25話 魔女の思惑
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「さて、秘宝さんを探しますかな」
河野は呟いた。周りには人一人いなかった。
そこは本来なら生徒達が歩いているはずの廊下だった。
それが今は河野一人しか立っていなかった。
その廊下は校長室へ続いていた。学園長室の前には一人の生徒が河野を待ち侘びるかの如く立っていた。
「待ってましたよ、河野先生」
「やぁ、新川君。反応はどう?」
「四方結界が破壊されたおかげで秘宝の場所がまるわかりです」
四方結界とは、この桐陵学園に張られた結界のことで、外敵から身を守る結界である。また、秘宝と呼ばれる法具の存在を封印するものでもある。この結界の基盤は桐陵学園の四方に隠されている。
河野達はこの基盤を破壊し結界を無効化した。
つまり、秘宝のありかが明らかになった。
「じゃあ、行くわよ。
新川君、あなたは私の援護に回って。一応ね」
「御意」
河野は学園長室の扉を指先から出した水で吹き飛ばした。
二人は学園長室の中へ入った。
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学園長室には学園長一人が座っていた。
「なんだね、河野先生?」
海堂左丹学園長がその渋い声で咎める調子を含めて言った。
「すみません、学園長。あなたには危害を加えたくありません。ですから、これからやることを邪魔しないでください」
河野は学園長のそんな調子に臆することはなかった。
「君が欲しがっているのは巷で噂になっている“秘宝”と呼ばれる法具のことだろう?」
「!?」
「わかるんだよ、私には。君が求めているものが。私もついうっかりしていたなぁ、君みたいな人が潜り込んでいることに。これでも期待していたんだよ、君が教師としてちゃんとやってくれるって」
「わかっていらっしゃるなら話は早いです。邪魔はしないでくださいね」
「君の思い通りにはさせないさ、あの法具は然るべき者が現れるまでは、封印しておかなければならない」
「私たちに刃向かうつもりですか?」
ゾワッッッ!!!
河野の背中から、水でできている蛇が無数に現れた。
その水蛇はそれぞれうねうね動きいつでも襲いかかれるように身構えていた。
学園長はその様子を見て立ち上がり、拳を握り身構えた。
「それでも、私はここを通すわけにはいかない」
「ならば、死んでください」
河野は一匹の水蛇を走らせ学園長に突き出す。
学園長はそれをひらりと交わし、机の上に乗っていた文鎮を投げつける。
河野はそれを水蛇で弾いた。
「ちっ、新川君今のうちに」
「御意」
学園長は尋ねる。
「なぜ、君は願いを叶える法具を望む?」
河野は答える。
「決まっているじゃない、誰だって一度は望むもの。
“絶対的な力が欲しい”ってね」
「なるほど、君はその願いで七つの大罪の仲間入りをしたいと」
「!?どこでそんなことを!そもそもあなたは一般人じゃないのか?なぜそんなことを知ってい・・・」
河野の声は最後まで続かなかった。
なぜなら、
「くらえぇぇぇぇぇ!!!!!」
後ろからアテネが迫ってきたからだ。
アテネは手にグリフィンを構え、加速魔法を使って突撃してきたのだった。
「うっ!」
河野は水蛇を防御に回して攻撃に備える。
アテネは、
「甘いわ!
打ち払う清めの風『清々しい風』」
新たな魔法を河野にぶつける。
その魔法は水蛇にぶつかると、水蛇達は一斉にぐったりした。
「なにっ・・・」
「さっきのお返しよ!」
アテネはグリフィンを振り切った。
河野は水蛇達が仕事をしなかったためもろに攻撃を食らった。
「くっ」
「これ以上は許さないわ、あなたをここで倒す」
「なかなかわね、とりあえずこの子達の嗅覚はなくさないとダメね」
「そもそもその香水止めたら?結構臭いがきついわよ、おばさん」
「ちっ、これは私の好みだからいいの!あと、私はおばさんじゃない!この姿は23歳の女性よ!」
アテネと河野が言い争いをしている後ろから、真理が走ってきた。
「ハァハァ、いきなりとんでもないスピードで走り始めて・・・俺を置いていくなよ」
「悪かったわね、こいつらが動き出したんだから仕方ないでしょ!」
「まぁそうだな。
さて、河野先生とそこにいる・・・なんとか先輩。
もう好きにはさせませんよ」
真理はそう言い放った。
「よう言う風になったわね。叩き潰してあげるわ。私の悲願の前菜としてね!」
「いくら面識がないにしたって「なんとか」って言うのはないんじゃないのか?」
河野と新川が言う。
「頼むぞ、竜崎」
「OK!」
アテネと真理が河野と新川に向かってそれぞれの鎌と拳を構えて走り出した。
*2012.2.4に修正しました。