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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
40/123

33話 水蛇とドラゴン

 ■■■


 水蛇の姿を取る河野とグリフィンを構えるアテネが上空で激突した。

 空は未だ闇に包まれており、闇を背景に水蛇の放つ青い波動とグリフィンの放つ翠の波動が鮮やかな色を描き出す。


 「はあああああ!」

 アテネは叫び声を上げながらグリフィンを振り回す。翠に輝くグリフィンはその身に抱く本性をここぞとばかりにさらけ出し、竜の力の表れである暴風を撒き散らす。


 「Gaaaaa!」

 対する水蛇:河野もそれに負けじと咆哮を放ちながら幾重もの水の刃を作り出しそれらを叩きつける。


 暴風と水の刃が激突し互いにせめぎ合いながら散っていく。




 そんな様子を真理と学園長は激戦の真下の屋上から眺めているしかなかった。

 「・・・・・・」

 真理は拳を握り締めながら黙って上空を見上げていた。




 アテネは空中で姿勢を固定し、鎌を右手に持って左手を前に伸ばし新たな魔法を詠唱した。

 「竜よ、鼓動を我と共鳴し力を解き放て、数多の障害を打ち砕け『竜砲(ドラゴンキャノン)』!」


 アテネの左手に集まった眩い光が轟音を伴って敵へ放たれた。

 その一撃は水蛇の体を削った。水蛇はバランスが取れなくなって高度を下げた。

 「なかなかやってくれるじゃない」

 「そのまんま消え去って欲しかったんだけどね!」

 アテネはグリフィンで追撃する。その攻撃を河野は器用にも避けていく。

 



 そんな中、いきなりアテネ達のさらに上空からパリッっと音が聞こえた。

 その音はだんだんと大きくなっていき、それはやがて辺り全体へと広がった。

 桐陵学園を覆っていた闇が突如として消え去ったのだった。


 「ついに『常夜の姫君』も敗れ去ったのか」


 河野はそう呟くなり屋上へ降りていった。


 「ふん」

 アテネはまだ消えぬ水蛇の放つ力を感じ取りながら追いかけた。






 屋上に降り立った水蛇:河野はその身に纏っていた水を消し去った。

 そして付いてくるようにして降りてきたアテネを憎たらしげに見た。

 「たしかに貴女は脅威だわ、『願いの鐘』の恩恵を受けた私と張り合えているのだから」


 それに対しアテネはふてぶてしく返す。

 「ほんと、最初見た時から嫌な奴だと思っていたけどここまで自分に自信だかなんだか持っている人っていうのも珍しいわね。まさに傲慢だわ」


 その言葉に河野はにやりと笑みを浮かべる。

 「そう、私は傲慢なのよ。だから私が手に入れた『傲慢(スペルビア)』の力が私と適合して馴染んできている」

 河野は身体から湧き出る瘴気を強めながら言葉を続ける。だんだんと強まる瘴気にアテネは一歩後ろへたじろいだ。


 「せっかくだから教えてあげるわ、本当の私の名前。『水蛇(すいだ)の女王』ヒュドラ・レルネーよ」


 河野、いや『水蛇(すいだ)の女王』ヒュドラ・レルネーは両手を上げた。

 「真の姿を見せてあげようじゃない、そしてこの世界を支配する私に平伏しなさい」


 その一声が辺りに響くと共に、辺りに撒き散らしていた瘴気を一気に飲み込み『水蛇(すいだ)の女王』は再び姿を変えた。


 新たに現した姿は見るものを圧倒させた。水色に輝く爬虫類独特の肌をした先程の杯ほどの大きさの蛇だった。

 頭は9つあり、そのうちの中央にあるのが一番大きな頭だった。

 そして何よりも『水蛇(すいだ)の女王』が纏う凄まじい瘴気はアテネでさえも顔を顰めるほどだった。



 「ほっほほほ。今の私は貴女なんて簡単に潰せそうだわ。どう殺してあげたらいいかしら」

 「ふっふざけんなぁ!」


 アテネは金色に光る瞳で睨みつけたままグリフィンを手に果敢にも立ち向かっていく。


 「『竜の風』全力展開!喰らえええええええ!」

 アテネは全力の魔法を乗せた鎌の一撃を『水蛇(すいだ)の女王』にぶち当てた。






 しかし。

 「その程度なのかしら、貴女の全力というのは」

 「なんで・・・」


 

 『水蛇(すいだ)の女王』の身体には傷一つついていなく鎌は皮膚にあたったまま切り裂くことができずに止まっていた。

 「ほら、喰らいなさい 『水硫弾』」


 『水蛇(すいだ)の女王』の9つの口から放たれた緑に光る弾丸は全てアテネにぶち当たった。


 アテネはなんとか抵抗するものの全てを相殺することはできずいくつか攻撃を食らった。

 その攻撃によって今まで傷一つつかなかった装束(コスチューム)がボロボロになった。


 「瘴気を練りこんだ攻撃を喰らって気分はどうかしら」



 そう言われてアテネは目の前がぼやけてきていることに気づいた。まだ体力・魔力共に残っているはずだ。それなのに目の前がどんどんとぼやけて見えなくなっていたのだった。

 「なにこれ・・・」

 「そう、これだけ瘴気を喰らえば貴女はいくら体力を残していたとしても力が抜けていく」

 「ふざけんじゃないわよ・・・」

 「ふふん、これが私のやり方よ。貴女の攻撃は私には通用しなかったし、私の攻撃は貴女に致命的なダメージを与えた。貴女の負けよ。ここで貴女は消え、私がこの世界を支配する礎になるのよ」


 『水蛇(すいだ)の女王』は高笑いをした。



 遠くで見ていた真理はアテネの異常に気づき、走ってこようとした。

 それに気付いた『水蛇(すいだ)の女王』は水鉄砲を放ち牽制した。

 「今はまだ命を取るつもりはないけど邪魔するつもりなら、神内君。君を殺さなくてはいけなくなる」


 真理はその言葉に言い返す。

 「それなら俺は殺されたって構わねぇ、竜崎を助けるためなら俺は命でもなんでも掛けてやる。まぁもっとも簡単に死ぬ気はないけどな」

 「何が君を変えたんだい?入学当初の君は平凡大好き人間で、出来ることなら面倒ごとは逃げ出す人だと思っていたんだけどね」

 「さぁ、なんでだろうな。ただ竜崎にはいろいろあったからな。ほっとけないんだ」

 「そうか、それは残念だ。違う形なら君を応援してあげたのだが、君を殺さなければならないようだね」

 「あぁ、お前のことをぶん殴ってやるよ」


 真理は再び走り出す。アテネを助けるため。特に何ができるわけでもないが、倒れているアテネをなんとかするために、真理は『水蛇(すいだ)の女王』の攻撃を掻い潜りながら走る。



 

 「喰らいなさい」

 いくつもの口から水流が迸る。その攻撃を時に避け、時に魔法やそういったものなんでも弾き飛ばす拳で弾いていく。そうして真理はアテネとの距離を縮めていく。


 「くそっ、ここまで来るとは思ってもいなかった」

 『水蛇(すいだ)の女王』に近づいていくほど強まる瘴気に顔を顰めつつも真理は走る。


 「ちっ、これは使いたくなかったんだけど」

 『水蛇(すいだ)の女王』は舌打ちしながら詠唱する。

 「終わりを告げる、奪命の一撃。『鎮魂水鉄砲(レクイエムショット)』」



 『水蛇(すいだ)の女王』の中央の口から目にも見えぬ速度で弾丸が打ち出された。

 その一撃は真理でさえ捉えきれないほどの速さで、倒れているアテネに駆け寄った真理の命を奪おうと迫りきた。




 「やばっ」

 真理は思わず叫ぶ。これで自分は死ぬかもしれない、そう思った。

 

 そんな中真理の脳裏に一つの言葉が浮かぶ。その言葉は真理に叫べと促した。


 「『アイギス』!」










 『水蛇(すいだ)の女王』の放った『鎮魂水鉄砲(レクイエムショット)』が真理とアテネの命を奪う。そのはずだった。

 しかし、真理の目の前で不可視の壁に阻まれ、その力を失いただの水として弾けた。


 「今何が・・・」

 『水蛇(すいだ)の女王』は目の前の信じられない光景に思わず声を漏らす。



 一方真理はそのことには目もくれずアテネに声をかける。

 「アテネ・・・!」

 「真理」

 「大丈夫か?」

 「・・・だいぶ危ないかも」

 「くそっ、こういう時に何もできない自分が恨めしいぜ」

 「真理、お願い聞いてくれる?」

 「なんだ、言ってみろ」

 「ちょっと右手を貸して」

 「あぁ」

 「少し、力借りるよ」

 「は?」

 「我、汝と世界の審理に基づいて契約を交わす、ここに『契約』」


 白い光が真理とアテネを包む。

 「これは一体・・・」

 「ごめん、説明は全部終わってからにさせて。これで私は戦える」

 「あぁ・・・っておい」

 真理は思わず叫んだ。

 アテネの姿をまた違った光が包み込んで、アテネは上空へ浮上していった。


 「この姿になっても軽蔑しないでね、真理」






 上空に浮かび上がったアテネは憎たらしげに見つめる『水蛇(すいだ)の女王』と向かい合った。


 「次こそ負けるつもりはない、なんて言ったって真理が助けてくれたから」

 「ふん、真の姿を表した私に勝てると思っているの?」

 「貴女のは紛い物、私のは本物」



 アテネの姿を一層強い光が包みこんだ。



 そしてその光が消えそこから現れたのは一匹のドラゴンだった。




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