32話 蒼炎(そうえん)
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蒼い炎を纏ったほむらは『常夜の姫君』を睨みつけた。
「叩きのめしてあげるわ」
ほむらは『常夜の姫君』の方へ飛びかかった。距離にして10メートル。その距離を一瞬にして詰め、『常夜の姫君』と後ろに控えていたオウルを蹴り飛ばした。『常夜の姫君』は『闇の羽衣』に守られ吹き飛びはしなかったが、オウルは反応すらすることができず壁際まで吹き飛んだ。オウルはそのまま気絶した。
そしてほむらは祭壇に奉り上げられたあかりを胸に抱いて『常夜の姫君』から距離をとった。
オウルに連れされていく時に意識を失わせられていたあかりは目を見開いた。
「ほむらちゃん」
「あかり、助けに来たよ」
「ほむらちゃんなら助けに来てくれると思ってたよ」
「ありがと、信じてくれて。立てる?」
あかりはほむらに支えられて自分の足で立った。
「私はもう大丈夫。だから心配しないで」
「わかった、アイツらを叩きのめしてくる」
ほむらは再び『常夜の姫君』を見据える。
そしてほむらは再び一瞬にして『常夜の姫君』との距離を詰め接近戦に持ち込んだ。
ほむらは蒼い炎に包まれた拳で殴りかかり、『常夜の姫君』は『闇の羽衣』で応戦する。
先ほどと同じ戦い方なのであるが、それは先ほどとは全く違う戦況になっていた。
拳が『闇の羽衣』を突き破り、『常夜の姫君』の身体にダメージを与える。『闇の羽衣』は修復してなんとか『常夜の姫君』を守ろうとするがあまりの攻撃の速さに修復速度が間に合わない。隙を見てほむらに攻撃しようとしても攻撃は全て躱され打ち破れられる。『常夜の姫君』が別の法術を撃ってなんとか戦況を立て直そうにもほむらとの距離が近すぎてなかなか撃てなかった。そうこうするうちに『常夜の姫君』は傷だらけになっていた。
ほむらはとどめとばかりに一発ストレートをかました。『常夜の姫君』は受け止めることができず壁際まで吹き飛んだ。
さすがにその一撃は『常夜の姫君』の命を刈り取るほどはなかった。
『常夜の姫君』は怒りに震えていた。自分が倒したと思った相手が再び立ち上がり、自分の計画を潰されたからだ。そして挙句に死ぬ寸前まで追い詰められた。ここまでの屈辱を味わったことはなかった。
せめて目の前に立つほむらを完膚なまでに叩きのめし、殺さなければ気が済まなくなっていた。
「ふふふ・・・もうゆるさないわよわたしはとてもじひぶかいことでゆうめいだったけどもうわたしのかんにんぶくろはきれてしまっているからもうてかげんなんかしないわぎったんぎったんのめっちょんめっちょんにしてやるわ」
もうすでに『常夜の姫君』は自我失って、体の奥底から溢れる力に身をゆだねていた。
『常夜の姫君』から莫大な量の魔力が漏れ出してくる。ほむらには魔力の流れがオーラのように見えていた。『常夜の姫君』から出ているオーラはどす黒く辺り一体を覆い尽くさんばかりだった。そのオーラによって『常夜の姫君』の傷は塞がれみるみるうちに傷は一つもなくなっていた。その様子をほむらは眉一つ変えずに見ていた。
両者は互いに見つめ合う。ほむらは真っ直ぐ射抜くような視線を浴びかせ相手の動きを冷静に見ていて、『常夜の姫君』はただ自分が全てを握り潰す未来を見ていた。
そして両者が見つめ合ったまま時間が経った。痺れを切らして先に動いたのは『常夜の姫君』だった。
「うがぁぁぁぁぁ!」
『常夜の姫君』は叫びながら法術を撃つ。
「我に仇名すものを廃し、全て灰燼に帰せ『消滅』」
『常夜の姫君』の詠唱により幾重にも集まった魔方陣をほむらは見た。
それでもほむらは臆することはなかった。
「青く蒼く碧く揺らめく炎をここに刻む。我に従いて敵を蒼く染め上げろ!『蒼儀』」
『常夜の姫君』が放った漆黒の魔法とほむらの放った蒼く透き通った魔法が激突した。
そして。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『常夜の姫君』が炎に焼かれた痛みに悲鳴と怨嗟の声を上げる。
『常夜の姫君』は崩れ落ちた。
その様子をほむらは見ながら視界の端に何かが見えたのを感じた。
ほむらによって吹き飛ばされ気絶していたはずのオウルがあかりに向かって疾走していた。
そして手に構えられたナイフであかりを切り裂こうとした。
刹那、黄金に光る刃がオウルを弾き飛ばした。
元々体力がそんなに残っていなかったオウルはその一撃で命を散らした。光となって消えた。
刃で切り裂いたのは、一度『常夜の姫君』に敗北し死ぬ直前だった早苗だった。
「先輩、あとは任せました。存分に『常夜の姫君』を消しちゃってください」
「・・・っん、わかった」
ほむらはのたうち回る『常夜の姫君』を見据えた。
「汚れたものを断ち切れ。『炎剣』」
ほむらの手に、蒼く全てを切り裂く意志を持ったような剣が現れた。
ほむらは炎剣を握り、『常夜の姫君』との距離を詰めた。
「これで終わりよ、さようなら」
ほむらは剣を振り下ろした。
カシャンと何かが砕け散る音が辺りに響いた。
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「怪我は大丈夫?」
ほむらは早苗と大輔に言った。
「はい、九条先輩の回復魔法で傷一つないです」
「ほんとありがとうございます、九条先輩、後藤先輩」
「そんなことないよー、全部ほむらちゃんのおかげだよ」
「私は何も・・・」
「私知ってるよ、ほむらちゃんが駆けつけてくれたときに死にかけの二人に回復魔法掛けたでしょ」
「・・・っ」
「ほむらちゃんは優しいんだから」
「・・・そんなことはない」
フルフルと頭を振るほむら。その様子を見てあかりは一層微笑んだ。
「で、後藤先輩。『常夜の姫君』がこんなものを落としていったんですけど」
と、早苗はほむらに差し出した。
黒いベールだった。
「これは『闇の羽衣』・・・私に入らないわ、良かったらあげるわ」
「良いんですか!わぁ、嬉しいな」
「良かった早苗。後藤先輩、ありがとうございます」
4人の間には和やかな雰囲気が漂っていた。
「そう、上はどうなっているかしら」
「ちょっと、待っててくださいね・・・」
「あっ、安倍君は式神を使えるんです。今それで上の様子を見ています」
「うっ、今上の様子がわかりました。二つ、わかったことがあります。
一つ目は学園を取り巻いていた黒い壁が消えてなくなりました。
二つ目は上空で水の蛇とドラゴンが戦ってます」