36話 そして母は話し出す
玄関から、真理の母親:栞は真理に飛びついた。
「うわっ」
真理は思いがけない行動に為すがままだった。
「ほんっと、久しぶりだね~元気にしてた?」
「当たり前だろ、そういう母さんこそ何してたんだよ」
すると、栞は首をひょこっと傾げた。
「んー、ちょっと野暮用?」
「野暮用でフツーに2,3ヶ月も家を空ける親がいるか?」
「ごめんねー。お土産あるから、それで許して、ね?」
「はぁー。わかったから、離れろって。
おい、アテネ、気にせずに上がってくれ」
「ええっと」
「おや、真理。誰か連れてきたの?」
栞はやっと真理の後ろに立っていたアテネに気が付いた。
「ごめんね、なんか除け者にした感じになって。
私は神内栞。一応真理の母やってます。よろしくね」
「あっ、はい。私は竜崎アテネです」
「で、真理とはどーいうカンケーなのかな?」
「えっ?ええっー」
「いいから母さん。とりあえず家の中に入ろうぜ」
「まっ、そーだね。じゃあ入ろうか」
そう言って栞はそそくさと玄関から立ち去り、リビングを通り台所へ引っ込んでいった。
「あれが真理のお母さん・・・」
「まぁ、あーいう母親だ」
「そして私のお義母さん・・・」
「おい、なんかおかしくないか。なんでそうなる」
「えー、真理は私とじゃイヤなの?」
「そう意味じゃないけどさ、そういうのは段取りっていうのがあるだろ?だからな・・・」
「ふふっ、真理っておもしろい。冗談言っただけなのに」
「おい、真面目に考えてしまったぞ、そういう冗談は止めろって」
「・・・・・・別にまるっきりの冗談じゃないんだけどね」
アテネは勝手を知ったように靴を脱ぎリビングへ入っていった。
真理も少し脱力しながら中に入った。
栞は台所で4人分の紅茶を用意していた。
アテネと真理はリビングにあるテーブルの席に着いた。
4つ席があり、一つはすでに先客がいた。
緑色の体毛の犬がそこにいた。いや、犬といっていいのかはわからない。
耳はキャバリア・キングチャールズ・スパニエルのように垂れ下がり、金色の輪っかが一つずつそれぞれの耳にはまっていた。顔はお正月の丸餅のように楕円で、くりくりっとした瞳だった。尻尾はアカキツネのように綺麗なカーブを描いていた。
アテネと真理はそこにいる生物の存在に驚いた。
真理は、
「なんで、ここに犬みたいなものがいるんだよ。母さんどーいうことだ?」
と驚き、アテネは、
「なんで、セロリがいるの!?」
と驚いた。
「ちょっと待て。セロリってなんだ?コレの名前か?」
「そうだよ」
セロリがしゃべった。まだ子供のあどけさが残ったような中性的な声で話してきた。
「ボクの名前はセロリ。よろしくね!」
「あー、で、コレはなんだ?」
「たしか4話ぐらいでしゃべった気がするわ。私を魔法少女にした魔法獣よ」
「そう、ボクらは魔法獣として魔法少女を生み出し、サポートする、簡単にいえば魔法少女にはお決まりのマスコットさ!」
「えー」
真理はがっくり肩を下ろした。
「で、なんでセロリはここにいるのかしら?」
「それは、キミたち二人に用があったからだよ」
セロリは感情のこもらない瞳で二人を見つめた。
「だから、私が家にいれたの」
栞は大してない胸を反らして言った。
「もう真理には教えなければならないことがあるから、ついでにね」
「えっ?」
「だって、もう真理はコッチの世界のことを知ってしまったんでしょ。そして自分の力についても知ってしまった。だったら私が知っていることを全部教えてあげないとね」
「・・・・・・知っていたのか?」
「もちろん、最初っからね」
真理と栞はしばし互いを見つめ合った。
「だから、私の説明ターイム。始まるよ!」
■■■
20分後。
「・・・という訳なのよ」
栞がふと息をついた。
この20分間栞が息をつくことなく話し続けた話を要約すると、
1.実は真理の母親である栞は現役で頑張る魔法少女だった。かなり有名で、それなりの力をもっている。
2.真理と栞は昔山奥の小さな村に住んでいた。しかしいろいろゴタゴタがあり、そこから逃げるようにしてこっちに来た。その逃げる道中、運悪く鬼の群れに襲われた。なんとか栞はその群れを全滅させたが、真理は大きな怪我を負った。結果、人ではありえないスピードで怪我が治ったが、そのせいで真理の小さい頃の記憶はあやふやになっている。
3.真理の力はこの世界では存在したことがないとても貴重なもので、魔法少女が扱う魔力も持っているが、どちらかといえば神様に近い力だと思われる。
4.真理の力は主に3つの効果を発揮する。
一つ目は、『シールド』。真理に向けられた魔法を全て弾く。
二つ目は、『アイギス』。魔力を使うことによって発動し、任意の体の一部分の延長線上に不可視で好きな形の盾を作り出す。その盾は魔法はおろか、物理法則さえ無視して全てのものを通さない。
三つ目は、『神の梃入れ』。真理が生命の危機に晒されたときに勝手に発動し、傷を修復し、体の中に異物が存在する場合はそれを消滅させる。
5.まぁ簡単に言うと真理は殺されかけても死なないという訳です。
「まじか・・・」
「真理は不死身という訳ね」
「つーか、この話どうやって知ったんだ?」
「うーん、たしか自称(笑)神だったかなー?」
「「はぁ!?」」
真理とアテネの驚きの声はみごとにシンクロした。
「だって、夢の中でいきなり『貴方の子供はこうこうこういった力をもっていて・・・』って話しかけてきたんだもん。大怪我したって簡単に治るし」
「信じらんねぇ・・・」
「ね・・・」
「そうだ、真理。あの時の戦いで使った『無辺世界』ってさっきの話には入っていなかったよね」
「あぁ、確かに。母さん、俺の力っていうのはさっきの3つだけか?」
「うーん、たしかあの自称(笑)神様は『真理くんに守りたいものができたりすると、力は育つんだよ』っても言ってたわね」
「マジですかー、その自称(笑)神っていうのが気になる・・・」
「たぶん、一度会ってるんじゃないの?」
「・・・そんなことない気がする」
「真理ってやっぱり凄かったんだね。初めて見たときからビビってきてたもの」
アテネは少し顔を赤くしながら言った。
「竜崎さん、それは恋って言うんだよー」
「えっ、ええぇー!」
栞の一言にアテネは顔を真っ赤にしながら飛び跳ねた。
「ちっ、違います」
「顔真っ赤になってるけどー違ったのかなー?」
アテネは顔をブンブン振りながら否定した。
「えー、私にはわかるんだよー最近ベッドで寝る前に思い出しながらニヤニヤしてたりするでしょ?」
「なんでわかるの・・・?」
「えっ、そうだったの?」
「くっ、嵌められた」
「まだまだ甘いわねー、そんなんじゃダメよ。浮気されちゃうわよ」
「あわわ・・・」
「・・・落ち着けって」
真理はふぅーっと溜め息をついた。
たまにしか帰ってこない母親だが、帰ってくれば帰ってきたでいろいろと真理のことをおちょくってくるのである。
それが全部、アテネに向かっていることを考えると少し気が楽なのだが、後々めんどくさい状況になる(もうなっている節があるのだが)ので真理は事態を収集させようと思い立った。
「まぁ、母さん落ち着け。アテネが困っているだろ?それぐらいにして、さ」
「あら、真理もいじられたいのかしら~?なんなら一晩中いじっておちょくって遊んじゃうよ」
「はい、すみません。どうぞ存分にアテネのこといじってください」
「早っ!諦めるの早いよ、ねぇ真理助けて」
「ごめん、無理。母さんに逆らえない・・・」
「ちょっ」
そんな中、今まで紅茶をちびちび飲んで静観を決め込んでいたセロリが口を挟んだ。
「ちょっといいかい、栞。お遊びはこのくらいにしてボクはこの子達に話したいことがあるんだ」
「あぁ、ゴメン忘れてた。じゃあ、はいどうぞ」
セロリはアテネと真理を見ながら言った。
「じゃあ、話そうか」