6話 和解
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「ええっと、ややこしい話なんだが・・・」
朝のHR。福井先生は心底疲れたかのように言葉を続けた。
「今まで一緒に学んできた神内真理君が家の事情で転校することになった。もう向こうへ行ってしまったから挨拶とかはできない。
そして入れ替わるようにしてその双子の妹の神内真理さんが転校してくることになった。それでは、どうぞ」
福井先生に促されて真理は自己紹介を始める。
「この度、転校してきた神内真理と言います。兄とは家の事情で入れ替わるようにしてこの学園にやってきました。兄からいろいろと話は聞いていましたが、わからないこともあると思いますので教えてください。よろしくお願いします」
真理はそう言ってぺこりと頭を下げた。
歓声が沸き起こった。
「神内、席は・・・あそこがいいな。それと詳しい自己紹介は後でやってくれ、いいな。それでは、今日の配布物は・・・」
真理の席はちょうどアテネの隣だった。
「よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
真理とアテネは他人行儀のように挨拶をした。
真理は席に座り、ふと視線を感じて後ろを振り向いた。
しかし、特に何かがあるというわけではなかった。
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休み時間。昨日と同様に転校生に群がる生徒達。
真理はそれらを無碍にすることなく応対した。そのおかげか、真理は“真理”として受けられていった。まるで真理のことは忘れ去ったかのように。
真理にとってそれは、複雑な気持ちにさせるものだった。自分はたしかに男だったのだが、今では女。今生きていくためには女になりきる必要があるが、それは同時に元の自分を忘れさせることになるのだった。
「ふぅ」
昼休みになっても質問攻めはあったが、真理の親身な対応によってそれは徐々に沈静化していった。沈静化していった原因はアテネにもあるようだったが。アテネがひとたび睨みつけると、周りの生徒たちは恐れをなして質問するのを止めていった。
質問はまだ続いていたが、アテネが半ば強奪するようにして真理は中庭までやってきた。
「大丈夫だった?」
「とりあえずこっちはクラスの人の顔ぐらいは知っているから、相手が望みそうな回答をしていれば良かったから。そこまで大変じゃなかったわ」
「それじゃ、ご飯を食べましょ」
「うん」
アテネは買ってきたパンを取り出した。
今日は真理は転校生ということなので購買の場所を知らないはずだ。そのため真理は購買に行くことはできないアテネはそこのところを考慮して先に二人分のパンを買っておいたのだった。
「とりあえず、順調だね」
「そうね、学園長に感謝ね」
真理がこの学園に転校してくる過程で学園長の惜しみない支援があった。学園長とは『水蛇の女王』事件以来親交があり、真理が女になってしまった夜アテネが電話したときに学園長は即バックアップするといった。現に学園生活を送るための諸問題のほとんどを学園長は一人でわずか数日で解決させた。
「はぁ、後は元に戻る方法か・・・」
真理がそう言いながら寝転がる。
「汚いわよ」
「ちょっとぐらい・・・」
「まったく」
アテネはわずかに微笑む。
しかし、すぐにその表情は強ばった。
「何者!」
アテネはすくっと立ち上がり、拳を突き出した格好で警戒した。
「私です、お姉さま」
木の影から現れたのは、麗奈だった。
「何か用かしら、やっと少し落ち着いたところなのだけれど」
「いえ、そういうわけではなく・・・謝りたいのです」
「「はぁ?」」
アテネと真理は二人してポカーンとした表情になっていた。
「初めは呪い掛けてすぐに元に戻すつもりでした。ですが、こんなことになってしまい申し訳ありません!」
麗奈は深々と頭を下げた。
「あれからずっと考えて・・・お姉さまだけでなく、被害者である神内さんにも申し訳ないと思って・・・」
「私に謝るより先に真理に向かって謝ってよ、一番辛い思いをしているのは真理なんだから」
「神内さん、こんなことをしてしまい申し訳ありません。代わりといっていいのかわからないですけれど、私のことを好きにしてください!」
「えっ?」
「煮るなり焼くなり、どういう仕打ちをしても構いません」
「ちょっと、待って。話が見えないんだけど」
「はい」
「えっと、なんでそんなことになるの?普通に呪いを解いてくれればいいんだけど」
真理のその言葉に麗奈は俯いた。
「そのことなんですけれど・・・残念ですがその呪いは私には解けません」
「「えっー!?」」
アテネと真理は言葉を失った。麗奈に呪いを解かせれば万事解決だと思っていたのに、これでは新たな解決方法を見つけざるおえない。
「神内さんに呪いをかけたときに、呪いの機能が一部破損しました。多分その時に解呪機能も破壊されたのだと思います。昨日の夜からずっとアプローチしていますが、反応がないですよね」
「じゃあ、どうすれば・・・」
アテネが呟く。
「別の解呪方法を模索するしかありません。私も探していますが・・・まだ見つかりません」
麗奈が残念そうに答える。
「・・・こうなるのか、やっぱり」
真理は俯いていた顔をあげて言った。
「錦城さん、一ついいかな」
「呼び捨てでいいです、私は後輩ですし」
「それじゃ、錦城。初めて会ったときはあんな態度だったのに、今は殊勝な態度をとっているね。これはどういう心境の変化かな?」
「私はお姉さまが笑っている姿を見たかったのに、今回のことで悲しませてしまっている。だから」
「つまり私個人に対してはそこまで悪感情はない?」
「お姉さまにべったりさえしていなければ、ですが。もっとも今は女の子同士なので問題なしです」
「まったく、どういう価値基準なのかしら・・・」
アテネが言葉をこぼす。
「さっき好きにしていいっていったよね?」
「はい」
麗奈はきっと口を結んだ。何を言われても耐えようという意思が見えていた。
「じゃあ、私が元の姿に戻るのを手伝ってくれないか?それが君の責任だ」
「えっ・・・それだと私は・・・」
「いいや、私は君に対して悪感情は持っていない。私が君にどうこうしたいという気持ちはない。ただ、元に戻れれば何も文句はない」
「そんなことでいいんですか?いいんですよ、今から私のことを八つ裂きにしても。抵抗しませんから」
「それじゃあ、君は私が元に戻る手伝いをしないことになる」
「・・・」
「だから、呪いの解き方を見つけて欲しい、それだけだ」
「いいんですか?」
「それでいい。それじゃ、よろしく」
「・・・すいません、私はだいぶあなたのことを見間違っていたようです。あなたは、お姉さまが惚れるだけの人ですね」
麗奈の言葉にアテネはびくりと体を硬直させた。
「わ、わたしはべっ、別に惚れてるわけじゃなくて」
「アテネ」
「ふぇ?」
「元に戻ったら、話したいことがある」
「ふぇえ!」
赤面したアテネはそのままどこかへ走り去ってしまった。
そこに残ったのは真理とジト目の麗奈だった。
「そういう風にして篭絡していったんですね・・・」
「籠絡って・・・とりあえずよろしくな」
「こちらこそです、神内先輩」
友達以上恋人未満な二人の関係。もっとも今だと百合百合しちゃいますけどね。とりあえずこれでやっと一段上がりました。先は果てしない・・・




