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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
74/123

19話 暗闇の中から

 ■■■


 桐陵(こうりょう)学園学園長室。


 窓辺に男と女が二人づつ、計四人いた。そのうち一組の男女はこの学園の代表である海道左丹と、その補佐をする舞島凜だった。この二人は今では学園に勤める存在だが、以前は七つの大罪の内の一つ『憤怒』を司るサタンとその補佐のリーンだった。


 もう一組はというと。


 「サタン、これはどういうことなんだ?」

 「そうね、ここまでの力だとは思わなかったわ。まるで全盛期の貴方みたいの力とは・・・・・・」


 男の方は、『嫉妬(インウィディア)』を司るレヴィアタン。こちらにお忍びで来ている時はレヴィ・アストロノーツと名乗っている。青眼金髪の偉丈夫で薄いピンクのスーツを纏っていた。

 女の方は、『色欲(ルクスリア)』を司るアラクネ。背中の中程まで垂らした黒髪に出るところは出ているグラマスなプロポーションを持っていて、ピンクのパンツスーツを着こなしていた。


 「私にも詳しいことはわからない。ただわかるのは彼女がすでに『憤怒(イラ)』の因子を持っていたということだけだ。まさかここまでとは私も想定はしていなかった」

 左袒はそう言ってふぅと溜め息をついた。


 「たしかにその話は前にも聞いたことがあるが……本当なのか?」

 「去年の7月。『水蛇(すいだ)の女王』が偽物(レプリカ)の『傲慢(スペルビア)』を持ち出したとき、彼女は『憤怒(イラ)』を自らの身に流し込み竜の姿を取った。本来なら暴発して木っ端微塵になるところだが、それを回避してわずかながら扱ってみせた。その後、力を使って確認したところ『憤怒(イラ)』の因子を持っていることがわかった」

 「そこまでのことが……本当に彼女は人間?」


 アラクネの言葉に左丹は首をすくめた。

 「彼女は魔法少女だからね。そもそも人間という枠から外れている。しかし、先程の『暴食(グラ)』の犬の話じゃないが、まんざら嘘ではなさそうだな」

 「魔法少女と我々鬼との関係か?実に滑稽な話だと思ったが、我々の研究結果でもその可能性は出てきているしな」

 「私のところではまだわかってないけど、なんか感覚的に通ずるところはあるよね」

 「まぁな」


 左丹は手元のカップを手に取り、再びため息をついた。


 「『暴食(グラ)』の奴はどうにかしないとな」

 「とにかく私達はここで同盟を結びましょう」

 「そうね、あの存在だけは七つの大罪の一つが立ち向かっても無理そうだからね。さすがに『嫉妬(インウィディア)』と『色欲(ルクスリア)』と引退した『憤怒(イラ)』の三つが合わされば雑作ないでしょう」

 「彼女が『憤怒(イラ)』の因子を持っている以上奴は狙ってくるのは当然。それならば今の『憤怒(イラ)』を司ってるアイツにも手を貸してもらうからな」

 「それは頼もしい。瞬間火力だけ言えば現在の『憤怒(イラ)』を司るアーク殿ですからね」

 「アイツは、そう奴だ。直情的で、だから頼める」

 「貴方だからそう言えるのでしょう、責を任せた貴方だからこそ」


 アラクネは憂鬱げに窓の外を見た。


 「今後どうなるのでしょうね」







 ■■■


 神内家にて。

 ベッドに寝かせられたアテネを中心に真理・麗奈・魅羅がいた。家まで付いてきた黒岩は用事があるとか言って帰っていったのだった。この3人はアテネのそばでそれぞれ椅子に座っていた。真理はアテネの一番そばにいてアテネの手を握っていた。

 「とりあえず、このまま寝かせておこう」


 真理はアテネに布団を胸元まで掛けさせて上げた。


 「さて、何があったか聞かせてもらおうか」


 真理の言葉に二人はこくんと頷いて先程あったことを事細かにぽつぽつと語っていくのだった。



 ……


 ……


 「そうか、そうだったのか」


 真理は複雑そうな表情を浮かべたままゆっくり言葉を吐いた。

 アテネと一年近く過ごしてきた真理には、アテネのことがよくわかった。アテネが何を感じたのか、何を抱えていたのか。アテネから直接聞いたことはないが、長く一緒にいればそれぐらい真理にはわかった。アテネの抱える過去、それがすべての始まりだったことが。


 「……」

 「……」

 「……」


 一先ず話が終わり、一同は黙りこんでしまった。

 すでに夜になり部屋の電気が煌々と輝いていた。

 外は立地のせいか、ひっそり静まり返っていた。誰も話す人がいないせいか、静けさがやけに耳に響いた。


 「……あの、神内先輩」


 静寂に耐えきれずに言葉を掛けたのは麗奈だった。


 「何?」


 見た目はまだ幼さを見せる少女だというのに、その表情には苦悶を浮かべた真理は、それまでうつむいていた顔を麗奈に向けた。


 「あの、私たちに何かできることはありますか?」


 麗奈のその言葉に、真理は首を振った。


 「()は何もできない。アテネが目を覚まさないことにはこれからのことは何もできない。そう、たしか『殺戮の少女(キリング・キティ)』って言ったな。魔法少女から魔女になったという」

 「はい」

 「それはどうしたんだい?」

 「それはこちらに」


 そう言って麗奈は大事ものを入れるために持ち歩いている巾着袋から一つの小さな黒い玉を取り出しました。


 「この中に閉じ込めてあります」

 「その、君の呪いで?」

 「はい、そうです」

 「そうか……それならそれは大事にしなくちゃね。それは君の友達だったんだろ?」

 「……はいっ!」


 真理の思いがけない言葉に麗奈は何ともいえない優しい気持ちに包まれるのを感じた。


 「残念な結果になったけど、それは君のせいじゃない」

 「わかってます、でも」

 「あまり自分を責めるな。責めすぎると、こうなる」


 真理は首でアテネを指し示した。麗奈は口をつぐんだ。


 「いつかはこうなるんじゃないか、そう思ってたよ。鬼を憎んで、自分を責めて、怒りに身を任せて」


 真理は淡々と言葉を続ける。


 「アテネさんがこうなった理由が分かる?」


 魅羅の言葉に真理はゆっくりうなずいた。


 「まぁね。詳しくはアテネの秘密だから言えないが、アテネの力が暴走を起こしたためだ、これは」


 麗奈と魅羅はじっとアテネを見る。


 「そのトリガーとなったのが、そのクロワールという鬼だろう。アテネの怒りに火を注いだ張本人だ」


 真理はふぅとため息をついて、アテネの手をぎゅっと握りしめた。


 「アテネ……早く帰ってきてくれ」






 ■■■

 

 見渡す限りどこまでも広がる真っ暗な闇。


 音も何も聞こえやしない闇。


 上も下もわからない闇。


 私はそんなところに一人うずくまっていた。頬と膝をくっつけて瞼を閉じていた。


 私はなんでこんなところにいるのだろう。


 そう思うものの頭の中に靄がかかっているようでうまく考えられない。


 何があったんだろう。いや、私は何をしてしまったんだろう。


 自分の中で何かが弾け、何かが変わってしまった。


 それだけしかわからなかった。


 私は、どうしたいの?





次話は11月24日0時を予定しています。

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