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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
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15話 蠢く闇(2)

 上山優子(かみやまゆうこ)はクラスの中でもあまり目立つ方ではなく、どちらかと言うと地味な部類である。髪は黒々としていて腰まで届く長さだ。顔はまさに大和撫子で日本的だ。あまり人と話さなく、友達も少ない、そんな真理のクラスメートだ。

 彼女と真理とはほとんど接点がなく、これが初めて話すことになるのだった。



 「上山さん?」

 真理は予期もしない人物が現れたため思わず聞いてしまった。


 「はい、お待ちしていました。神内さん」

 どうやら彼女が真理を呼び出したということがわかった。

 「教室ですと周りの目が気になって申し上げにくいのでこの場所まで来てもらいました。」



 「申し上げたいのはですね・・・ん、ん」

 上山は声の調子を整えた。真理には彼女がこれから大事なことを言うのだなと思った、何やら自分に関係があることの。

 「この学校に入ってからずっとあなたのことが気になって見ていたのですが、この気持ちが抑えられなくて」

 「・・・」

 真理は何も言うことができなかった。自分の予想が当たっていたことに密かに喜ぶ反面、なぜ自分なのだろうかと疑問を感じていた。真理自身、自分の顔は平均的であると思っている。取り立てて不細工ではないがだからといって人目をひく訳でもないだと思っている。





 「だから、」

 そして上山優子は言った。




死んでください(・・・・・・・)




 そう言うなり、手に持ったナイフのような鋭利なもので切り付けた。その鋭利なものは深い闇の如く黒光りしていた。

 彼女が切り付ける軌道は真理の体の中心を捉えていた。だが、しかし真理は何も考えず、ただその直感のままに避けた。結果その斬撃は何も切り裂くことはなかった。上山は勢いのまま少し離れたところに立った。




 「改めまして、神内さん。私の名は上山・フラジール・ユーコです。しばしお付き合いの間よろしくお願いします、とは言いましてももうお会いすることはないのですけど。私のことはユーコと呼んでください」


 彼女はトンッと足を踏み鳴らした。すると上山と真理の周りの風景が突如として深い森に変わった。

 真理には今の言動と上山優子との繋がりを理解することができなかった。真理の知る上山という人がいきなり切り付けてくるとは想像もつかなかった。だがこのような空間は見覚えがあった。何やら得体のしれない感じ、浮遊感、時間感覚が狂いそうな感じ・・・・・・


 「そうか、今俺は“谷”にいるのか。これはお前が作ったのか?」

 真理は問い掛けた。

「さすがですね、神内さん。見ただけでわかるとは。そうです、これは私が作った谷です。名は“蠢く森”です。自信作ですよ」



 「この後約束がありまして、あまり時間もないです。ですから、手早く()りますね」



 再び斬撃が真理を襲う。この時の上山の動きはすでに人間のそれを越えていた。その動きを捉えることは人間には難しい。


 何度も繰り返すことになるが、真理はただの人間ではない。内に秘める力がある。それはただ魔法を弾くだけの力ではない。むしろそれは真理の持つ力の一端である。真理には他人(ひと)とは違う能力がある。それは目である。これは目に映るどんなに速く動くものでもその動きを捉えることができる。


 その目のお陰で真理は傷一つ負うことなく避け続けることができた。まだ今のところは。




 (どうやってここから出れるんだよ。最悪ここで死ぬしかないのかよ)


 「何で避けるのですか?」

 「いや普通避けるだろ!!こんなところで死にたくねぇーし」

 「面倒なので諦めてください」

 「おいっ!つーかなんで俺が狙われているんだ?」



 すると上山は呆れたかのような表情を浮かべた。

 「神内さんは自らの存在について何も知らないんですね。

 はぁ、いくらなんでもなぜ狙われるのかわかっているかと思っていたのに」

 「・・・どういうことだ?」


 「ではこう言えばわかりやすいですね。神内さんが竜崎さんと共に倒したデュナミスの仇です。

 少し違うのですが、大方そういう理由です」

 「・・・そういうことか。お前もやっぱり鬼か。じゃあ、お前とデュナミスの関係はなんだ?ただの同類(おに)同士だからって訳じゃないだろ」

 「ふふっ。デュナミスは私達(・・)の同志でした。もうお後はよろしいですよね。この谷は中からは絶対に抜け出ることができないのですから。神内さんはここで受け入れる(ほか)ないのですよ」

「事情はだいたい掴めた。俺がどれだけの危機にあるかもわかった」


 「なら、さっさと諦めて死んでくれませんか?今なら痛くないようにしておきますので。何なら男の子が好む奉仕(・・)でもしてあげましょうか。冥土の土産にそれくらいしてあげますよ。私の相手(もの)になってくれませんか?」



 その言葉に真理は、


 「断る」

と言った。


 「仮に俺がここから抜け出ることができないとはいったって必ず抜け道があるはずだ。俺は諦めない」

 「いつまでもそんなこと言うと私にも考えがあります」

 「それでも俺はここから出る方法を模索し続ける。お前に殺されることなく」

 「ふふっ」


 突如、上山の黒く長い髪が自ら意思を持ったように動き始めた。

 「!?」

 「では始めましょうか」

 上山の髪が真理の左右から襲い掛かる。いくら真理が“動き”を捉えることができるとはいえ、こういった避けるのが不可能な攻撃に対して無力だ。

 真理は髪に捕われ身体を縛り上げられた。手を振るうものの効果はなかった。そしてそのまま持ち上げられた。


 「気分はどうですか、もうすぐ死ぬ気分は?」

 「・・・」

 真理は何も答えなかった。



 「では、さようなら」

 真理を縛る髪が真理の身体を握り潰し、別の髪が真理の首を切り落とす。




 そしてボトリと落ちる音がした。




*2012.2.3に修正しました。

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