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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
27/123

21話 覆われる闇(4)

 ■■■


 一方で。


 アテネ達が去った後、教室は騒然としていた。

 いきなり外で爆発が起きればそうなるのは必然である。ある生徒は窓から爆発の起きた場所を見ようとし、ある生徒は友達と不安を紛らわそうとしていた。

 そんな中で。




 「大輔、首尾はどう?」

 「よく見えてる。爆発系の攻撃のようだな。まだ犯人がわからないが、魔女が絡んでいるとみた」

 「ならばそれは陽動ね。本命を叩きましょ」

 「あいよ。準備する」

 大輔は鞄の中からお(さつ)ほどの大きさの、何やらミミズがはいつくばったような字が書かれた(ふだ)を何枚も取り出した。


 「あら、戦うつもりなの?」

 早苗が問い掛けた。

 「どちらかって言うと護身用だな。基本的に直接やり合うつもりはないぜ。その役目は早苗、お前の仕事だろ」

 「まぁね。行くわよ」


 早苗と大輔が混乱が起きている教室から外へ出ようとした時に異変は起きた。




 青く澄み切っていた空が、一瞬にしてその有様を変え、闇が覆い尽くした。

 それに伴い、教室の中も暗くなった。




 「くそっ、もう始まったか。ヤバいぞ、早苗」

 「濃密な闇の力を感じるわ。相当危ないのが力を解放しているみたいね。

 ついでにいっぱい雑魚も喚ばれたようね」

 「一から潰すか」

 「もちろん。第一優先がみんなの安全だもの」




 早苗と大輔が教室のドアの前で話していると。

 いきなり叫び出した人がいた。


 「よし、出番が来たぜえええぇぇぃ!」

 小林レオだった。

 「王の命令(おれのいうことをきけ)!」


 当然周りにいた人達はいきなりのレオの叫びに驚いた。

 それと同時にわらわらと集まるネズミやネコの大群に、何事かと思うのだった。


 「まさか・・・」

 早苗もレオのする所業に驚いていた。

 一方で大輔は冷静にこの状況を述べた。

 「これが小林レオの能力、獣王の資格(アニマルミッショナリー)か。さすがだな」

 「知ってるの?」

 「実際に見たのは初めてだな」

 「でも何をするつもりかしら」


 大輔はネズミやネコに囲まれるレオに近付いていった。

 「おぉい、何をするつもりか?」

 「おっ、安部(やすべ)。これから敵を討ちにいくから、その軍団を編成しているだけだ」

 「敵って、アレか?魔女か?」

 「よくわかんないけど、竜崎から頼まれてさ。」

 「竜崎さんか、ならわかった」

 「えっ、納得するのか?」

 「安心しろ、俺らは竜崎さんと同類だ。

 あと一つ言うとな、あんまし他の人にばれないように努めろ。後でどう申し訳するんだよ」


 「あっ、そうか。俺、出番来たと思ってつい嬉しくなって・・・」

 「俺らも敵を潰しに行くからついて来い」

 「あいよ」


 レオは大輔について早苗と共に教室の外へ出た。ネズミとネコを引き連れながら。 


 「・・・」

 「小林くん」

 押し黙った大輔に代わり早苗が言った。


 「なんだい?」

 「その子達じゃなくてもっと大きなのはいないの?」

 「虎が一匹なら喚べるけど・・・何か問題でも」

 「大ありよ。そんないっぱい引き連れていたら面倒くさいでしょ。その虎にでもしておきなさい」

 「ワカリマシター」





 ■■■


 早苗を先頭に、一行は廊下を歩いていた。

 「やっぱりいるね」

 「だな。じゃあ頼んだ」

 「OK!」


 早苗は魔法少女のコスチュームになった。腰には刀の法具が挿してあった。

 早苗達の視線の先には黒い犬が3匹いた。それらは牙を剥き出し、赤く光る目で獲物を探していた。どう見ても異形の生き物だった。そのうちの先頭にいる一匹は誰かが投げ捨たと思わしき靴をくわえていた。


 「いくわ」

 早苗はそう言うなり飛び出した。

 異形の犬らが早苗に気付いた時にはすでに早苗の攻撃範囲に入っていた。


 「らあぁぁぁ!」

 早苗は法具『六連星(むつらぼし)』を引き抜き、刀身を叩きつけた。早苗が魔力を送り込んだため、刀身は黄色に輝いていた。

 「『閃光剣』!」


 その一閃は、目の前で牙を剥く異形の犬の頭部を吹き飛ばした。その衝撃で体ごと後ろにノックバックした。

 それでも、その犬は立ち上がり、喉がすでに無いのに唸り声をあげて闘う意思を示した。


 「なんなんだ・・・」

 「ちょっと待ってくれ、柴さん。何を言っているのか知りたいんだ。あいつらだって襲い掛かるつもりがないのかもしれないし」

 「できれば不安分子は取り除いておきたいんだけどね。話でも聞けるの?」

 「たぶん。やるだけやってみたいんだ。ダメだったら斬っていいよ」

 「大輔はどう?」

 「いいんじゃないか?やってみても面白いな」


 「はいはい。じゃあ、それだけの時間は稼ぐわ。

 ・・・我の身を守れ『雷盾(シールド)』!」

 早苗は目の前に、身の丈ほどの丸い淡い黄色の盾を作り出した。


 その間にレオは意識を犬に向ける。そして言葉を紡ぐ。

 「さぁ、人の言葉を話してみろ!」



 キーン



 小さな鈴を鳴らすような透明感のある高い音が辺りに鳴り響いた。

 すると、それまで唸り声しかあげていなかった異形の犬が人にも理解のできる言葉を発し始めた。


 「これは何の術にゃ」

 「どうやら我らの言葉が人の子にもわかるようになったのじゃろう」

 「ぎゃぁあ・・・」

 「おい、ヘイズ。喚くな、人の子にも聞こえてしまうにゃ」

 「そうじゃそうじゃ。我ら黒狼(シュバルツヴォルフ)の尊高な存在に傷がつくじゃろう。大体相手を知らぬ状態で闘うなんて分が悪いじゃろ。ここは逆らうのじゃないぞ」



 「「「・・・・・・」」」

 三人はこの黒狼(シュバルツヴォルフ)達の会話を聞いて拍子抜けした。


 そんな中で後ろにいた一匹の黒狼が前に歩んできて、話し出した。

 「我の名はハイドじゃ。先ほどは無礼な真似をした。すまなかった。

 そなたら人の子に申し上げたい。ここはどこじゃ?そして帰り方とかわかるかのぉう?」



 「・・・・・・は?」

 「よくわからないんだけど、どういうことか説明してもらえるかしら。」


 ハイドは重々しい雰囲気を醸し出しながら厳かに告げた。

 「我らは魔界に住んでいるのじゃがな。そこで仲良く過ごしていたのじゃ」


 そう、この世界とは違う世界:魔界というのがある。


 「さらりと凄いこと言ったよね」

 「鬼らが住む異世界なんてあまり知られていないからね」


 「そうそう、我らはお主らが呼ぶ鬼ではないぞぉ」

 「えっ、どういうことなんだ?」

 「鬼というのはこの世界、我らは混界というのじゃがな、に来て魂を喰らうのじゃ。わしも見たことがあるのじゃがなそら恐ろしい奴じゃ。

 我らは魂を喰らうことなぞせぬ。世界のかすとでも言おうか、それらを食べておる」


 「そうなのか・・・」

 「で、なんでここに来たのよ?」


 「それはな、召喚魔法によるものじゃ」


 ハイドの台詞に二人は驚いた。

 「なんと・・・魔法は魔法少女しか使えないんじゃないのか!?」

 「いいや、お主は間違うとる」

 「へっ?」

 「言い方は確かに違うのかもしれんのだが、鬼らも魔法は使う。」

 「・・・もしかして魔法と法術は同じなのか!?」


 法術とは鬼が使う魔法とよく似たものである。現在、魔法少女が使うものが魔法、鬼が使うものを法術といい、力の源泉が違うとされていた。ちなみに能力者が使うのは魔法に近い存在である。ただ魔法と比べ自由が利かないものなだけだ。魔法と能力(ちから)には明確な違いはない。



 「そうじゃ。魂の力を使っておるからのぅ。違いはないのじゃ」

 「そうだったのか・・・知らなかったぜ・・・」


 そこでガックリうなだれ、orzのポーズをとる大輔。シュールな光景である。


 「で、ハイドさん。誰が召喚魔法を使ったかわかりますか?」


 「たぶんそうだと思うのじゃが。魔女『常夜の姫君』じゃ。この(やっこ)はこの地に降り立ち、魔界にいた者達を無差別に喚んだようじゃ。恐ろしい(やっこ)じゃな。」


 それを聞いて早苗と大輔は渋い顔をした。

 「『常夜の姫君』ね・・・」

 「アレだよな、協会で言ってた奴?少女に憑依して病院壊した奴。」

 「厄介ね。早めに叩きましよ」

 「よし、決まれば早速。

 あぁハイドさんありがとうございます。とりあえずこの件が終われば帰る方法も見つかりそうです。とりあえずそれまで脇で待ってください。

 ほら、小林。惚けてないで行くぞ!」

 「ハイドさん、ありがとうございました!」


 早苗と大輔はレオを引き連れて先へ進んで行った。





 残されたハイドとその仲間達はというと。

 「なかなか面白い人の子じゃのう」

 「ハイドさん、とりあえず隠れる場所探しましょ」

 「そうにゃ。後のことは後でいいにゃ」


 三匹の黒狼はとぼとぼとその場から去って行った。




*2012.2.4に修正しました。

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