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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第2章 『餓鬼』の騒乱
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15話 モトニハモドレナイ


 「さて、君達は知っているかい、一つの世界の心理を」


 クロワールはどこか陶酔したような声で語り始める。


 「魔法少女とは、一つの願いを叶える代わりに我々鬼との戦いを宿命付けられる存在だ。これは君たちもよーく分かっていることだろう」


 クロワールは目の前にいるアテネとその奥にいる麗奈の方へ指を突き出した。


 「しかし、疑問に思わないかい?魔法少女は何なのか。もうすでに人間ではない。そもそもエントロピーを凌駕する存在は、私たち鬼と天界の存在しかいない。天界の存在はそもそもこの世界に現界することはできないなら、魔法少女はどういった存在なのか」


 クロワールはくいくいと指を動かし、言葉を続けた。


 「様々な実験を重ね、私は一つの結論に達した。魔法少女も、我々鬼も本質は同じ存在だということだ」




 クロワールのセリフにアテネはグリフィンをより握り締めた。



 「魔法少女は希望を糧にし、我々鬼は欲望を糧とする。たったそれだけの違いなんだよ、君達と私達は。そしてそれに気づいた私は、魔法少女に極度の絶望を与えてみた。被検体のほとんどは耐えきれずに消滅してしまったけれど、唯一この『殺戮の少女(キリング・キティ)』だけが魔女化に成功した」



 アテネはぎりっと歯を噛み締めた。クロワールの話を聞く限り、アテネが倒そうと躍起になっている鬼が自らと同質な存在ということになる。自分や他の魔法少女が倒すべき敵と同じだなんて、信じがたく、そして許せなかった。



 「そう、そうやって貴様は私達を動揺させようとしているのね」

 アテネは出しうる限りの低い声でもってクロワールに敵意を向けた。



 「まぁまぁ、君達が信じられないのはわかる。だが、そこの小娘が『凛』と言っていた『殺戮の少女(キリング・キティ)』の存在はどう説明するのかい?あれは紛れも無く魔法少女から魔女に変わった存在だ。希望を失い絶望し、欲望を糧とするようになった存在だ」



 「そんなの嘘だ!」


 麗奈は凜を抱きしめながら叫んだ。


 「凜がそんな化け物になっているだなんて嘘だ!」


 「残念ながら、君の思っている凛という少女はもうすでにいない。ここにいるのは魔法少女の成り果てた魔女だからな。どうしてだか今は正気を保っているようだが、直に本来を取り戻し瘴気をまき散らすだろうよ」


 「あっ、アァ!ガアアああアアああアアああああああああアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアア」

 クロワールの言葉に反応してだか、『殺戮の少女(キリング・キティ)』は体をうずくまらせ悲鳴と雄たけびが同居したような声を上げた。


 「凛!ねぇ、ねえってば!」


 麗奈の叫びを聞きながらアテネは一つの考えに至った。


 (あの白衣犬の言った通りだとすれば、確かにあの凜という“魔女”の存在も理由がつく。『暴食』の奴らが何をやってきたかもよくわかった。

 そして、私は何をしたらいいかがよくわかった!)


 アテネはクロワールを睨みつけながら左手を前へ突き出しぐっと握りしめた。



 「魔法少女が鬼と同じ存在だとか・・・そんなことは今はどうだっていい。私はただ目の前にいる憎たらしい鬼を倒すだけ」


 アテネは左手に埋まる指輪に魔力を送り込み、それに反応しあふれ出す力を体に取り込んだ。



 「我の呼び掛けに応じて目覚めろ、禁術『竜の力(ドラゴンソウル)』」



 アテネの目は金色に輝き、その体に内包される魔力は膨れ上がり、辺り一帯に風を吹かせた。アテネの周りには風が渦巻き、アテネの口からはわずかに火の粉が立った。




 「ほぅ、それは・・・!まさか、『憤怒(イラ)』の力なのか!」


 クロワールは驚き慌てふためいたものの、どうも好奇心を抑えられないらしくアテネの中にある力を眺めた。


 「麗奈、あきらめなさい。もう、その少女は元には戻れない。そのことはあなただってわかっているでしょ」

 「わかってる・・・わかってるけど!」

 「あきらめないと、あなた死ぬわよ。その少女に切り裂かれて。さっきは何とかできたけど、次もうまくいくかは分からないし、何より、目の前に」


 アテネはいったん言葉を切った。そして少し息を吸い込んだ後、吐き出すようにして言った。


 「目の前に、こんなことをした張本人がいるじゃない。それを見逃すつもり?賢いあなたならわかるでしょ」



 アテネの言葉に、麗奈はうずくまったままの『殺戮の少女(キリング・キティ)』から体を離し、よろよろと立ちあがった。



 「・・・あきらめなければいけないんだよね。全部が全部自分でどうにかできるはずがない。そういうことなんだよね」

 「・・・えぇ。辛いだろうけど、決断しなければいけない。そこでその少女をかばったまま私に焼き尽くされるか、それとも私と共に闘うか!」


 アテネの言葉に麗奈は少し迷いを残しながらも答えを返した。


 「・・・私も闘う!今できることをすればいいんでしょ、お姉さま」

 「そう、その通り」


 アテネはグリフィンを水平に構えた。グリフィンはアテネの力に包まれて黄金に輝いた。

 対するクロワールはアテネ達の姿を見て苦笑を浮かべた。


 「そうかい、そうかい。まったく私は研究職で戦うのは得意じゃないんだけどね。ここで死ぬのは嫌なんでね、せいぜい足掻かせてもらうよ」



 クロワールの言葉に、アテネは犬歯を剥き出しにして吠えた。


 「ここで、お前を倒す!そのふざけた研究だかと共に、消し去ってやる!」




 そして、戦いは再び始まった。




思ったより話が進みませんでした。

次話は10月27日0時を予定しています。

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