21話 夜会話
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「お見舞いに来てくれたのね、ありがとう」
アテネは階下に降りるとリビングに麗奈の姿を見たので声をかけた。
「体は大丈夫ですか?」
「なんとか、ね。日常に関しては何の支障もなさそうだけど、戦闘の方はわからないわ」
「そうですか、ともかく元気そうで安心しました」
麗奈はにっこりと笑みを浮かべた。
「あれ、魅羅さんは?」
真理は麗奈しかいないことに疑問に思った。
「魅羅さんなら台所で夕食作っていてくれてる」
「あぁ、そうか」
真理はアテネのことをテーブルの椅子に座らせ、台所へ向かった。
「あら、どうしたの?」
「アテネが目を覚ましたので来ました」
「竜崎さんが目を覚ましたのね……えっ!目を覚ましたの!?ホント!?」
「私が嘘をついてどうするんですか?」
「そうだよね……竜崎さんが目を覚ましたのよね。良かった……」
「そうですね。本当に良かったですよ、あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと」
「そうね、それじゃ、今日は豪華なのにしましょうか」
「もう作ったんじゃないんですか?」
「あるもの使って料理してみたけど、これじゃあ少し物足りないから追加で何か買ってくるね」
「あっ、はい。お願いします」
魅羅は着けていたエプロンを外し、アテネと麗奈に要件を伝えて外へ出ていった。
「それにしても、魅羅さんは凄いな。あまり材料がなかったはずなのにミネストローフと肉野菜炒めか。よく作ったよな……」
真理はそう呟きながらリビングへ戻った。
「そう、そんなことがあったの」
「それで……」
リビングでは、アテネに昨日からの出来事を説明している麗奈がいた。
「神内先輩ったらずっとお姉さまのベッドのそばにいたんですよ。時折「アテネ……」って呟いたりして。それこそこっちが呼びにいかないとご飯を食べにこないほど」
「そうだったの、もう真理ったら」
「もう私はなんとお姉さまと神内先輩の愛が深いかよくわかってしまいましたよ」
「そんな愛だなんて……恥ずかしい」
「そんな風に顔を赤らめるお姉さまもキュートです。うぅー神内先輩ぐっじょぶです」
「なにやってんだ……?」
真理は呆れた表情を浮かべながら、リビングで魅羅が帰ってくるのを待つことにした。
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夕食後。
魅羅の作った夕食を食べた面々はそれぞれ思い思いに過ごしていた。麗奈とアテネは互いに並んでテレビを見て、魅羅と真理はそれぞれ本を読んでいた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
魅羅がアテネの方をチラリと見ながら小声でボソリと真理に言った。
「わかりました、それなら私の部屋に行きましょう」
真理は魅羅の言いたいことを察して、自分の部屋へ行くことを提案した。
「ありがとう」
「どうも」
真理は本をテーブルの上に置き、アテネに一言自分の部屋に行くことを伝えてから部屋に向かった。
「へぇ……これが男の子の部屋か……といっても君は女の子なんだったんだっけね」
「まぁ、いいから。それで話とは?」
「えー、つれないな。まぁ、いいや。で、その話というのは、私の雇い主である七つの大罪『嫉妬』の盟主レヴィアタン様からなんだけどね」
「……!」
真理は昨日魅羅からいろいろなことを聞いており、その時に七つの大罪についての話も聞いていたが、今この時にその名前を出されて、体を硬くした。
「いやいや、そんな構えなくても大丈夫だよ。すぐに何かある話じゃないし」
「そうですか。それで?」
「それで、そのレヴィアタン様からの伝言で、『嫉妬』と『色欲』及び『憤怒』はそれぞれ同盟を結び、一丸となって『暴食』に立ち向かい、竜崎アテネの協力もしくは保護をする準備を整え、それを実行することを誓う、だそうです」
「なんだって……!そんな大事な」
「それだけ『暴食』が看過し得ないほど危険だとみなされたからよ。それと同時に竜崎さんの重要度も上がったからよ」
「なんでアテネが?」
「それは、昨日の様子をたまたま海堂学園長の元で居合わせたレヴィアタン様達が、竜崎さんの持つ『憤怒』の力の強大さを感じたからだって。それと『暴食』から一層の注目を浴びたことによって、竜崎さんに万が一が起きることを案じたからだって」
「そうか……それにしても、この話はアテネに直接聞かせられないな」
真理はそう言って苦笑した。
「そうだね。竜崎さん、鬼に対してあまりいい感情を抱いていないでしょ?」
「あぁ、直接は聞いたことないが態度でわかる。魔法少女だからなのか、それとも過去に何かあったのかはわからないが、正直味方だろうとしても鬼は嫌い、いや憎しみの対象だろうな。学園長に対しても、正直一緒にいるのを嫌がっていたからな」
「うんうん、そうだと思ったから、神内君に相談したんだけど、それで良かったようだね」
「あぁ、そうだな。ありがとう」
「それはどうも~」
魅羅は少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「それにしても」
「ん?」
魅羅の思わせぶりな言い方に真理は首を傾げた。
「竜崎さんって何があったんだろうね」
「あぁ」
真理は魅羅の言葉に嘆息をあげた。
魔法少女は先天的な能力に加え、抱え込んだ物の大きさだけ強くなる。それは実証されていないものの、様々な情報を扱っている魅羅やアテネと共に過ごす真理には何となくそうと思える事実だった。もしそうだとすれば、鬼の頂点とも言える『七つの大罪』の力を行使できる竜崎アテネという魔法少女は何を抱え込んでいるのか。新魔法少女という魔法少女の枠組みを越えた存在になったからという理由、さすがに使いこなせば世界を変えることもやぶさかではない力を持った理由にはならない。あまりに強大すぎる力だった。
「直接聞いてみたいところだけど、なんかね」
「アテネの思い出したくもない記憶を引っ繰り返したくない。だから、私は聞けない」
「だよね」
「でも……」
「でも?」
「いつかは知りたい。アテネのことを理解したい」
「そっか」
魅羅はふうとため息を付いて、はたと真理を見つめた。
「そういえば……」
「えっ、何?」
美少女であるアテネといつも一緒にいる真理だが、それまた美少女である魅羅のじっと真理を見る視線に耐えがたいものを感じた。呪いに身を女性に変えられたとはいえ、心は男である真理には少しきついものがあった。
「神内君もなかなか面白い力を持っているようだけど」
「あぁ、これか」
真理は自分の手を眺めた。
真理の持つ力。魔法やその他の超常たる力を弾き、そして消すことのできる力。神から与えられし力。
「これはまぁいろいろあってね。ちょっと話せる内容じゃないんだ」
「それは残念。まぁ、竜崎さんよりは注目度は低いけど、君のことも注目してるみたいだよ。なんだって、その力は鬼にとってはジョーカーだもんね。麗奈ちゃんからも聞いたけど、即効性の呪いを抵抗したんでしょ」
「まぁ、結果的に呪われたけどな。こんな姿になって」
「それでも呪いに少しでも抵抗できるってそうそうできないことだよ」
「そうかな……この呪いもなんとか解呪できるといいんだけどな」
「君ならできるよ」
「うん、ありがと」
真理と魅羅はそれからどうでもいいことを少し話して、階下に戻った。
魅羅と麗奈はそのまま前日通り泊まることになっていたので、4人はそのままだらだらと夜が更けるまで過ごした。
深夜、真理は寝ようとベッドに横になり、ふと自分の姿が少しずつ元に戻ろうとしていることに気づいた。小さかった身長が少しずつ大きくなり、体つきが少し元の筋肉質になっていくのがわかった。それに伴って、言葉使いも少しずつ元のものに戻っていることまでは気づかなかった。
次の日。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「今日は無理しないでね」
「わかってるわ、今日一日はゆっくりさせてもらう」
真理は静養するアテネに声をかけて家を出た。
そのまま学校へ行く道を通る、訳ではなく駅の方へ向かった。真理は学校は当然のように休むのだった。
「やぁ」
「ちょっと遅かったかな」
「いや、時間ピッタリだよ」
真理は駅で黒岩と出会った。
本日真理は、黒岩との約束を果たすべく動くつもりだった。
「それじゃ、行こうか」
「うん」
次回は12月8日0時を予定しています。