間話 ほむらとあかりの出会い
今回はほむらについてです。
私:後藤ほむらは今から2年前に桐陵高校に入学した。入った時から学校には期待していなかった。授業には全く興味はなかったし、“仕事”のせいでほとんど時間がなく、友達なんて出来ないと思っていた。
そして予想通り平凡極まる1年が過ぎ(知り合いはいくらか出来たが)、2年になりクラス替えがあった。
新しいクラスになり、初めて彼女を見た時に驚いた。いや、驚いたという言葉は適切ではないかもしれない。一目惚れとも違う。その彼女の纏う雰囲気に惹かれた。
これが彼女:九条あかりとの出会いだ。
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それからというものの、彼女とは友達になった。出席番号順に並ぶ席が前後だったため、話せる機会が多くすぐに仲良くなれた。彼女からは何か精神を安定させるような波動が出ていた。
今まで友達を作ることの出来なかった私にとって、彼女と友達になるということは新鮮な体験だった。いつも脇からしか見ることのできなかった友達同士の馴れ合いをすることが出来た。
いつしか二人で互いの身の内話をするようになった。
・・・はっきり言って自分から身の内を話すのはこれが初めてだった。大体両親が死んだ理由をおおっぴらに話すことはできない。誰が鬼に喰われましたっていう話を信じるだろうか。否、いないだろう。信じるのはそれが魔法少女関連の人か、もしくはそれが鬼なら信じるだろう。両親は表向きは、家の中にいた強盗犯達と遭遇してそのまま連れ去られ消息を絶ったということになっている。
私はそんな身の内話を表向きのそのままの形で話した。彼女はそれに対して、微笑み、そしてこう言った。互いに辛かったんだね、と。
その後、彼女の身の内話を聞いた。
彼女には母親がいない。彼女が生まれて間もないころに死んだそうだ。それから父親と二人で暮らしているようだ。早くに亡くなった母親から遺されたブローチを肌から離さず持っている。
そのブローチを見せてもらった。そのブローチは真ん中にアメジストをあしらっていて紫色に輝いていた。そして中からは少量であるが濃密な魔力が感じられた。
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それから幾許か経って。
私と彼女が一緒に学校から帰る時だった。その日は互いに用事があり、帰る時間が遅くなっていた。
外は、桜の木が葉桜に変わっていて、それらが夕日に照らされて橙色を帯びていた。
「夕日って見てると何か悲しくならない?」
彼女が唐突に言った。
「そうだね。一日がもう終わるって感じだね」
私はそう返した。
私と彼女の会話はそうそう長続きしない。それでも私は彼女と話している間が一番好きだった。
「夕日はいらないことまで思い出させる。だから好きじゃない。ほむらはどう?」
「そうね。私もあまり好きじゃないよ」
「そっか」
夕日が私達を照らしていた。
そして私達が路地に入ったところで彼女との穏やかな時間が終わりを迎えた。
そこには鬼がいたのだ。
その鬼は、赤鬼の姿をしていた。手に金棒を持ち、筋肉隆々とした姿を見せていた。
私は側にいた彼女が鬼を見て気絶したのを見て、彼女を抱き寄せほっとした。彼女に記憶操作の魔法なんて使いたくなかったからだ。
私は鬼に向かって話し掛けた。
「ねぇ、そこの鬼。通らしてくれないかしら」
「何言っているんだ小娘。オイラは腹が減っているんだ。獲物は逃がさんよ。まして小娘は魔法少女なんだろォ。オイラと闘うべ」
「せっかく友好的に持ちかけているのに、そこの鬼と来たら空腹の戦闘狂なのね。全く虫酸が走るわ」
私はそう言うと共に、服を魔法少女のそれへ変化させた。
私の魔法少女の服は朱に染まる浴衣だ。所々に金色であしらっていて気に入っている。ただ残念なのはこの服装の時は鬼との闘いの最中だということだ。
「汚れたものを断ち切れ。『炎剣』」
私の詠唱に呼ばれ炎から成り立つ剣を生み出す。私はそれを掴み右手で構えた。この剣は敵意を持つ者に反応して炎を燃え上がらせる。一方で敵意を持たない者にはその熱さは感じられない。彼女は私の左腕の中で気絶したままだった。
「掛かってきなさい」
「ウォォ」
赤鬼は金棒を振り上げ襲い掛かってきた。その一撃は力強く、喰らえば魔法少女になっている今でさえ命を落しかけないものだった。
私はそれを避け、赤鬼の身体を右足で蹴りつけた。そして詠唱した。
「飛べ!」
赤鬼はそのまますっ飛び、近くの空き地に飛び落ちた。
私は隅に彼女を下ろし、後を追った。
私が空き地に着くと、赤鬼はひっくり返っていた。突き出たままの尻に向かって剣で切り付けた。
赤鬼はその一撃を受け、体勢を立て直し金棒を構えた。
「今まで喰ってきた小娘達はそんなことしてこなかったんだがなァ」
「単純な魔力による身体強化よ。さっさとぶっ潰れてくれない?面倒くさいんだけど」
私は言った。
「そういえばそこの鬼。第5真租の餓鬼って知ってるかしら。私、そいつに会いたいんだけど。」
「!?なんだとォ・・・会うなんてそんなこと無理だ。オイラ達でさえ会ったことすらないんだからヨ。そもそも会いたいって奴初めて見たぜ」
「知らないならいいわ。さっさと終わらせましょ。
我の生命を喰らいて、ここに現出せよ。『火炎処女』!」
そこに焔を纏う一人の少女が現れた。
私の魔法『火炎処女』は分類でいえばゴーレム生成魔法だ。だが、ただのゴーレム生成ではない。ゴーレムは基本的に術者の命令を逐一聞いて動くが、私の『火炎処女』は基本的に自律型だ。自分で戦況を見て自分で適切な攻撃を繰り出す。さらに『火炎少女』は手から炎の球を出し投げ付けたり剣で切り付けたりすることができる。その一撃一撃は私の使う魔法攻撃を凌ぐ強さを持つ。
焔を纏う少女はその金色に光る目を赤鬼に向け、手を振り上げた。手には燃え盛る炎の球体が出番を待っていた。
「なっなんだそれは!」
「良かったね、消える前に私の『火炎処女』を見れて。すぐに楽にしてあげるよ」
「やめろォォォ!」
焔を纏う少女は無慈悲に手を振り下ろした。
手から離れた炎の球体は赤鬼の胸部分に当たり、身体の中心を穿った。そしてその炎は赤鬼の存在を焼き払った。
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「ふぅ」
私はそっと溜め息をついた。『火炎少女』を使うには多くの魔力を使うのだ。
「さて」
私は道端に置き去りにしてしまった彼女を探して家に帰るため歩き出した。
彼女を見付けたが依然として気絶したままだった。だから私は彼女を抱えたまま、とりあえず自分の家に連れていくことにした。
少し歩いた所で彼女は気が付いた。
「うっ・・・ん?」
「気が付いた?」
「あれっ私・・・」
「いきなり倒れたからびっくりしちゃったよ。大丈夫?歩ける?」
「うん。大丈夫。」
彼女は私の方を向いた。
「助けてくれたんだよね。ありがと」
「いいっていいって。早く帰ろ」
「そうだね」
私と彼女は二人で歩き出した。
そして彼女は唐突に言った。
「私はいつも守られてばかり。本当にそれでいいのかなって思う。私は守られるんじゃなくて誰かを守る人になりたいなって思うの」
「あかりはそのままでいいんだよ」
私はそう返した。
「私は自分自身に災厄が降り懸からやすい存在なんだよ。そのせいでお母さんは死んだ。それでもほむらちゃんは守ってくれるの?!」
私は彼女の母親が魔法関係者で、娘のことを今でも守っているのだと悟った。
彼女のその言葉に私は、
「何があってもあなたを守る。だから安心して」
と言った。
「ありがと、ほむらちゃん」
彼女は微笑んでいた。
*2012.2.4に修正しました。