28話 戦火は燃え上る
■■■
「本当に何が起きるのかしら」
「そんなの、神にしかわからない」
「ふふ、そうね」
アテネ達は廊下を疾走する。桐陵学園に現れた災厄:餓鬼を倒すべく。
「っ、あれ!」
「まったく面倒ね」
大輔がいち早く気づき、一同はスピードを落とし足を止めた。アテネは軽くため息をついた。アテネ達の前へ近づいてくるのは、ゆらりゆらりと体を揺らしながら火に包まれた人型の化け物だった。
「おぉっぉ、お前は魔法少女かあああ!?」
アテネ達よりも2倍ほど大きな、手足の細長いその化け物は不思議な抑揚を付けながら言葉を放った。その化け物は鑊身と名を持っていた。
「私が行くよ」
「頼んだわ、さっちゃん」
早苗は腰に括り付けてある法具:六連星にぽんと手を掛けた。刹那、早苗の姿は掻き消え、鑊身の背後へ瞬時に移動していた。手は先ほどと同じく六連星に乗せたまま、だがしかし鑊身の全身は細々に切り刻まれ、その体は地面に崩れ落ちた。
「こんな感じかしらね」
早苗が六連星から手を放しふぅと息をつく。早苗は自分を雷のようにする魔法をかけて行動速度を極度に加速させ、六連星を走らせ鑊身を切り刻んだ。急激な運動を行えば体がついていかなくなるはずだが、早苗の体は魔法少女のもので尚且つ慣れていてこのくらいなら体に特に影響が出ないのだった。故に早苗はこの攻撃を得意としていた。
「さっちゃん! 前!」
「えっ、っと。まだいるの!?」
早苗がアテネの声にふと前を見ると、そこには口は針のように細く腹が大山のように膨れている化け物がいた。蚊や蜂などの毒虫にたかられ、口からは炎が噴き出ていた。その化け物の名を針口と言った。
針口は口同様に糸のように細い目を光らせて早苗に向かって火を噴いた。
「きゃっ」
早苗はとっさに屈み込み、針口の攻撃を躱した。しかし急に屈み込んだため、早苗は体勢を崩して尻餅をついてしまった。
「くっ、『雷撃』」
早苗が苦し紛れに電撃を放つものの、それらは全て針口の手によって受け止められた。
「『爆ぜろ』」
針口の顔を突如として膨張し、それはある程度まで膨らむとと耐えきれなくなって破裂した。
早苗がふと後ろを向くと、アテネが手を伸ばした状態で立っていた。
「まだ、死んでいないわ」
「わかった」
早苗は立ち上がり、六連星を抜き針口をばっさり斬り倒した。
「ありがと、あーちゃん」
「どういたしまして」
アテネ達が鬼達を倒し、先へ急ごうとしたところ背後から呻き声をあげる鑊身がよろよろと立ちあがった。
「ちっ、さっきのでくたばらなかったのか」
「めんどくさいね、『風の弾丸』」
アテネが魔法を放ち、鑊身にとどめを刺すが、それでも鑊身は再び立ち上がり、燃え盛る体を押し付けようと迫ってきた。
「ええい、こいつ死なないの!?」
「ちょ、近づかないで」
アテネと早苗は鑊身から逃れるべく飛び下がった。
「……その体は魔力によるものか。なら私がやるよ」
それまで静観を貫いていた真理はすたすたと鑊身へ近づいた。
鑊身は格好の獲物を見つけたといわんばかりに火に包まれる手を振り上げた。
真理は造作なくその攻撃を手で受け止めた。
鑊身の炎がぎちぎちと音を立てて真理の手の表面で受け止められる。表面と言っても、実際には1,2cm離れたところで見えない壁に遮られたかのように抑えられていた。
「所詮魔力による肉体なら私の敵じゃない。さぁ、くたばってよ」
真理は空いた右手を軽く握りしめ、鑊身の腹を殴りつけた。鑊身が身をかがめると今度は左手で頭を掴み、くしゃっと握りつぶした。頭を潰され炎の勢いが弱くなったところで、真理は小さく呟いた。
「『霧散』」
それにより炎に包まれた鑊身の体は肉体を維持することができなくなり、その姿を空中に散らした。
「ふぅ、これでお終いだね」
「ありがと、真理」
「どうしたしまして、先に進もう」
アテネ達は先へ急いだ。餓鬼が暴れる、その場所へ。
■■■
「なんで、いきなりこんなことになってるの!」
「そんなのわかんないよ、って」
鬼達が暴れる中、デザインが変えられた白地の狩衣と丈が短くミニスカートのようになった紅色の直衣を着た少女が鎖を振るっていた。その少女はセミロングの髪を、前髪をすっぱり切り揃えていて、ただの人間からしたら恐怖でしかない鬼に毅然と、それでいてどこか興奮気味に戦っていた。
その隣でオレンジ色のチャイナドレスに黒スパッツを着た少女が先端に棘々の球体を付けたモーニングスターを軽々と振り回しながら憂鬱そうにしていた。その少女は髪を後ろでお団子にしそれを布で覆っており、足元に作り出した50cmほどの土人形を使って周りの状況を把握しようとしていた。
彼女たちは魔法少女だった。普段は年頃の少女として学園生活を楽しみ、一度鬼が現れれば魔法少女へ変身し退治する毎日を送っていた。
陰陽師のようなコスチュームの少女を千光士十音といい、チャイナドレスの少女を八塚二葉といった。彼女達は高校1年生で互いにクラスメートだった。たまたま互いに魔法少女であることを知り、友達になった。
「とりあえず、私たちはここにいる鬼達を倒していけばいいんだよね」
「そうなるね。あっ、そっちに」
二葉が声を掛けると、十音はすぐにのっそりと現れた熊の姿をした鬼に目掛けて鎖を放ちすぐさま縛り付けた。
「ふふ、さぁこっちへいらっしゃい」
「十音、なんか怖い」
二人は順調に鬼を狩り続けた。
しかし、災厄はしっかり近づいているのだった。それを少女たちは未だ知らない。