22話 覆われる闇(5)
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北階段で爆発が起き、青く澄み切っていた空が、一瞬にしてその有様を変え、闇が覆い尽くした時。
アテネや早苗達だけが動き出したのではなかった。この桐陵高校にいる魔法少女はまだ他にいる。
そんな中に一人。
一度全てを奪われ、再び守りたい者を手に入れた少女。
炎を操る魔法少女、後藤ほむら。
ほむらの戦いが始まるのだった。
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時計の針が12:30を指し示したその時、爆発音がした。
その音は学校中に轟いた。ほむらはその時教室にいた。まだ授業中だった。
「ん?」
ほむらは外で異常なことが起きていることを感じ取った。おもむろにポケットから赤色の宝玉を取り出し、覗き込んだ。大きな輝きが二つあった。
「ふぅ」
しかし、ほむらは立ち上がらなかった。この学校に大きな力を持つ鬼、いや魔女がいるのがわかっていても、ほむらは倒しにいこうとは思わなかった。
理由は二つ。
一つ目は、この学校には魔法少女が他にもいるから。ほむらが知っているだけでも3人いた。その他にもほむら自身が知らないだけの魔法少女がいる。だからわざわざほむらが出ていく必要はなかった。
二つ目は、ほむらがしたいことはあかりの側にいること。あかりを守ることだけだった。自分自身の命には執着していなかったし、守りたい家族なんてすでにいなかった。唯一守りたいと思うのはあかりだけだった。
そんなほむらはただ状況を静観していた。
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少しして。青く澄み切っていた空が闇が覆い尽くされ、辺り一帯が闇に包まれた。
教室はすかさず自動で照明がついたが、混乱は収まらなかった。皆何が起きているか気になるが、その反面知りたくないという心理状況だった。
そんな中、いきなり教室のドアが引き開けられた。
開けたのは、黒い毛皮のクマだった。なぜか白衣を着ていた。
そのクマは教室の中を見渡すと、ニヤリと笑みを浮かべた。そして近くにいた女子生徒を片手で掴むとそのまま口に運んだ。皆何が起きているか理解できずにただ見ているだけだった。我に返った時にはすでにその女子生徒は黒ストッキングに包まれた脚だけが残っている状態だった。
「何が起きてるのぉぉぉ!?」
「やべぇよ、世紀末だよ!」
「誰か助けてぇぇー!」
阿鼻叫喚な情景が繰り広げられていた。恐怖に駆られただ助けを請うだけの人形に成り下がっていた。そんな様子に白衣のクマはケタケタ笑っているのだった。
そんな中、ほむらはあかりを庇うように立ち上がり、
「バカな奴」
と言いながら、片手を白衣のクマに向け、
「魔法起動:『火球』」
その炎の塊はクマの額に当たり爆ぜた。
「グルウ゛ァーァ!」
そのクマは頭をぐらつかせながら叫んだ。
そして、標的をほむら一人に絞った。
「やっぱり変身しないと一撃では無理か。」
ほむらはクマの様子を気にすることなく呟いた。
そして自らの姿を魔法少女のコスチュームに変えた。
傍らにいるあかりはいきなり変身したほむらを見て、驚いた表情を見せた。
「心配はいらないわ。すぐに終わるから」
誰にともなくほむらは言った。そして腕を振り上げたクマを見て、詠唱を唱えた。
「『火炎壁』」
紅く揺らめく炎がクマの振り下ろした一撃を受け止めた。その炎はクマの腕に絡み付き動きを止めた。
ほむらはもう一度詠唱を唱えた。
「汚れたものを断ち切れ。『炎剣』」
ほむらの手に剣の形をした赤い炎が握られた。
「これでおしまい」
ほむらは『火炎壁』に動きを止められたままのクマに向かって剣を振るった。
白衣の肩から腕をぶった切った。腕を切られたせいでクマは体勢を崩した。
そして、ほむらは剣をクマの胸元に突き刺した。
「グワァーァ・・・」
クマは光を撒き散らしながら消え去った。
「ふぅ」
ほむらは溜め息とともにあかりを見た。自分の魔法少女としての姿を見てどう感じたのか気になったからだ。心のどこかで敬遠されたらどうしようと思っていた。
しかし、あかりはそんなことなかった。
「ほむらちゃん、ありがと。助けてくれたんだよね」
「えぇ、そうよ。」
あかりの表情は華やいでいた。
「ねぇねぇ、ほむらちゃん。その服かわいいね。どうやったの?」
「えっ?あぁ、これはね。魔法少女のコスチュームなんだけど・・・・・・」
「すごーい。金色の刺繍入ってる!かわいいー」
「そっそうかしら。」
「いいな。私のと全然違う。」
「っ!!」
ほむらは今の言葉を聞き逃さなかった。
「今のどういう意味!?」
「ふぇ?今のって?」
「だから!私のと違うっていうの!」
「ほむらちゃん。ちょっと外に行こっ!」
「あぁ、わかった」
二人は教室から廊下に出た。
廊下の奥には先程とは違ったメイド服の黒クマがうろついていた。
「ほむらちゃん、実はね」
「うん。」
あかりはふぅと息を吸うとこう言った。
「私も魔法少女なの」
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*2012.2.4に修正しました。