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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
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5話 魔法少女事情と犬鬼

2015.5.12に一部修正。話の流れを旧版に戻しました。

 ■■■


 なぜ、家にいるはずのアテネが家にいないのか。もしかしてこちらの声に応じないだけで家のどこかにいるのか。トイレかな、と真理は考えトイレに行くもののそこには誰もいなかった。耳を澄ませても自分以外の誰かが家にいる音は聞こえなかった。

 あれあれ、と思いながら真理がリビングに入ると、テーブルの上に一枚のメモ用紙がぽつんと置いてあった。そこには女の子特有の丸っこさが表われた文字で、出かけているとの旨が書かれていた。そこでようやく自分が朝アテネに鍵を渡しておいたことに気付いた。出かけてもいいと示唆しておきながら、いざ出かけれて動揺する、そんな自分がたまらなく不思議に感じた。なぜ昨日今日出会ったばかりの少女にそこまで気を掛けるのだろうと、自分のことながら気になった。


真理は学校帰りの服装から家用の服装へ着替え、リビングルームへ舞い戻った。当然の如く現在この家は真理一人だけで真理が動かなければしんと静まった。真理はそれを寂しく思いながら、台所でマイカップにインスタントコーヒーの粉を注いだ。さらさらと焦げ茶の粉が流れる音がし、こんこんと陶器とガラスがぶつかる音が響く。そこからピッと電子音が鳴り、続けてじょぼじょぼと湯がカップへ流れ落ちる。


「はぁ……」


 あっという間に出来上がったコーヒーを抱え、真理はため息をついた。


 いつになったらアテネが帰って来るだろうか、そう考えながら。


 それだけ真理が他人ひとに飢えていたということであり、それと同時に竜崎アテネという少女の存在が真理の中で大きくなっていることでもあった。





 ■■■


 ガチャりと玄関の扉が金属音を鳴り響かせる。


「ふぅ、疲れたわ」

「お、帰って来たか」

「あら、もう家にいたの。ただいま」

「あぁ、おかえり」


 真理がそう言うと、アテネは少しきょとんとした表情を浮かべ、すぐに笑みをこぼした。


「ふふ、こんな風なやり取りなんて久しぶりでね……なんだかあったかいわ」

「そうか、俺もだよ」

「そうなの。それじゃ似た者同士ね、私達って」

「そうかもな」


 二人は互いの顔を見合わせて声をあげて笑った。一頻り笑いあった二人は玄関から移動した。




「それで、その手に抱えているのは?」

「あぁ、これね……」


 真理が言及したのはアテネが両手に抱える大きな袋だった。


「せっかくだからちょっと服買ってみたの」

「そ、そうか。それにしても多いな」

「今までホテル暮らしだったからあまり荷物は持てなくてね……今はここがあるじゃない」

「それってどれだけウチに居候する気なんだよ……」

「気が済むまで、ね。でも、あなたはそれをきっと許してくれるでしょ?」

「……たしかにそう言われるとな。女の子を外に放り出す真似は出来ないからなぁ」

「でしょ?」

「家とかないのかよ」

「残念ながら未成年の私に家なんて持てません。前の家なんてもう残ってないし、いろいろと忙しかったから」

「そうか、それでホテル暮らしだったと」

「そう、その方が気楽だし。でも、やっぱりこうして家にいられるのは最高ね」

「まったくなんでここに住むなんて言ったんだと思ってたがそんな理由で……」

「それが十全ってわけじゃないよ、あくまでも理由の一つだってこと」

「たしか俺の能力に興味がある、だっけ?」

「えぇ、そうよ。魔法を打ち消す能力。こう見えて私って歴戦の魔法少女なんだけど、そんな能力なんて見たことないのよ。鬼にとってはもちろん、魔法少女にとってもその能力は脅威よ」

「だから、その能力を監視して、調査したいと」

「その通りザッツライト。どこに報告するとかそんなことはないけど、潰せる不安の種があるなら潰しておくべきでしょ」

「間違っても俺のことは潰さないようにお願いしますよ」

「危険がないならね。もしも私にとって危険があるとわかったら容赦なく叩き潰すわよ」

「物騒だ……」


 真理はアテネの物言いに嘆息した。魔法少女とはこんなに殺伐するのかと幻想がガラガラと崩れていくのを感じた。




 ■■■


 二人が夕食を食べた後、真理は冷蔵庫の中を見ていて、牛乳がきれていることに気が付いた。


「ちょっとコンビニに行ってくる」

「私もついていこうか? 最近物騒だって言ってるし、また谷に嵌まってしまうかもしれないし」


「いや、いつもの道を歩くから大丈夫だ。ちょっと行ってくるだけだし」

「そう、そこまで言うならわかったわよ」

「心配してくれてるのか?」

「いや、別にそういうつもりじゃなくて・・・アンタ変態だから大丈夫だよね!」

「いきなりなんだよ・・・」


 そんなやり取りをしながら真理は家を出た。




 夜の道は暗くひんやりとしていた。

 人の姿は見当たらなかった。

 真理は公園の中を突き抜けて、コンビニへと足を動かした。


 コンビニで牛乳を買って家に帰る途中、真理は公園の中で一匹の犬が自分を追いかけてきているのに気付いた。


 普通夜に歩いている犬はいない。いたとしても飼い犬ぐらいだ。

 まして、野良犬というのは珍しい。

 なぜ犬がこんな夜に歩いているのだろうか?




 すると突然その犬が襲い掛かってきた。


「がるるっ!」

「うわっ!」


 真理はいきなり襲い掛かってきた犬に驚いて、前に転がった。

 地面が濡れていて服が汚れたがそんなことを気にしている余裕なんてなかった。


「なんなんだよ、この犬! こっち来るな、こん畜生」


 すると真理の言った言葉に反応して、犬が口を開けた。

 そして、言葉を発した。


「わいは畜生じゃないで。

 わいの名は小次郎や、そこんところ間違えんといて」


 その犬はえせ関西弁で話してきた。



「・・・いつの間に犬がしゃべる時代になっていたんだろうな。

 小次郎さん、なぜ俺を襲うんだ」

 「決まっているじゃないか、今夜の飯にするだけやで」


 再び犬(?)の小次郎が噛み付いてきた。まだ地面に膝をついている真理は避けようがなかった。

 そして真理は無意識の内に手を伸ばし、小次郎の突き出た鼻を張り飛ばした。



 なんとか一回の噛み付きを防御することができたが、態勢を立て直した小次郎の次の攻撃をかわすのは不可能だった。

 そして真理は腕に噛み付かれた。





 今まで犬に手を噛まれるという経験をしたことのなかった真理にとって、その痛みは想像を超える痛みだった。

 その上、小次郎の牙には"かえし"が付いていて容易に抜けないようになっていた。

 真理の苦痛は長引いた。小次郎も力を緩めないからまったく抜けないのだった。

 傷口からは血が溢れ出ていた。




 そのうちに真理は目の前が霞んできていることに気付いた。

 噛まれた傷の痛みも感じなくなってきた。

 (あぁ・・・俺死ぬのかな。)


 「やれ、もう死ぬのかいな。初めてのお勤めお疲れ様やで」


 そして真理の目の前はまっしろになった。






 真理の脳裏に未知の声が響いた。

 『神の梃入れ発動:修復リカバリー』



 その瞬間真理の意識が覚醒した。

 目の前にはまだ自分の腕をくわえたままの小次郎が見えた。

 意識を失った時間はわずかだった。

 真理は小次郎が驚愕の表情をしていることに気付いた。

 視線の先は自分自身の腕だった。




 牙が刺さっているはずの腕は、血のあとがなく傷一つなかった。

 それどころか刺さっているはずの牙は全て折れてなくなっていた。


 小次郎が驚いている間に真理は自分の体の半分くらいの犬の体を突き飛ばすことで、なんとか距離を取ることができた。



「アンタ何なんや・・・先輩は狩りは簡単やってゆーてたけど、難しんやな。

 牙が折られたらアンタを食べるのが大変や」

 その言葉とともに小次郎の牙が生え変わった。

 以前のより大きく鋭い、かえしの付いた牙がそこにあった。


「何やってあっしの牙を折ったのか知りまへんが、あっしの牙は何度でも生えてきますで~」




(なんなんだよ、この犬。しゃべったり牙がすぐに生え変わったり。まるで化け物だな)




 真理は小次郎の動きに合わせて後ずさった。

 隙があれば逃げるためだ。

 小次郎に隙が出来る瞬間は二つ。

 一つは攻撃する時。

 もう一つは、予想外のことが起きた時。

 先程の真理の腕の時もそうだ。

 この状況で考えられることは、何者かが乱入してくること・・・




 小次郎が真理に噛み付こうとして地面を蹴った瞬間、猛スピードで空を跳んでいたアテネが蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばした犬の体は手鞠のように公園の奥にすっ飛んでいった。

 アテネは真理のそばに駆け寄った。


「真理、大丈夫!?」

「あぁ、なんとか。

 あの犬、言葉を話したり牙が生え変わったりしたんだ」

「そう、じゃあ犬鬼けんきね」

「・・・犬鬼けんき?」

「鬼の一種よ。まぁその中でも弱い種族だけどね」


 公園の奥から吹っ飛ばされた小次郎がゆらゆらと歩いてきた。


「アンタ誰や?」

「私は竜崎アテネ、魔法少女よ。私の仕事は鬼を狩ることよ。覚悟しなさい」


 アテネは右手にはめた指輪を掲げ、鎌を出現させた。その鎌を構えた。


 すると小次郎はがたがた震え始めた。


「魔法少女や・・・あかんわ」


 そして小次郎は一目散に逃げ出した。



「あぁ面倒くさい。『加速アクセル』!」

 アテネは魔法を起動させると一瞬の内に追いつき、そして鎌を振り下ろした。




 一瞬金切り声が聞こえたかと思うとすぐに元の静寂が戻ってきた。

 公園の奥には胴体を縦に真っ二つに斬られ息絶えた肉塊があるだけだった。

 アテネが追い抜き際に切り裂いたのだ。

 その塊は少しして光の粒子を放ち消えていった。



「竜崎、今のは・・・?」


 真理の今の光に関する疑問にアテネは即答した。


「鬼っていうのは魂を実態化させて肉体を保っているの。

 だから魂が消えると肉体も姿を保てない。

 そして光に包まれて消える。意外とロマンチックでしょ」

「ロマンチックか・・・?」



「そういえばどうして俺が襲われているのがわかったのかい?」

「・・・勘よ。なんとなくそう感じただけ。他意はないわ」

「そうか。まぁ助かったよ。竜崎強いよな」

「まあね。私は"鬼狩りのアテネ"って言われて恐れられてるんだから」

「そうなのか、凄いな」

「もっと私を尊敬しなさい」

「お見それしました」


「そろそろ帰りましょ。他の面倒なことに巻き込まれる前に」

「そうだね」


 真理は公園の芝生の上に落として置いた買ったものを拾い、一つ提案してみた。


「もう一度コンビニ行く?」



 二人は夜道を並んで歩いた。




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