魔狼討伐依頼 1
秋頃のお話です。
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秋が深まり山が赤や黄色に染まる頃。
ちょうど、その時は夜が深まり日付が変わろうとしている時だった。
アテネと真理は、神川市から北西の方向にだいぶ行ったところにある山岳地帯、アルプス区域にある大神山の山奥にいた。
なぜ、二人がこんな場所にいるのか?
それはとある依頼を受けていたからだ。
「まったくどこにいるのかしらね・・・・・・」
「さすがにもう出てきてもいいはずなんだけどな。だっていくらなんだって“狼”だろ?それが例え魔法使ってくる鬼だったとしても」
「そうね。狼と性質は同じはずよ」
「だったらこんな真っ暗なところにはいないんじゃないのか?」
真理は懐中電灯であたりを照らしながら言った。
そう、二人は現在洞窟の中を歩いているところだった。光は真理の持つ懐中電灯のみという状況だった。
「でも、ここを歩かないと奥には行けないいわ」
「そうか・・・面倒だなこのまま現れてきても俺は戦えないぞ」
「それでも向こうも同じ条件よ。とりあえず月明かりの届くところまでは移動したいわ」
「だな」
しばらくして、二人は洞窟の外の開けた場所に出た。
「これなら懐中電灯はいらないな」
「いつ出てこられてもいいわね。
真理、もう一回確認するけど・・・」
「いくら閑散としていたとはいえ一つの村を潰した奴なんだろ。わかってるさ、油断はしないさ。俺は俺の役割を果たすだけだ。だろ?」
「そうね、もう一つ付け加えるなら、危ないと思ったら逃げるのよ」
「あぁ、アテネもな」
月明かりに照らされて幻想的な風景を繰り広げている中を二人はただ歩いて行く。
そして
「見つけたわ・・・・・・」
「あれが、なのか」
アテネと真理は思わず声を漏らす。
二人の視線の先に、大きな狼がいた。毛並みは闇の中でも一際光を放ち、見る者を魅了するような美しい銀色に染め上がっていた。体毛の銀色と対照的な深紅の瞳からは、目の前に立つ者全てを震え上がらせんばかりの眼光を放っていた。
「小さき人の子達よ、私の領域に何のようだ?」
その狼は口を動かすことなしに言葉を放った。その言葉は自らがこの領域の支配者であるという誇りと傲慢に満ちていた。
「貴方に話があるわ」
とアテネが臆することなく答える。
「ふむ、少しは楽しませてもらえそうだな。
私の名はフェルリオンだ」
「フェルリオンね。
私の名前は竜崎アテネ。こっちは神内真理」
「そうか竜崎と神内か。おもしろい。で、何の話だ?」
「この山の麓にある村が先日何者かによって壊滅させられた。貴方によってね」
「ふむ、報復か?」
「違うわ。なぜ貴方がそんなことをしたのか、二度とないようにするにはどうしたらいいかの2点を明らかにするためよ。もちろん返答しだいでは対話から討伐に切り替えるわ」
「なるほど。ならば私の言うことは一つ。これは全てを表している。
私は私の行く道を邪魔する者は容赦なく消し去る」
その言葉にアテネはため息をついた。
「はぁ、まったく面倒ね。貴方を狩らなければならなくなったわ」
「望むところだ。強さこそが正義なのだからな、互いの生死を掛けて争おうではないか」
「はいはい、バトルジャンキーの貴方のことは私達が楽にしてあげるから。真理、行くよ」
「あぁ、任せろ」
真理は手に握ってあった塊をフェルリオンに投げつけた。
それはフェルリオンに当たる直前に、フェルリオンの足元に奇怪な魔法陣が現れ、白く光る球が生み出され真理の投げつけた塊に当たり爆ぜた。
「私にそんなモノは効かぬぞ」
「そんなことぐらいわかってる」
アテネは瞬時にフェルリオンの目の前に接近し、手に持つ鎌型法具グリフィンを横薙ぎに振った。
「・・・・・・」
しかし、フェルリオンの体表に浅く刺さったものの深いダメージを与えることはできなかった。
「堅っ」
「アテネ!」
自らの懐に踏み込まれたと理解したフェルリオンは瞬時に魔法陣を展開し白い魔法球をアテネに放った。
「ちっ」
真理の声にフェルリオンの攻撃に気付いたアテネは、瞬時の回避が不可能だと思い自らの魔法を展開した。
刹那、ごおおおん、と爆音が鳴り響いた。
体勢を立て直したフェルリオンは悠々と真理に近づいていく。
「さて、君にも『白狼弾』を味わってもらおうか」
「はん、喰らうものか」
「行け」
フェルリオンの足元に幾重にも魔法陣が描かれ、白い魔法球がいくつも放たれた。
それを見ても真理は臆することはなかった。
「喰らわねぇ」
真理は両手を突き出した。
「一応、イメージ強化しておくか『シールド』!」
真理の両手は一瞬白く光った後、フェルリオンの魔法が襲いかかる。
「ふむ、そこまでしても私の魔法はふせげるものではな・・・なんだ?」
フェルリオンは思わず黙り込んだ。
辺りは静けさに包まれた。
「これで終わり・・・か」
真理は最後の一つであるフェルリオンの魔法を握りつぶした。
真理はフェルリオンの魔法球を受け止めては一つづつ握りつぶすことで消し去っていたのだった。
「まさか、私の魔法を無効化するとは」
「さーて、アテネ。時間は稼いだぜ」
「ありがと、真理」
先程の爆発のあった場所から無傷のアテネがグリフィンを片手に風を纏いながら立っていた。
アテネの目は金色に光っていた。
アテネは空いている手を目の前に突き出し魔法を撃ち放った。
「敵を切り裂け!『竜の風』!」
次へ続きます。