31話 竜の力
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ほむらが『常夜の姫君』と戦っている頃。
アテネと真理、そして学園長は屋上を目指して走っていた。
「この上ね」
「何としてでも河野先生を倒すぞ」
「私が主に戦うから、支援よろしく」
「殴るしかできないけどな」
アテネと真理が話す様子を見て海道学園長は、
「竜崎君と神内君か、おもしろい巡り会わせだな」
と呟いた。
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そして三人は屋上へ出る扉の前に辿り着いた。
「この向こうからもの凄い量の力を感じるわ」
「いるんだな?」
「そうね、準備はいい?」
「あぁ、もちろんだ」
「いくよ!」
アテネは扉を勢い良く押し開け外へ出た。真理と学園長はそれに続いた。
外は相変わらず闇のベールに包まれていた。闇のベールは桐陵学園の敷地を全部覆っているため空を見渡すことはできないが、屋上を見るには充分なだけ明るかった。
屋上のおおよそ中央に一つ輝く光があった。その光は白く直視するには眩しすぎるほどだった。
その光の傍らには河野と付き従う生徒達がいた。
「なんだ・・・あの光は」
アテネが思わずつぶやいてしまうほどの光景だった。
「あれが・・・秘宝」
「間に合わないな、頼むぞ二人とも」
「しっかり倒すわ」
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秘宝。そう呼ばれている法具はこの桐陵学園に密かに封印されていた代物だ。
その名は『望みの鐘』。使用者の願いを基本的になんでも叶えるチート級の法具だ。
使用者の魔力を糧にして願いを具現化させるため、かつてあまりの被害に封印されていた。
その『願いの鐘』の封印が解かれ、使われようとしていた。
「さぁ、この時を待っていたわ」
河野は歓喜の声を上げる。
それもそのはず、河野の目の前には秘宝『願いの鐘』が白い光を帯びて浮いていたからだ。
すでに準備は完了していた。
「私の願いを叶えなさい。
私に『七つの大罪』の『傲慢』を与えよ」
『願いの鐘』は河野の願いに応えるように光を放つ。
そして河野は光に包まれた。
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「いくら偽物とはいえ、まずいな・・・」
「どうしたんですか学園長」
「てっきり『色欲』かと思っていたんだが、もっとも厄介な『傲慢』を選びおったか」
「どうなるんですか、それは」
「一概にはそのもの自体が係わってくるから言えんのだが、『色欲』を持つ者は魅了とかそういったものに長けている。それでも脅威には違いのだがな。一方『傲慢』だと殲滅力に優れていてな、ルシファーとやりあった時も苦戦した。それがいくら偽物とはいえ君とアテネ君では荷が重いだろう。やはり私が出っ張る必要があるか・・・」
「海道学園長、それには及ばないわ」
アテネが突き放すように言う。
「私と真理がアイツを叩きのめす。いくわよ、真理!」
「おう」
アテネはいまだ『願いの鐘』の光を浴びている河野へ急接近する。そして、鎌:グリフィンを振り切りる。
「『残波』!」
アテネは魔法で強化した斬撃を周辺に撒き散らす。
その斬撃によって周りにいた河野の配下の生徒は皆一応に弾き飛ばされた。
彼らは何もすることなく意識を闇に堕とした。
しかし、河野にはダメージはなかった。
「もう私には貴女の攻撃は通じないのよ」
「わかってるわ、今のままではね」
アテネはふぅと息をついて河野を見据える。そして今まで封じていた魔法を行使する。
「我の呼び掛けに応じて目覚めろ、禁術『竜の力』」
アテネの詠唱に左手の指輪が呼応し光を放ち、アテネの身体を風が纏わりつく。真理には見えた、力がアテネの中から湧き上がる様を。
アテネは眼を見開いた。アテネの両目は金色に光っていた。
「これが私の力よ」
アテネは中空に浮き上がった。暴風がアテネの周りを吹き荒れる。
対して河野はというと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「今『傲慢』の力を手に入れた私に敵うと思っているのかしら」
河野は力を一部開放した。
河野の姿は突如現れた水流に包まれ、形を変えていく。
やがて河野と融合した水は一つの姿を現した。
全身が水で成り立たせている全長十数メートルほどの巨大な蛇だった。
その蛇はアテネ達を睨みつけていた。
「やってやるわ」
アテネは臆することなく戦いの火蓋を切る。
「『竜の眼』展開。ならびに『竜の風』!」
『竜の眼』によってアテネの視界は一層クリアになり周りの動きがゆるやかになった。
アテネは両手に持つグリフィンに『竜の風』を込める。
そして水蛇の姿をとる河野に鎌を振り回した。




