 ぱくり



 まさにその言葉が適切であろう。

 餓鬼は体をぱっくり開き、大口というにはあまりにも大きな口を開いて麗奈の上半身を喰らった。



(えっ……?)


 麗奈は何も理解することができぬままぷつりと意識を失った。





 餓鬼は美味しそうにもぐもぐ麗奈を咥えながらその味を楽しんでいた。


 餓鬼の口元からつーと赤い液体が漏れ出た。

 それでも餓鬼は気にすることなく美味しそうにもぐもぐしていた。



 かつり


 麗奈の2丁の拳銃が、硬質な音を立てて麗奈の手から落ちた。

 その拳銃はすぅっと光の粒子となって消えた。








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