間話 ほむらの忌まわしき過去
後藤ほむらのお話です。
私は魔法少女であるのだが、表の顔は桐陵高校の2年生である。そのため毎日学校へ行かなければならない。
はっきり言って面倒臭い。彼女がいなかったら私はとっくのとうに学校に行っていなかっただろう。授業でやる内容は教科書読めばわかるから、やる意味なぞない。部活動なんかは無駄に時間を浪費するだけなので要らない。そもそも彼女が部活動をしていないから私がする意味なんてないのだが。
私は彼女と会うためだけに学校に通っているようなものだ。他の人達は何を考えているのだろうか、疑問に思ったことがある。私自身が“普通”の女子高生ならば今とは全然違っていただろう。しかし、私はもう“普通ではいられない”。あの時から。
私が小学生の頃。私は両親と共にある高級なレストランに行った時のことだ。小さな頃だからただ単にレストランがキラキラしていたから高級なと思っているが、今からでは何だったかはわからない。
ひたすら見たことのない料理が出てきたのを覚えている。そしてお父さんがこう言ったのも覚えている。
「これからはこういった物がたんまり食えるんだぞ」
そう、お父さんが会社の社長になった時だった。お父さんはもちろんお母さんも、そして私もにこにこしていた。浮かれていたのだった。
アレがやって来たのはそのレストランからの帰りだった。家まで運転手つきの車で帰った。私達は家に入った。そしたらアレが、
悠然と宙に浮かぶ黒いスーツを纏う男が中にいた。
アレは私達にこう言った。
「幸せそうですね。残念ですがあなたたちの魂を頂いていきます。特に奥さん。あなたが1番おいしそうですね。幸福からの転落、絶望。くくくっ、食べ応えがありますね」
私達はアレの言っていることを理解できなかった。いや、できるはずがなかった。今の私からしてもアレはめったに見ることができない。なぜならアレは・・・
この世にある全ての鬼の中で格別な強さを誇る7つの鬼:『七つの大罪』の中で、「暴食」を司る『餓鬼』なのだから。
話を戻そう。その後、真っ先にお父さんが喰われた。心臓を取り出されて。むしゃむしゃと。
次にお母さんが喰われた。お父さんの時よりおいしそうに。くちゃくちゃと。
そして最後は私の番だった。喰われる番だった。
アレは私にこういった。
「どうだい、愛する両親を喰われちゃって。悲しいだろ、悔しいだろ、絶望しているだろ。
ふふっいい顔しているよ」
私はその時何も考えられなかった。いろいろなことがあって。ただこれが夢だったらいいのにと思った。
アレが舌なめずりした時。家の中に突如入って来た二人組の女性がいたのだった。
「なんとしてもここで食い止めるわよ」
「了解です、お姉様!」
不思議な格好をした二人だった。一人はひらひらとしたレースで飾り立てられたドレスを着て、手には先端が光る杖が握られていた。いわゆるアニメなどでよく見る魔法少女だった。年齢は私より少し大きいくらいだった。もう一人の方は西洋甲冑に身を包み、ピコピコハンマーを掴んでいた。二十歳を越えたくらいの妙齢の女性だった。
・・・私は彼女らを見た時、なぜここいるのか疑問だった。その時はすでに感情がごっそり抜け落ちていたけど。私は生存本能でわかっていた。手に負える敵じゃない、立ち向かうなんて自殺行為だ、と。
レースの方が魔法陣を張り、甲冑の方が突っ込んでいく。ピコピコハンマーを携えて。その動きは一つの洗練された舞踏のようだった。
私の目の前で戦闘が始まった。
アレは繰り出されるピコピコハンマーの攻撃をアレは両手でいなしていた。しかし、攻撃の度にピコピコハンマーは徐々に蒼色の光を伴っていた。
「くっ、なかなかやりますね。対大罪術式ですか、なるほど。やっと開発に成功しましたかな?」
「お前なんかと話す理由はない」
「おやおや、そうですか。しかし、惜しいですね。これだと私に効かない。せいぜい、かすり傷しか与えられない術式です。もう少し凄いのがくるかと思えば期待ハズレです。そんなものですか、貴女達魔法少女は!」
その時私は、対する甲冑の魔法少女が侮辱されたはずなのに薄ら微笑を浮かべているのがわかった。
「行けっ!吉野ぉぉぉ!」
甲冑の魔法少女は叫んだ。
すると後ろの方で魔法陣を展開していたレースの魔法少女が瞬ゆい光を纏った杖をアレに向けた。
「|桜の花は散り逝くもの、万物に不変は無い(さっさとくたばれ、このくそやろうがぁ)!」
たしかこんな詠唱だったと思う。かなり口汚い印象を受けたから。
杖から桜色に輝く光が放たれた時、甲冑の魔法少女はピコピコハンマーを左から強く打ち付け、その反動でアレの前から避けた。ちょうどピコピコハンマーの攻撃でスタンしているアレに杖から放たれた“魔砲”が当たるように。
そして、その攻撃が当たり、アレの身体の半分を消し去った。
「ぐわゎゎゎ!!!」
アレはくぐもった悲鳴をあげた。
「くそっ、お遊びはここまでだ。『餓鬼道』!」
アレの言葉と共に周りの風景が一変した。まるで地獄絵を見ているかのような風景に変わっていた。
「ちぃっ、厄介な谷だ。手早く壊すぞ、吉野」
「はい、お姉様。」
二人はそれぞれの方法でその谷を破壊し、元に戻した時にはすでにアレは私達の前からいなくなっていた。
その後の記憶はない。どうやら私は気絶してしまっていたそうだ。
その事件の後、私は近くに住む親戚を頼りそこで暮らしていくことになった。一人の可愛そうな少女として。一人の力を求める魔法少女として。
私はあの後二人に頼んで魔法少女になるやり方を教えてもらい、なんとか魔法少女になることができた。けして魔法少女に憧れたのではない。自分自身を守るためになったのだ。いつまたアレが私に襲い掛かってくるかわからない。だからこそ一刻も早く対抗するすべが必要だった。
私が魔法少女になって二人から戦い方や鬼の性質など様々なことを教えてもらった。今でも二人とは繋がりがある。
そして、自分自身が強くなることだけを考えていたある日、彼女と出会った。
それから私は彼女:九条あかりを守るために生きている。
・・・あかりんラブなんて本人の前で言えないが。
ちなみに甲冑の魔法少女の名前は白鳥舞、レースの魔法少女の名前は染井吉野です。
次から第1章後編に入ります。
*11月27日に餓鬼に関する情報を書き換えました。
*2012.2.3に修正しました。