12話 白雷の能力者(2)
「わたす・・・わけには・・・いかない」
真理はボロボロになりながらも気力だけで立ち上がる。
「そうか・・・」
黒岩は呆れたような表情を浮かべながら言い放った。
「ならば無理やりにでも奪ってやる。今度は俺自身の全力でな」
黒岩は剣を振りかぶった。銀色に輝かせながら刃は天を向く。
「『響雷』」
剣からいくつもの電撃の鞭が現れ、真理に襲いかかった。
「『シールド』」
先ほどの一撃で服はボロボロになっていたものの、魔力ともに体力がそれなりに残っていた真理は考えた。
どうすれば黒岩を倒せるか。拳しか武器がない自分が、いかにして雷の異能力と剣を扱う敵に打ち勝てるか。
能力を弾くことのできる真理の力『シールド』に魔力を注ぎ込み、襲いかかる雷の鞭を次々と弾き飛ばしながら、黒岩へ接近する。
「疾っ」
両手を使いながら雷の鞭を弾き飛ばしていく真理に、黒岩は斬りかかった。
「あっ『アイギス』」
真理は腕に『アイギス』を掛け、剣の一撃を受け止める。
黒岩は剣が受け止められるや否や引き戻し、再度剣を振るう。
「くっ」
真理はなんとか黒岩の動きについていき、剣を受け止め隙があれば拳で殴りかかった。
「喰らえ」
真理の『アイギス』を張り巡らした拳は黒岩の心臓の位置を捉えた。
しかし、黒岩は後ろに飛ぶことにより衝撃を弱めた。
「甘いんだよ」
黒岩は後ろに飛びながら剣を振るう。
殴りかかった体勢のままの真理は回避する術を持たなかった。
「ぐっ」
黒岩の不安定な体勢からの一閃だったため致命傷足り得なかったが、真理の右肩に傷を付けた。
真理は痛みに足を止める。
後ろに飛び、距離をとった黒岩は上段に剣を構え、真理に振り下ろした。
真理は右に転がることにより回避し、すれ違いざまに黒岩の足に『アイギス』を掛けた足で蹴りつける。
「ちっ」
「負ける・・・訳にはいかない!」
「はっ!」
黒岩は低い体勢のままの真理に喉を狙った突きを放つ。
「『アイギス』!」
真理のとっさの『アイギス』が間に合い、喉への一撃を防ぐ。
「どこでも硬化できるようだな。だけどこれはどうだ!」
黒岩の剣が一際銀色に輝き、雷を放つ。
鞭のようにしなって現れた電撃は真理の身体を穿った。
「がああああああああああ!」
その雷は『シールド』では耐えられないほどの一撃だった。真理は体を弓なりに反らし硬直した。
黒岩が真理の隙を見逃すはずもなく、剣を真理の左腕に突き刺した。
真理の身体から力が抜け、地面に崩れ落ちた。
「はぁはぁ・・・、これで君はもう立ち上がれまい。さぁ、よこせ。その力を」
黒岩は再度取り出した黒光りする石を真理に押しつけた。
「・・・!」
「これは“シャイの石”。俺がその力を手に入れるために用意した魔法の石だ。この石を媒介として君の力が俺のものへとなる。案ずるな、君の命まで取るつもりはないんだから」
“シャイの石”が緑色に輝くと同時に、真理の体も緑に輝く。
「これで、やっと俺は・・・!」
「いや・・・だ、わたしは、まだ・・・アテネを・・・!」
“シャイの石”は大きく輝き、そして
耐えかねるようにして砕け散った。
破片はばらばらになりながらも輝き続け、真理の体に吸い込まれるようにして消えていった。
「なに・・・が、起きたというんだ・・・」
「私は知らない、ただ一つ言えるのは、私の力はそんなもの程度で奪えるものじゃないということ」
「・・・!」
地面にひれ伏していたはずの真理が立ち上がっていた。
いまだ血を垂れ流したままの真理だったが、その目は力強い光を灯していた。
「今だからこそわかる、誰だって守りたいものがあるということを。
あの石はあなたの想いを教えてくれた。あなたにも守りたいものがあるんでしょ?」
「・・・・・・」
「でも、それは自分の手でこそ守るから意味がある。そうじゃないかな」
「俺の力では守れなかった。だから・・・!」
「だったら、素直に助けを求めればいいんじゃない?」
「・・・・・・」
「助けを求めることは自分の力で守ることとは反しない。だって、助けを求めることだってあなたの想いを相手に伝えなければいけないじゃない。そうやって得た助けは、立派なあなたの力」
「俺は・・・間違っていたのか」
「そう、だから決着をつけよう」
「・・・・・・そうだな。例え俺が間違えていたとしても、俺が勝てばそれは俺が間違っていなかったってことだ」
「だけど、私が勝つわ」
黒岩は剣を中段に構える。
対する真理は両手を揃えて見えない何かへ手を伸ばしていた。
「拳しか武器がない君に俺を倒せるか?」
「たしかにそうだね。だけど、これはどう?」
真理の手の先に膨大な魔力が集まり、空間を歪めていく。
真理の頭の中には先ほどから浮かんでいた一節の言葉があった。
それを真理はなぞるようにして唱えていく。
「我と、盟約の契約を交わせ、いかなる時も我の力と為せ」
真理の目の前の空間がきしむような音を立てながら歪みを強くしていく。
「ここに『理の剣』現出しろ!」
パーンと音を立てながら、真理の目の前の空間が弾け、一振りの純白の剣が現れた。
一点も染みも曇りもない両刃の剣はふわふわと浮かんでいた。
真理はそれを手に取り、一振りした。
それは初めて剣を持ったようではなく、まるで何年もの間使ってきたかのようだった。
「その剣は・・・!」
「これが私の力。これであなたの間違いを正す!」
黒岩は中段から剣を軽く振り上げ真理の手を狙って斬りかかる。真理はそれを後ろに飛ぶことで回避した。
真理はすぐに地面を蹴り、黒岩へ急接近する。
「うっ」
黒岩は突然真理の接近に剣を合わせることによってガードする。
キンッ、と音を立てて剣と剣がぶつかり合う。
二人はしばし鍔迫り合いをした。黒岩が力を込めて押し込み、対する真理は涼しい顔をしてそれを受け止めていた。
先に動いたのは黒岩だった。
黒岩は大きく剣を弾き後ろに飛んだ。そして手から『白雷』を放つ。
「くらええええええええええ!」
いくつもの銀色の電撃が真理に襲いかかった。
それを真理は剣で凪いだ。
電撃は真理の剣に触れた途端に消し飛んで行った。
「なっ・・・!」
「甘いよ」
黒岩は先ほど言ったセリフを返しながら真理は涼しい顔のままそこに立っていた。
「もう一発!」
黒岩は再び電撃を出し、真理にぶつける。
「だから無駄だって」
真理が再び剣を振るうことで電撃はかき消されていく。
「無効化しているのか・・・!」
「そうだよ、あなたの攻撃は私には届かない」
「なっ、ならばこれはどうだ!」
黒岩が剣を振り上げ、能力を集中させた。剣の先から銀色に輝く巨大な電撃の塊が形成されていく。
「たしかにそれなら、この剣では捌ききれなさそうね」
「そうだろうとも!喰らえ『破壊球』!」
巨大な電撃の塊が真理に向かって振り下ろされる中、真理は左手を伸ばした。
「『無辺世界』」
真理のその一言で電撃は砂の塔のように崩れさっていった。
「なっ」
「これで終わりっ!」
真理は一飛びに黒岩の目の前に移動し、黒岩の心臓の位置に剣を突き付けた。
「これで力を入れればあなたは死ぬ」
「・・・俺の負けだ。一思いに俺を殺せ」
「あなたが死んだら、誰が恵理って娘を助けるの?」
「・・・っ!」
「あなたが守りたかった人なんでしょ。だったら今度こそは助けてあげなきゃ」
「・・・・・・」
黒岩の手から力が抜け、剣を取り落とした。
「あなたにはやるべきことがある。私のことはいいからもう行きなさい」
黒岩はきっと真理を見つめた。
「頼む、俺を・・・恵理を助ける手伝いをしてくれないか!?君しか頼れる人がいないんだ!」
「わかった」
「ホントか!?」
「私は嘘はつかないわ。とりあえず詳しい事情を知りたいんだけど・・・先にここから動こうか」
真理と黒岩の周りはぼこぼこと穴が空いており、とても何事もなかったとは言いようもないほどだった。
「改めまして、私の名前は神内真理。あなたは?」
「俺の名前は黒岩智。よろしく頼む」
次話はアテネVS『殺戮の少女』となります。