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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
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18話 覆われる闇(1)

 そこは『常盤(ときわ)の森』の中心部。とっくのとうに日は沈み、悪鬼夜行が(うご)めく夜。

 そんな中一人の女性が立っていた。彼女の名は河野香(こうのかおり)。桐陵学園の教師だ。


 河野は中心部にある大樹に辿り着くと、手をついて息を整えた。

 本来この『常盤の森』には人は来ない。来るのは酔客な人か自殺願望を持った人だけだ。



 河野は大樹に向かって話し掛けた。



 「どうも目覚めていますか?『常夜の姫君』」


 少しして声が返ってきた。

 「なにかしら、私に用か?『水蛇(すいだ)の女王』」



 「本題からずばり言いますと、ちょっと暴れてみませんか?」

 「ふふっ。なかなか面白そうなことを言うじゃない。もっと話を聞いても良いわ。話してみぃ」

 「貴女ならそうと言うと思っていました。具体的に言えば、今日の昼にこの近くの桐陵高校で大暴れ、っていう話です。特に何かしようとも構いません」

 「一つ聞く。そなたの目的は何なの?単にそなたも暴れたい訳じゃないでしょ」

 「・・・貴女の慧眼には恐れ入ります。私の目的はただ一つ。そこに隠された法具を手に入れること。そのために陽動が必要なのです。どうですか、報酬が必要ですか?必要なら用意しますが」

 「いらない、好き勝手できるなら構わない」

 「そうですか。なら時間になったら私の使いがここに参りますから、そうしたら使いに着いて指定の位置まで来て下さい」

 「面倒なんじゃ、今から案内してくれない?」

 「わかりました、参りましょう」




 皆が寝静まる丑三つ時。人が立ち入ることのない森の中から、一人の女性と一人の少女が出て来た。底の見えぬほどの闇を纏いながら。








 ■■■


 次の日。真理とアテネは朝いつもの光景を繰り広げていた。


 「おい、こら。寝るな。遅刻するぞ」

 「あと・・・5分・・・」


 アテネが朝ごはんを食べた後、ダイニングテーブルに突っ伏して寝惚けていた。


 「仕方ない、アレを使うか」

 真理はそう言うなり、冷蔵庫の中にあるものを取り出した。

 「ちょっと口開けろ」

 「ぅんっ・・・」


 アテネが言われるままに口を開け、その中に赤い物体が放り込まれた。

 「口を閉じてろ」

 「ん?・・・んんん!?」

 アテネは苦悶の表情を浮かべ口を開けて異物を出そうとした。


 「待て。食べ物を粗末にするな。しっかり食べろ」

 「う゛っ、ぅうううーん!!」

「わかったわかった、これで目が覚めただろ。ほい、水」

 アテネは出された水を一気に飲み干した。


 「はぁはぁ、死ぬかと思ったわよ」

 「大丈夫大丈夫。キムチごときで死ぬ人いないから」

 「きっ、キムチ?」

 「そう、キムチ。この前買ってきたキムチ」


 「なんてもの食わしてんの!」

 アテネはこぶしを振りかぶって真理にアッパーをかました。

 真理は吹き飛んだ。


 「ぐはっ」

 「私がキムチ嫌いなの知っているじゃない」

 「わかったわかった。悪かったって」

 真理は殴られた胸を押さえながら謝った。


 「まったく。何してくれてんのよ」

 「わかった。後でケーキ買ってきてくるよ」

 「じゃ『アゲトビレッジ』のチーズケーキね」

 「はいはい」


 「それにしても朝からアレは最悪だったわ」

 「だけど目が覚めたから良いじゃないか。遅刻しないで済む。良いじゃないか」


 「全然良くない!」

 真理は再び吹き飛んだ。






 ■■■


 「いててっ・・・」

 「真理が悪いんでしょ!」

 「いや、竜崎が寝惚けるからだろ。嫌だったらさっさと起きろよ」


 「それは無理。ちょっと最近真理ってば私に対してぞんざいな態度じゃない?

 いくらなんでも女の子への接し方がなってないわ。

 ねぇ、もう少し優しくできないかしら」


 アテネは瞳を潤ませて真理を見上げた。

 「優しく、して」


 「うっ・・・」

 真理は不覚にもアテネのことをかわいいと思った。アテネはかなりかわいい顔立ちをしている。学校でもトップ10には入っているだろう。そんなアテネが普段見せない仕草をしたらどうだろうか。


 「・・・・・・」

 「ってどう?私のことかわいいって思ったでしょ」

 「はぁ?」

 「ふふふ、私の手にかかればアンタなんてイチコロよ」

 「・・・・・・」

 「なんでそこで視線が冷たくなるのよ。そこはハハァーって土下座するところでしょ。ちょっとねぇ、ねぇってば」

 「なら、一言言わせてもらうが」

 真理は間をおいて叫んだ。


 「俺で遊ぶな!」






 ■■■


 なんだかんだあり、二人は教室に着いた。

 「疲れたー」

 「今から疲れてどうするのよ。ほら、しゃきっと」

 「お前が言うな」


 二人が話しているところに割り込んできた人がいた。小林レオだった。

 「相変わらず仲良いな、お二人さん。付き合ってんの?」

 「「なっ!?」」

 二人は飛び上がって驚いた。


 「何言ってるの、小林くん!」

 「ほらほら、言っちゃいな、付き合ってるのかどうか」

 「俺と竜崎はそんな」

 「べっ別に真理とは何もないんだからね!」


 真理はアテネを見ながら、なぜアテネが慌ているか、ふと疑問に思った。

 自分もなぜか慌てていたのだったが。



 少し離れたところで

 「まったくあの二人は」

 「なぁ早苗。次の授業ってなんだっけ?」

 「一時間目でしょ!それぐらい覚えておきなさいよ。数Ⅰだよ!覚えた?」

 「ほんと、ありがとうございます!」

 「はぁ。大輔ったら」







 ■■■


 いつも通りの一日が始まろうとしていた。互いにふざけたり言い合ったりして始まり何の不幸にも出会わないそんな日常。

 だがしかしそれは大いに裏切られることとなる。アテネにとって想定された待ち焦がれた戦闘。早苗にとって仲間達を守るための戦い。同じ学校にいるほむらにとっては自分と一人の少女に降り懸かる災厄を振り払うだけの防衛。

 そしてその瞬間、戦いの火蓋が切って落とされることとなる。






 午前中の授業がそろそろ終わり昼休みに入るその時。

 真理は四時間目の保健の授業をぼんやりと過ごしていた。


 「・・・ということでして。あぁ、もうお昼なんですね。

 じゃ今日の授業はここまで。はい、号令」

 こじんまりとした体格の女性保健教師は生徒に号令をかけさせた後そそくさと教室を出て行った。






 時計の針が12:30を指し示した瞬間、四時間目の終了のチャイムが鳴る代わりに爆発音が鳴り響いた。






*2012.2.4に全面的に書き直しました。

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