挿入話 『嫉妬』と『色欲』
『七つの大罪』のお話です。ようやくこの章の核心部分に触れ始めてきたところです。
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そこは暗闇の中ひっそりとそびえ立つ城だった。ヨーロッパにあるような西洋風の城。ただし色は黒一色だった。どこか瘴気が漂っているようで、そのまま何も見なかったことにして帰りたくなるような場所だった。
そんな城の一室に“彼”はいた。“彼”は金に縁取られた見るからに高価そうな椅子、いや玉座に座り物憂げな表情を浮かべていた。片手をひじ掛けに置き、もう片方の手で顎を押さえていた。
そんな“彼”の許に一人の“男”が駆け寄って来た。
「ご報告に上がりました、レヴィアタン様」
“彼”、いやは『七つの大罪』の『嫉妬』を司るレヴィアタンはそれまで思想の海に意識を漂わせていたのを目の前に戻した。
「うむ、どうだったか?」
「それが・・・想定以上に危険です。戦力の増強が目立ちます」
「そうか」
「それと・・・つい先ほど、魔法少女の魔女化実験に成功した模様です」
“男”の言葉にレヴィアタンは驚きの言葉を上げる。
「なっ・・・なんだと。あれは自然発生こそ有り得るが、人工的には不可能だったはずだが」
「それが・・・成功してしまったようです。戦闘能力は側近程度だそうです」
「それは、まずい。私らだけで争うのは構わないが、それだけの戦力で混界に乗り込んでいったら・・・世界は騒乱に巻き込まれる。私らもただじゃ済まなくなる」
「・・・兵を向けますか」
「そうだな・・・今ある兵をすべてかき集めろ。そして、アレを動かせ」
レヴィアタンの言葉に“男”は呆然とした表情を見せる。
「アレですか・・・問題ないのですか?」
「構わん、それで平和を保つことができるのなら。相手はいくら新参者とはいえ『七つの大罪』だ。手を抜くわけにはいかない」
「わかりました。それと彼らも・・・?」
「そうだな、彼らに対して、もう向こうは接触してきたのだろ?」
「はい、“谷”で動きを拘束したようですが、それを見事破り交渉決裂した模様です」
「それは良かった。彼らにも話をつけといてくれるか?辛い役目とはいえ頼む」
「わかりました。できるだけ刺激しないように穏便に協力を取り付けてきます」
「魔法無効化の力を持つ者と目を見張るほどの攻撃力を持つ者である彼らの存在は必要だからな」
「必ずや協力してもらえるように行ってきます」
「くれぐれも無理だけはするな」
「はっ」
“男”は早々に部屋を後にした。
一人残った、この部屋の主はため息をついた。
「戦乱の時か・・・困ったものだ」
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「あら・・・ついに魔女化に成功してしまったのね」
一人の“女”は言った。
その“女”の名はアラクネ。『七つの大罪』の『色欲』を司る者だ。
アラクネは優雅にワインを嗜みながら報告してきた侍女に言いつけた。
「仕方ないわね。メデューサ、もう一仕事頼むわ。あなたは今動かせる勢力全てに戦いの準備をさせておいてほしいの」
「わかりました、御姉様の申すままに」
「お願いね、後でたーくさんかわいがってあげるわ」
「・・・頑張ります」
メデューサは顔を赤らめたまま部屋を後にした。
「それと、バランクス。いる?」
「はい、いますよ、御姉様」
アラクネは声をかけると同時にどこからか執事服の男が現れた。
「まぁ、あなたまでそういう風に言うの?」
「いいじゃないですか、御似合いですよ」
「はぁ、まぁいいわ。あなたは混界にパイプがあるでしょ?」
「はい、手駒はそろえてあります」
「じゃあ、それ使って、この男の子のこと捕まえてきてくれない?」
アラクネが取り出した写真を見てバランクスは微笑みを浮かべる。
「もうすでに準備中です」
「あらっ、早いのね」
「考えていることはわかりますよ、“彼”の力は『暴食』を抑える可能性を持つものですものね」
「そうよ、それなりの待遇で迎える価値があるわね」
「それと、アラクネ姉さん。アレは使うのかい?」
「あぁ・・・アレね。好きにしていいわ」
「ありがとうございます」
「あなたのことも、後でかわいがってあげるね」
「ふふっ、かわいがられるのはどちらでしょうかね」
「あら、私に勝てると思っているのかしら」
「万が一ということもあるでしょ?」
「ふふふっ、楽しみね」
アラクネはにっこり笑みを浮かべる。
「目障りな『暴食』を抑えつければ、私達は安泰ね」
「ですね」
バランクスは同調する。
「さーて、頑張りますかーな」
アラクネは立ち上がり、更衣室へ向かった。戦いの衣装へ着替えるために。
挿入話はこれでいったん終わりです。次話から本編に戻ります。