12.25 二人のクリスマスプレゼント
ショートストーリーです。クリスマス回です。
この話は、アテネが真理の家に居候して初めてのクリスマスを迎える時の話である。
「ねぇ、真理」
「なんだ、アテネ」
アテネと真理は家にいた。時間にして、12月25日の昼頃。真理はちょうどテレビの前に陣取り、借りてきたDVDを見ていた。
「あのさぁ、今日って25日だよねぇ?」
「そうだなぁ」
「つまり、クリスマスだよね?」
「そんな行事あるよな。だけどそれって恋人達だけの行事だろ?俺らには関係ないんじゃ・・・」
「たしかに、たしかに私達はそんな関係なんかじゃないんだけど、」
アテネは大きく息を吸い込み言葉を続けた。
「だけど家でごろごろしてるのも何じゃないの!?」
「まぁ、それはそれでいいんだけどな」
「せっかくなんだからもったいないじゃない。ここにレストランのチケットもあるし……」
「ふーん、ん? ちょいそれ見せてみろ。
んんんっ!? なんだと、おいしいと評判のフランス料理の高級レストラン『Cocktail』のチケットだと! どこで手に入れたんだ?」
するとアテネは急に慌てたように言った。
「べっ、べつにわざわざ手に入れたんじゃなくて、その、そう、もらったのよ」
「おう」
「他の子からもらったのよ、たまたま」
「そうか」
「だから、さ」
「う、うん」
「一緒にいこ?」
■■■
そして
「うぅ、寒いな」
「仕方ないわよ、12月末だもの」
「早いとこ行こうぜ、ディナーには早い時間だけどいいだろ」
「そうね、せっかくだからショッピングもしたいし」
アテネと真理の二人はそれぞれコートを羽織りながら隣り合って歩き出した。
するとアテネは
「ちょっとさ、真理」
「ん? なんだ?」
「今日って寒いじゃない?」
「あぁ」
アテネは頬を朱く染めて言った。
「だからさ、手を……」
「手を?」
「手を、にぎ……ぁあ、やっぱいい」
「なんだよ、最後まで言えよ」
「ううん、なんでもないからいいわ」
アテネは小さく呟いた。
「まだその時じゃないから言わないけど、いつかちゃんと」
頭に疑問符を掲げたままの真理と朱い顔のままのアテネは駅へと向かった。
その日はクリスマスとあってか駅に人が多く、特にカップルが目についた。
「やっぱ人多いな、賑わってるな」
「そうね」
「場所は……」
「上浜までよ、だから1番線ね」
「そうか」
駅のホームに着いたもののしばらくの間二人は無言だった。
真理は
(……こういう時何を話したらいいんだろう?なんか改めて話すことないけど、無言っていうのも悪いしなぁ。いい話題でもないかなぁ?)
と考えていた。
一方、アテネはというと
(周りからどう見られているんだろう?やっぱりカップル?えぇ!?やっぱりそうなのかな?)
と一人悶えていた。
そんな二人がそのまま無言でいる中、電車が来た。
電車の中で、唐突に真理がアテネに話しかけた。
「あのさ」
「ひゃぅ!」
「……なんか悪いことした?」
「ううん、別にそんなことないけど」
アテネは顔を朱くしたまま否定した。
「上浜着いてからの話なんだけどさ」
「うん」
「あそこってデパートあるだろ?」
「『うごう』と上島屋ね」
「そこで互いに相手のクリスマスプレゼント買わないか?」
「へ?」
「いやだから、せっかく行くんだからクリスマスらしいことやってもいいかなーって思ったんだけど」
「いいね、やろうよ」
「で、あまり高いのは無しな」
「OK、いいもの探してみせるわ」
「いいぜ、俺もあっ、って驚くものを見つけるぜ」
「じゃあ、どうする?どっちがどのデパートで選ぶ?」
「どっちでもいいよ、好きな方選びな」
「じゃあ私『うごう』ね」
「じゃあ俺は上島屋な」
電車が上浜駅に着き、二人は改札へ向かった。真理は時計を見て話を続けた。
「今14時半だから、移動時間含めて17時に『うごう』のエントランスホールの大きなクリスマスツリーの脇に集合な」
「わかった」
「また後でな」
■■■
そして17時の少し前。
アテネと真理は再び『うごう』のエントランスホールで会った。互いのクリスマスプレゼントを抱えながら。
「どうする? もう行く? それともプレゼント交換しちゃう?」
「ふふふ、なんでこの時間にここに集まったのか、その意味を教えよう」
真理は芝居がかったように話しながら、大きなクリスマスツリーから少し離れたところに行った。アテネは真理の後を付いていく。
「ねぇ、何があるっていうの?」
「まぁ見てろって」
時計が17時を指し示す。
すると、
それまで沈黙していたクリスマスツリーが突如鐘の音を鳴らしながらライトアップされた。赤や黄色、緑などいろいろな色にライトが当てられる。それはとても幻想的な光景だった。
「きれい……」
「だろ? これを見せたかったんだよ、きれいだろ?」
「真理、ありがとね」
「それはどういたしまして」
アテネは隣に立つ真理の肩に頭を寄りかけた。
「ん?」
「いいでしょ、これくらい」
「いや、なんか俺らカップルみたいだなーって」
「!?」
「周り見てるとカップル多いし、俺らもその中の一つに見えてんだろうなーって……おい、大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」
「アンタが変なこと言うからでしょ!」
「すまない、冗談のつもりだったんだが」
「つーん」
アテネは茹でダコみたく朱くなった顔を隠すようにそっぽをむいた。
「悪かったって」
「謝ってよ、乙女の心を傷つけたんだから」
「……その口ぶりってことは絶対傷ついていないだろ」
「たとえば、傷つけたかわりに私のことを一生守ってやるとか」
「いや、俺よりも圧倒的に強いだろ」
「へぇ~謝ってくれないんだ?」
「はいはい、わかったよ!
変なこと言って悪かった、許してくれ! なんでもするから」
「ほんとに?」
「あぁ、出来ることなら何でもするから」
「ふふっ、約束は守ってよね」
「はぁ」
そして、『うごう』のエントランスホールから少し歩いて、二人は高級レストラン『Cocktail』に着いた。時間的にちょうど良い頃合だった。
「滅多に来れる機会なんてないからな、食べられるだけ食べるぜ」
「あまりはしたないようにね、周りのこと考えてね」
「了解」
■■■
二人は『Cocktail』で美味しい料理を堪能し、満足して店を出た。
「いやーさすが有名なだけあるな」
「ね!おいしかったね」
「ほんと、チケットあったおかげであれだけ食べれたよな」
二人は駅へと足を進めていく。
ふとアテネが言った。
「さっきさ、真理は私の言うことなんでもしてくれるって言ったよね?」
「あぁ」
「じゃあ、今一つしてくれる?」
「あんまり大変なことにするなよ」
「当たり前じゃない。
……私の手を握ってくれない?」
「そんなことでいいのか?なんかもっとすごいことかとビクビクしてたんだが」
「いいの!手を握ってくれれば……」
「ほい」
真理はアテネの小さな手を握る。
「うぅ」
アテネは再び顔を朱くなった。
「これでいいだろ?早く帰ろうぜ、寒いからな」
「うん」
二人は手をつなぎながら家路へと歩いていく。
■■■
二人はそのまま手をつなぎながら(もっとも駅の改札は手を離していたが)、家にたどり着いた。
「帰った~」
「ふぅ……」
二人はそのままリビングのソファにダイブした。
「疲れたね」
「あぁ」
「そうだそうだ、アテネ。プレゼント交換しようぜ」
「あぁ! そうね」
二人はいそいそと自分が相手に買ってきたプレゼントを準備した。
「じゃあ、まず」
「私から渡すわ、はいこれ」
アテネが真理に買ってきたプレゼントは、新しいマフラーと手袋だった。
「おお! いいデザインじゃないか」
「ね! 真理が気に入ると思って選んだのよ」
「さすが、センスいいな」
「ふふ」
「次は俺からのだな、ほいこれ」
真理がアテネに買ってきたプレゼントは、ペンダントだった。
「すごいじゃない……」
「で、裏を見てみ」
「私の名前が刻印されてる……」
「ちょうど一時間でやってくれてから頼んでみてんだ、どうだよかったか?」
「ありがと」
「あぁ、ほんとアテネのおかげで良いクリスマスを過ごせたよ、ありがとな」
「真理だっていろいろしてくれた、ありがと」
クリスマスはそれぞれの過ごし方がある。
それをどれだけ有意義に過ごせたか、それは人によって違う。
アテネと真理は本人達にとって良いクリスマスとなったようだ。
聖夜は更けていく。