24話 闇を照らす明かり(2)
「ほむらちゃん!!」
あかりは叫んだ。
それに対してオウルは冷ややかな目で見つめていた。
「どんなに叫んでも無駄です。あの一撃で、彼女はよくて意識不明、悪くて死んでますよ。どちらにせよ貴女を庇う存在はいなくなったという訳です」
あかりはきっ、と睨みつけた。
「なぜあなたの主っていうのは私のことを欲しがるの?何をするつもりなの!?」
「それは主がこの世界で身体を手に入れ統治するために他なりません。現在主は仮初めの姿です。力を得て完全な姿となるには貴女の存在が必要となる訳です。別に貴女には危害がないように配慮しますし、役目が終わればお帰りになってよろしいです。
主が統治する際もこちらの住人には危害を加えるつもりはありません。
さぁ質問には答えました。付いてきてください」
「それでも嫌。私は行かない」
「はぁ、出来れば傷付けたくなかったのですが、仕方ないです」
オウルは両手を広げた。
「我に従いて闇を作る鳥の饗宴。『百鬼夜鳥』」
オウルの周りの空間から突如として鳥が現れた。梟や夜鷹やカラスなどといった鳥らが飛び立ち、あかりを囲むように旋回を始めた。
「光よ集いて形を為せ。『光球』」
あかりが作り出した光り輝く球はオウルを目掛けて飛んでいった。
しかしそれはオウルが手で打ち払っただけで軌道を変えられダメージを与えることはできなかった。
「力付くで連れていきますからね」
オウルが指を鳴らすと、鳥らはあかりを取り囲んだ。そのままあかりの身体は持ち上がった。
「これで後は主のところまで連れていくだけd」
オウルの言葉は途中で途切れた。なぜなら、オウルの腹から赤く燃え盛る炎の槍が刺さったからだ。
「やっぱり貫通性能を高めると楽に刺さるわね。
どう、今のキモチは?」
「クソがァァア!」
苦痛を漏らすオウルの傍らにはいつの間にか現れたほむらが立っていた。
「ほむらちゃん!」
「今から行くよ、あかり」
ほむらは数多くの鳥に覆われ宙に浮いているあかりに近付いた。そして、ほむらはあかりに纏わり付く鳥らを毟り取りはじめた。当然鳥らは抵抗してほむらのことを突くのもいるが、気にすることなく毟り取り、周りに放り投げた。ほむらの両手を魔力で強化したため赤く光り輝いていた。
「なっ何を!」
腹に刺さった炎の槍をなんとか取り外したオウルは思わず叫んだ。それもそのはず。あかりを囲んでいた鳥らが無惨にも辺りにぐったり倒れていたからだ。それもオウルが呼び出した数の半分だった。
オウルが『百鬼夜鳥』によって呼び出した鳥らは魔力によって造られたものではなく、丹精込めて育ててきたペットなのである。その鳥らがこんな惨状になっていると知った飼い主は・・・・・・
「ふざけんな!」
オウルは拳を振りかぶった。
「『怒りの鉄槌』」
その拳は物凄い速さで後ろを向くほむらの背中を捉えた。
その一撃はほむらを吹き飛ばすには充分な勢いを持っていた。だがしかし、ほむらはそれを避けた。
「怒りは行動を単純にする。貴様の動きは読めてる。『火球』」
ほむらの放つ炎がオウルの身体を焼き尽くした。
オウルは炎に巻かれながらただ立ち尽くすしかできなかった。
オウルはほむらを見つめた。
「・・・・・・」
「負けを認める?なら、さっさと尻尾を巻いて帰りなさい」
ほむらはそう言い放った。
突如オウルが笑い出した。
「はははっ、怒りに任せても何も解決しない。たしかにそうですね。全く私としたことが、つい我を忘れてしまいましたよ。
幸いまだ鳥達の半数はあかりさんに引っ付いていて無事そうだし、私はまだ任務を終わらせていない。いいでしょう。
・・・・・・姫君には禁止されているのだが、仕方ない。やらなければならないのだからな。
おい、炎の魔法少女さん、全力でいきますよ」
オウルはそう言うと、上着を脱ぎ、手にはめていた手袋を投げ捨て、履いていた靴を脱ぎ捨てた。
オウルの隠されていた手足が表に出された。手は羽毛に覆われ、手というよりも翼であるように見えた。足は人のような肌色の五本指ではなく鍵爪の三本指だった。顔は以前として人のそれだった。
「昔は人面魚は流行ったようだけど、人面鳥は流行らないわよ」
オウルはほむらの軽口を無視して戦闘体勢になった。
「では、行きますよ」
それに対し、ほむらは手を前に出して魔法を行使した。
「『火炎壁』!」
炎が壁となり、ほむらを守るように広がった。
その直後、オウルの拳が突き刺さった。
「さすがに破ることはできませんね」
「破らせるつもりは毛頭ないわ。
汚れたものを断ち切れ。『炎剣』」
その詠唱によりほむらの手には燃え盛る炎によってできた剣が握られた。
「喰らえ!」
「ぬん!」
ほむらの炎剣とオウルの拳が激突した。その衝撃で周りにある窓ガラスがぎしぎしと音を鳴らした。
炎剣と拳がぶつかり合って、少ししてそれまで均衡状態だったのが崩れた。拳の方が押していた。
ほむらは炎剣の向きをずらし、拳を逸らそうとした。
しかしオウルの拳が炎剣を押していてうまくいかなかった。
結局
「仕方ないわ、
弾けとべ。『破裂』」
詠唱自体はシンプルだが、その威力は確かな爆発系下級魔法:『破裂』を、
炎剣に向かって使った。
炎剣はその内包する炎を全て外に吐き出し、ほむらとオウルを焼き尽くす勢いで迫り来た。
ほむらはすぐに後ろに跳んで爆ぜる炎を避けた。
しかし、対するオウルは突然の攻撃に驚き、避けることができなかった。
そもそも一歩間違ったら自分が大怪我するようなことをすると思うか。いや、ないだろう。刻々と変わる戦いの中でそんな綱渡りのようなことはできる訳がない。出来たらそれは曲芸の域だ。しかし、ほむらはそれをやってのけた。
「ふぅ」
ほむらはそっと息をついた。
「どうせ、まだ力は残っているんでしょ、鳥さん?」
「当たり前ですよ、これくらいで敗れるのでは姫君のお近くにいられませんから」
炎剣を爆ぜさせたことによって煙が充満していたが、それらを一凪ぎで打ち払い、オウルが姿を現した。
その様子を見てほむらは、
「我の生命を喰らいて、」
オウルはその詠唱を耳にしながら、拳を振りかぶりほむらに接近した。
「ここに現出せよ。『火炎処女』!」
「『疾風撃』!」
二人の声が重なり激突した。
オウルの今までの中で一番重い拳の一撃を受け止めていたのはほむらではなく、焔を纏う一人の少女だった。
「なっ!」
オウルは思わず声を漏らした。
火炎処女は拳を受け止めていた両手を引き寄せ攻撃へと繋げた。
火炎処女は声を発した。
「燃やし尽くす業火よ、罪人に罰を与えよ。我に・・・」
オウルにはその詠唱は聞き覚えがあった。以前一度魔法少女と戦った時に見た炎系上級魔法『地獄の火炎』。その時はオウルの主『常夜の姫君』が防いだが、今は彼一人だけだ。
オウルは詠唱を止めるべく火炎処女の口元を狙って拳を振るった。
オウルの拳は火炎処女の顔を吹き飛ばした。顔を無くした火炎処女は火が消えるように姿を消した。
だがしかし、
「我に地獄を見せよ、魂を焼き払え『地獄の火炎』」
その後をほむらが詠唱を繋げた。
「何っ、繋げただと!」
オウルの声が辺りに響く。
そして、
『地獄の火炎』が焼き尽くした。
音が消え、色も消えた。ただ炎が全てを焼き尽くすだけ。
そしてほむらはあかりの方を向いた。
そこにはあかりと、あかりを抱き抱えるオウルがいた。
「!?」
「ふぅなんとかうまくいきましたよ、炎の魔法少女さん」
オウルはあかりを抱えたまま物凄いスピードで飛んで行ってしまった。
「ほむらちゃぁぁん!」
抱き抱えられたままのあかりは叫んだ。
しかし、その声は遠くなっていった。
ほむらはただ立ち尽くす他なかった。
「どうして・・・」
ほむらは今の出来事を受け入れることがしばらく出来なかった。
オウルの名前の由来は梟のowlから取りました。かなり安直です。
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*2012.2.4に修正しました。