7話 急襲
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無事にその日の授業が終わり、放課後。
アテネと真理は二人して学園長室にいた。
「ふむ・・・」
「どうですか?」
と、アテネが問いかける。
「やっぱり、無理だな。私の手には負えない」
「そうですか・・・」
真理はしゅんとした表情を浮かべる。
「これについては一応様々な伝手を頼って情報を集めてみるが、あまり期待はしないで欲しい」
「わかりました」
「神内、頑張れ」
「はい」
アテネと真理は学園長室を出て校門へ向かった。
「そうだ、真理」
「なに?」
「ちょっとさ、今日はお刺身食べない?今日頑張ったんだし」
「・・・ありがと、アテネ」
「ううん、私は今できることをしているだけ」
「じゃ、買いにいきましょ」
アテネと真理は商店街の方へ足を向けた。
しばらく歩いたところで、向かい側から一人の男が向かってきた。
その男は白く光沢のあるスーツを着た背丈の大きかった。顎にはまったく髭が生えていなく全体的に清潔な印象を与えた。年齢は、20代後半ぐらいだろうか。100人が見たらその内90人がイケメンだと言いそうな顔だった。
アテネはふとその男が気になった。その格好、視線、挙動、その内全てが気になってきた。興味などではない。警戒だけだった。
「ちょっと、いいかな、そこのお嬢さん方?」
その男はアテネと真理に話しかけてきた。ちょうどアテネ達の進行を妨げるようにして立ちふさがった。
「何か用かしら」
「ちょっと、君たちにお話があるんだけど・・・いいかな」
その男はどこか人当たりの良さそうな表情を浮かべた。いわゆる甘いマスクだ。
「あなたと話す理由はありません。そこをどいてくれませんか?」
「そんなつれないこと言わないでおくれよ。話す理由?それなら、あるよ」
男はパチンと指を鳴らした。
パチンという音は大して大きくなかったはずのに、その音がやけに大きく聞こえるのをアテネは感じた。
そして、男を中心にして円状に影が広がり、アテネと真理は飲み込まれた。
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「けほっ、いきなり何なのよ」
アテネは咳き込みながら呟く。アテネと真理の目の前には砂地が広がっていた。
「どうやら、あの人は人間じゃなかったんだね」
「そうね・・・たぶん鬼。そしてこれは」
「“谷”、でしょ」
アテネはこくりとうなずいた。
「さーて、張本人さまはどこにいるのかな」
「私はここにいるよ」
アテネが振り向くとそこには先ほどの男が立っていた。
「すまないね、人に聞かれないようにするにはこうするしかなかった。迷惑をかけたようだね、すまない」
「迷惑をかけたという自覚があるのならば、早くここから出してくれないかしら。喉がイガっぽいのだけれど」
「わかった。先に自己紹介をしておこう。私の名前は地下だ。『七つの大罪』という名前は知っているだろう?その内の「暴食」を司る餓鬼様の直属の部下だ」
「地毛?」
真理は思わず聞き返した。
「違う!『地下』って書いて『地下』って読むんです」
地下は勢い込みながら訂正する。
「嫌な思い出でもあるのかしらね・・・」
アテネは呟いた。
「私の名前は知ってるとは思うけど、竜崎アテネ。こっちは神内真理」
「わざわざありがとう。さて、」
地下はまっすぐアテネと真理を見つめた。
「君たちにしたい話というのは・・・簡単にいえば協力してほしいんだ」
「・・・どういう話かしら。一から説明してほしいのだけれど」
「餓鬼様からの勅命で、君達の力を貸してほしい。そのために餓鬼様の本拠地まで来てほしい」
「力を貸してほしい理由は?」
「それは私は聞かされていない。代わりに報酬は弾む。望むだけの金品は渡そうとおっしゃられていた」
「そう、で、どう思う、真理?」
アテネはじっと固まったままの真理に話を振った。
「真意がつかめない。それと、」
真理は声を潜めた。
「嘘をついている。おそらく力を貸してほしい理由を知っている。そして、どこからか悪意を感じる。感じる魔力が、黒い」
真理は女の姿になってから、以前より力が強くなっている感覚を持った。また、魔力をより感じれるようになっていた。
その魔力にどのような意志が込められているか、大まかな色でわかるようになっていた。
「そう」
アテネはそういうと、きっと地下を睨みつけた。
「悪いけど、この話は断らせてもらうわ。リスクとリターンが釣り合わないように感じるし」
アテネは拳を握りこんだ。
「さぁ、話はおしまい。早く私たちを戻しなさい」
「そうか、それが君たちの最終決定か。素直じゃないね」
「力ずくで私たちを屈服させる?」
「そう、させてもらおうか!」
「変身」
アテネはキーワードを唱え魔法少女のコスチュームに変身した。白襦袢に赤の打掛の出立ちでアテネから威圧感が出ていた。そして、指輪を鎌型法具グリフィンに変化させて右手で構えた。
真理は敵を睨みつけながら拳を握り締め腰を落とした。
対する地下は左手を伸ばしただけだった。
「さぁ、始めようか」
アテネが魔法を発動させる。
「『二重加速』!」
アテネの体は残像を残しながら地下に接近した。
「セィ!!」
アテネの振りかぶったグリフィンが空気を切り裂いて地下に殺到する。
地下はバックダッシュを敢行して一撃から逃れようとする。
「甘い!」
アテネはグリフィンの軌道を修正して地下に突進する。
「行け、罪を与える者よ」
地下は後ろに飛びながら言葉を発する。
アテネは構わずにグリフィンを構えながら突進する。その先を突如現れた黒い物体が塞いだ。
「らぁっ!」
アテネは構わずにグリフィンを切り上げた。
その黒い物体はぶちりと音を立てて切れた。中から黒い液体が迸る。
「くっ」
アテネは突然のことに足を止め、後ろへ飛び下がった。
「まったく、君がそこまで早いとは思わなかったから準備が間に合わなかったじゃないか」
地下はくすりと笑う。
真理は後ろに気配を感じ振り向いた。そこには黒い醜悪な顔をしたまさに“鬼”がいた。
“鬼”は腕を振り上げてきた。真理は横に飛ぶことで回避した。
「さぁ、どうだい。君は私に勝つことは出来るかい?」
地下は高笑いをした。
笑い声があたりに広がっていった。