4話 転校してきた少女
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学校にて。
「転校生を紹介するぞー」
その日のHRの時間はまず先に転校生の紹介が行われた。
アテネが真理のことを考えながら悶々としていると、教室のドアから一人の金髪の少女が入ってきた。アテネは今まで考えていたことを脳内に押し込んで、目の前のことに集中することにした。
「私の名前は鏡袷魅羅です。こんな私ですが仲良くしてくれるとうれしいです。よろしくお願いします」
「鏡袷さんは今までアメリカの方にいたそうだ。詳しい自己紹介とかは休み時間にやってくれ。そう、鏡袷さんの席は・・・あそこがいいだろう」
福井先生は、廊下側の一番後ろの席を指差した。
「えっと、出欠取るぞお。赤井、井上・・・」
鏡袷魅羅は指定された席に座った。途中アテネの席の横を通り過ぎる時に、アテネのことをちらりと見たのをアテネは感じた。その視線はどこか好戦的のようなもので、アテネは思わず身構えた。
「佐藤、柴、神内・・・神内はどうした?」
福井先生が問いかける声に、アテネは手を上げて答えた。
「先生、神内君は家の用事で来れないと言っていました」
「そうか、なら連絡をよこせばいいものを・・・」
「ふぅ」
アテネがため息をつく横から小さな紙切れを渡された。
「ん?」
アテネは横から紙切れを渡してきた人に首をかしげた。その人は後ろのほうを指差した。早苗のことを指さしていた。
「・・・」
アテネが紙切れを開くと、そこには一言書いてあった。
『後で真理が居ない理由を教えてね』
アテネは早苗の方を向き、軽く頷いた。早苗は自体を理解したような顔で頷き返した。
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昼休み。
アテネと早苗は一緒に中庭へ向かった。早苗の後を大輔がよろよろと追いかける。
「あーちゃんは事情を知ってるの?」
「それはもちろん」
複雑そうな表情を浮かべながらアテネは答えた。
「それで、どういうことなの?」
早苗の質問にアテネは顔を軽くしかめた。
「・・・・・・」
「ねえ、言えないことなの?」
「そうじゃないんだけど・・・私だって信じられないことなのよ」
「えっ?どういうこと?」
「どうせ、明日になればわかることだし、言ってしまうわ。ただ一つだけ約束して、今から言うことは事実で嘘とかまやかしではないわ」
「うん、わかった。ほら大輔も」
「あぁ、俺も約束しよう。それで?」
アテネは、すぅっと息を吸い真理の身に起きた事実をありのままに伝え始めた。
「実は・・・真理は、女の子になっちゃったの」
アテネのその告白に二人は茫然とした。
「「・・・・・・」」
「気持ちはわかるわ、私が今何ていったかわからないでしょ。初めから話すわ・・・」
アテネは昨日に襲いかかってきた錦城麗奈という名の少女のこと、麗奈が使ってきた呪いのこと、真理の身に起きた現象のことを憶測も含めてすべて伝えた。
「そんなことが・・・」
「呪いか・・・ほとんど見たことはないがありえなくはないか。解除方法も今のところはなしということなんだな」
「そういうこと。だから今は解除方法を探しながら、女になった真理の身の回りを整えているところ」
茫然としたままの早苗と、対照的に冷静な大輔。
「具体的にはどうするんだ?学校のこともあるだろ」
「それが今回の休みの話になってくるわけ。今のままだといきなり女になった真理ってかなり変でしょ。だから今日はとりあえず休みにして、学園長と話し合いながら真理を違和感のないようにしようとしているのよ」
「そうか・・・男装でも無理なのか?」
「まるっきり体型が変わってしまったから無理。だから女の子として転校させるしかないというわけ」
「なるほど、男の真理を転校なりさせて学校から消して、女の真理を入れれば問題ないというわけか・・・戸籍とかは大丈夫なのか」
「そこまではいいんじゃないかな。あくまでどのくらいになるかは分からないにしたって一時的なものだし、国家権力にまで手を出すつもりはないわ」
「ということはあくまでもこの学園のみ手を加えるわけか」
「そこは学園長が頑張ってくれるから問題はないわ。一応真理の設定は、『突如転校することになってしまった『神内真理』と入れ替わるようにしてやってきた双子の妹『神内真理』で、家は双子の兄の家に入れ替わるようにして住んでいる』ということ」
「そうかそうか、もうすぐにでも真理は学校に来るのか?」
「そうね、他にもいろいろと準備があるから明後日くらいには、って思っているわ。学園長もそう考えているみたいだし」
「ねぇ、なんであーちゃんも大輔もそんな冷静に話してられるの!?今までの真理がいなくなっちゃったんだよ!」
早苗が怒りを露わにしながら訴えた。
だがしかし・・・
「私だって冷静にはいられないわ。あの時の自分を恨んでいるし、何もできない自分自身に怒りを覚えている。だけど、前に進まなければ何も始まらない」
「そうだ、竜崎さんの言うとおりだ。心を押し殺してでもやらなければいけないことがある。俺だって何も感じてないはずがない。だけどさ、早く真理には戻ってほしいだろ?」
「う、うん」
「だったらさ、なんとか真理に仮初めでもいいから日常を取り戻させて解決方法を模索するほうが、生産的じゃないか?早苗、ぐずぐずしているよりも動こうぜ」
大輔が優しげな声を早苗に掛けた。
「わかった、私は何をすればいい?」
「そうね、とりあえず真理に会いに行ってあげて。一番落ち込んでいるのは真理だから」
「そうだな、早苗。今日は部活休んで真理の家に行くぞ」
「うん、わかったわ」
アテネと早苗と大輔の三人の中で決心が決まった、そんな瞬間だった。