12話 束の間の休息
そして少しして白鳥教頭がやって来た。
ちぎれたフェンス、地面に空いた数々のクレーター、そして真理とアテネのぼろぼろな姿が今回の戦闘を生々しく表していた。
「大丈夫でしたか?」
「はい、なんとか無事に」
「俺も怪我はありません」
白鳥教頭は二人に一言聞くなり、後は任せなさいと言った。
ふとデュナミスがいた位置を見ると、黒いコートが一着落ちていた。それを白鳥教頭は手に取りどこかへしまった。
二人は少しばかり様子を見ていたが、とても疲れていたので白鳥教頭に後を任せ帰途に着いた。
■■■
翌日。
この事件はなかったことになっていた。いつの間にかにフェンスは直され、地面も整備されていた。
「まぁ、こうなるとは思っていたけどね」
「しかし、よくごまかせたよな」
「そういうものよ」
真理とアテネは周りの様子を見ながら昨日の話をしていた。
「結局アレは何が目的だったんだ?」
「たぶん秘宝が目的だったんじゃない。私もよくは知らないんだけどね」
「ふーん」
二人が教室に着くと、早苗がすでにそこにいた。
「昨日はどうしたの?委員会終わった後ずっと待ってたんだけどいなかったのは何でだったの?」
すごい剣幕だった。
「そのことなんだけどね・・・」
アテネは少し声を潜めて昨日の顛末を教えた。
「大丈夫だったの?怪我はなかった?」
早苗は驚いた表情で聞く。
するとアテネは真理に向かってアイコンタクトを取った。真理の“力”について話してもいいか、と。
真理はそのまま頷いた。
「・・・という訳。だから私は奴からの攻撃を受けながらも勝てたんだよ」
「そうだったんだ。気付かなかったな、真理のこと」
「いや、俺だってそんなことが出来るなんてやってみてわかったことだし。そもそも俺自身がそういったことを知らなかったからさ。別にそんなに落ち込まなくても」
「幼なじみのこと全部知っていると思ったのに・・・」
教室の隅で話している真理達のところに大輔がやって来た。
「何を話してるんだ?」
「大輔、それがね・・・」
早苗は先程自分が聞いた話を教えた。
「何だと、それは本当か、竜崎さん」
「そう、本当だよ。」
「やっぱりあの話はデマじゃなかったのか・・・」
「「「えっ?」」」
三人の疑問の声がハモった。
「いや、あくまでも噂だったんだが、かなり広まっているんだ。たぶんその鬼もそれを聞いてここに来たんだと思う。
その噂っていうのが、『とある入れ物に、世界の理を変える秘宝が眠る』なんだ。まぁ入れ物っていうのを学校と解釈すると、ここに秘宝があるって話なんだ。」
■■■
6月12日。ちょうどアテネが転入してきてまる一週間が経った。
掲示板には三日前に行われた中間試験の成績が一斉に張り出された。中間試験は現代文・数学・英語の3科目で、300点満点の試験である。300人あまりの高校1年生にとっては入学してから初めての試験である。
「うわーもう張り出されたのかよ」
真理は思わずぼやいた。
「私どのくらいだろ。全然勉強してなかったからなぁ」
アテネも呟く。
そして二人は掲示板に張られた紙から自分の名前を探し出した。
1番 竜崎アテネ 298点
294番 神内真理 74点
「・・・・・・」
「・・・・・・真理、勉強したの?」
「やったはやったんだよ。ただ、俺には難しすぎなんだ」
「次からはちゃんと勉強しないとね、真理」
「・・・善処します」
「今度勉強みてあげるから、ね」
「お願いします」
その日の夜から学年底辺の真理は、トップのアテネに勉強を見てもらうことになった。
二人が話している後ろから話し掛けてきた人がいた。
「よォ、お二人さんはどうだったかい?」
小林レオだった。
「私はよかったんだけど神内くんがね」
「かなり悪かったんだ。そういう小林は?」
するとレオは不敵な表情を顔に貼付けて言った。
「聞いて驚くなよ・・・」
「もったいつけるなよ」
「なんと!総合点52点で299番だ。すごいだろ、後少しのところで300番台を免れたんだからな」
「「・・・・・・」」
なぜそうもうれしそうなのか、真理とアテネにはわからなかった。ただ一つだけわかった。こいつバカだと。
■■■
二人とレオが教室に着き鞄を置くなり、彼らの隣のクラスから騒ぎ声と悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
「とりあえず行くよ」
教室を飛び出し、隣の教室を見た。
そこは、阿鼻叫喚の巷と化していた。教室にきれいに並んでいるはずの机があらかた吹き飛び、生徒の内何人かは血を流して倒れていた。
惨状の中心には一人の生徒が無傷で座っていた。拳はきつく握られ唇を噛み締めていた。
「何があったの!?」
アテネは近くにへたりこんでいた女子生徒に聞いた。
「はいっ、実はさっき塩田君が、あっそこにいる彼です。えっと塩田君がアイツらに絡まれたらいきなり叫びだして、そしたら机とかが吹っ飛ばされて・・・何が何だかわからなくなって」
「アイツらって?」
「塩田君の近くで倒れてる、クラスの中での不良みたいな3人組です」
「そう、じゃあもう一つだけ」
「はい」
「いきなり勝手に吹っ飛ばされていったのね?」
「そうです、何もないのに勝手に・・・」
「わかったわ、ありがとう」
アテネは話を聞くなり真理の耳元でささやいた。
「どうやら塩田君は能力者ね。しかも念動力のね」
「そうなのか。で、どうするんだ」
「うーん、いくら危ないからといっても吹き飛ばすのは駄目だよね・・・」
「いや、さすがにここ3階だから危ないだろ」
「気絶させるだけって難しそうね」
アテネと真理が話している後ろで、レオの顔に焦燥の色が浮かんだ。
教室の中央に座る塩田が再び叫び出した。
「なんでお前らは俺の邪魔ばかりするんだぁぁぁ!」
教室にある机や荷物のいくつかが宙に浮かび、辺りに撒き散らされた。
「ふんっ、魔法起動:風の防壁!」
アテネは真理を庇い、制服のまま魔法によって楯を作り出した。
いくつかの物が壁に当たり凹ませ、倒れていたり廊下にいたりする生徒達にも飛んできた。
すると、アテネの後ろにいたレオがいきなり塩田の方へ走り出した。
レオはそのまま床にあった何かを拾い、飛んできた机から身を庇った。
「何やってるんだ、小林!」
真理は思わず叫んだ。
しかし、レオは微笑みを浮かべながら拾ったものを大事そうに持っていた。
それは一匹のネズミだった。立ち止まっていたネズミに飛んでくる机から庇ったのだ。
レオはそのネズミを2、3回撫で、地面に降ろした。そのネズミはどこかへ走っていった。
「おい、小林。大丈夫か?」
レオのやったことより無事かが心配だった。
するとどこからか虎が入って来た。
その虎は、いわゆるアムール虎といって、体長3mもの大きさのかなり大きい虎である。また、ロシアや中国に生息し、絶滅危惧種に指定されているため、間違ってもこんな場所にいる訳がない。
そんな虎がレオのところに来てぽすっと座ったのだ。まるで頭でも撫でて欲しそうにしていた。
「よく来たな、こんなところまで。ご苦労様」
レオはその虎に向かって喋り頭を撫でた。
そんな様子を見ていた塩田は気絶した。
*2012.2.3に修正しました。