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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第1章 『水蛇の女王』
14/123

10話 忍び寄る影(1)

 ■■■


 翌日。

 いつもの朝のように朝食に米と味噌汁を用意する真理。いつもと同じ光景。

 それまでと少し違うのは、自分のを用意する横にもう一人分を用意していることだ。

 しばらく自分だけの食卓だった。夕食とかだったら、大輔や早苗の家にお邪魔して戴いたことはある。

 しかし、朝食はそうはいかない。

 誰もいないリビングルームで一人食べる他ない。


 真理の母親はほとんど家にいない。たまにいると思えばすぐにどこかに行ってしまう。

 しかし、真理が小さい頃からそうだった訳ではない。

 真理が中学1年の秋頃、つまり二年半前だ。


 真理の母親:神内栞じんないしおりは息子から言わせると、“何をしているかわからない”人だ。

 何かの仕事をしてお金を稼いでいるようだが何なのかわからない。

 真理は以前何度か聞いてみたことがある。何度聞いても教えてくれなかった。

 曰く、教えるにはまだ早いのよ、と。


 そのおかげで真理は料理と掃除の腕が上がった。

 しかし、なかなか自分以外の人にその腕前を見せる機会がなかったのだ。

 アテネがこの家に居候することになり、真理は腕の振るいようがあると思っているのだった。

 また、久しぶりに誰かと同じ家にいることの喜びを噛み締めていた。



 「おはよ~」

 寝ぼけたままのような声を出しながらアテネがリビングルームに下りてきた。

 「おぅ。朝食用意しておいたぞ」

 「ありがとー」

 アテネは覚束ない足取りで椅子に座る。そして半分寝たままご飯を口に運ぶ。そんな様子を見ながら、真理は笑っていた。

 アテネは朝が弱い。なんとか時間通り起きることはできるが、だからといって目が覚めている訳ではない。

 半分寝ているのだ。いつも毅然としているのに対し、朝はこんな感じである。

 そのギャップがなんとまあ、かわいいのである。


 「ZZZ・・・」

 アテネはご飯を食べながら寝ていた。

 そんなアテネの様子をずっと見ていたいと思っても、学校に遅刻しないことを考えるとそうもいかない。

 だからこそ真理はずっと見ていたいという考えを押し殺し(?)、目を覚ませることにした。


 真理は冷蔵庫に行きある物を取り出した。そしてそのまま、アテネの後ろに立ち、その無防備なシャツの背中の中に掴んでいた物を放り込んだ。

 「ギャァーーーー」


 背中に氷を入れたのだ。氷はTシャツと背中の間を通り抜け椅子の上に落ちた。

 ほんの一瞬だ。これがずっとなら拷問であるが、これくらいなら赦される範疇だろ、と真理は誰に言う訳ではないが心の中で言い訳していた。


 「なっなにしてんのよ、しんり・・・」

 「目が覚めただろ?」

 「うっ・・・びっくりしたじゃない」

 アテネは自分がまだご飯を食いかけたまま寝てしまったことに気付きながら言った。

 「次からはちゃんと言ってからやりなさい、まったく」

 「寝ぼけているから悪いんだ。ほら、早く食べろ。遅刻するぞ」

 「はいはい」


 そして彼らの一日は始まった。




 ■■■


「うーん」

 ここは朝の職員室。まだここにいる教師は少ない。まだ授業まで1時間ほどあるからだ。

 唸っているのは福井先生だ。福井先生は生活指導の役目があるため、朝早くから学校にいる。

 生活指導と名は付いてはいるが、実際は何でもかんでもやる役職だ。生徒の風紀から学校の治安、備品管理などやることがたくさんある。

 いつものように自分の机にどかりと座り一杯コーヒーでも飲もうとした時に、白鳥教頭に呼ばれたのだ。



 用件は学校の不審者の出没に関してだった。

 この学校は、地方都市の神川(かみかわ)市の中心地から北西に位置し、尚且つここら一帯に広がる丘陵地形の中で高い部類に入る桐陵ヶ丘に立っている。

 だから用のある人しかこの学校に来ないのだ。

 故に不審者が出ることは不測の自体(イレギュラー)なのだ。


 それがここ2週間ほどで不審者の目撃情報が十数件ある。

 まだ直接的な事件は起こってはいないが、何が起こるかわからないため対策を立てろ、とのことだ。

 とりあえず部活動に関しては制限をかけたのこと。

 それ以外で何か案を出さなければならない。




「・・・うーん」

 しかし、考えてもなかなか良い案が思い付かない。

 そろそろ授業の準備をしなければならない時間になっていた。


 「まぁいい。後で考えるとしよう」

 福井先生は考えることを後回しにし、授業の準備に取り掛かった。





 ■■■


 真理とアテネは無事に遅刻することなく学校へ着いた。

 二人が並んで歩いているのところに、早苗が声をかけてきた。


 「おはよー、真理とあーちゃん」

 「おはよう、さっちゃん」

 「あぁ、おはよう、早苗。今日は朝練ないのか?」

 真理が聞くと、早苗は少し驚いた顔をした。

 「そうだ・・・真理は部活やってなかったんだったね。

 えぇっとね、昨日の夜に先輩からメール来て、当分全ての部活の朝練はないって話なんだよ。

 なんか不審者が頻繁に出没するかららしいけどね」


 「へー、そうだったんだ。いや、しかし不審者なんて出るのか、こんなところに」


 「不審者ね・・・。タイミングが良すぎるわね」

 アテネはぽつりといった。

 「ん?あーちゃん、どうしたの?」

 「それ、ただの不審者じゃないかもしれない」


 アテネは人目を気にしながら言った。

 「どこで聞かれているかわからないから、後で話すわ。一応言っておいた方がいいからね」

 「そーいうのどんどん教えて欲しいなー。何かがあってからじゃ遅いからね」

 「そういえば早苗。今日委員会じゃなかったか?」

 「あっ、いけない。昼休みもその準備があるんだった。あー忘れてた」

 「じゃあこの話は放課後、委員会が終わってからね」


 そして3人は校舎の中へ入っていった。





 ■■■


 授業が恙無(つつがな)く終わり、そして放課後になった。

 早苗は自治委員会(クラスをまとめる役割の委員会のことである)へ、大輔は用事があるからと言い早々と帰り、教室には部活動をしていない真理とアテネが残っていた。



 「竜崎は部活しないのか?あんだけ勧誘されてたし」

 そう、アテネは美女の転校生ということで学校中で有名になっていた。

 その結果、昼休みの間ずっと部活動の勧誘をされ続けていた。

 だが、しかし

 「別に入りたいのないし、これがあるからね」

と言いながら指に嵌めたリングをぷらぷらさせた。


 「そういう真理だって部活入ってないじゃない」

「あぁ、そうだな。別に入りたくないんだったらいいんだよ。

 で、早苗を待っている間どうするんだ?1時間くらいかかるぞ」

 「せっかくだから学校の中でも見て回るわ。案内よろしくね」

 「はいはい、任せろ。必要そうなところだけどな。いいかい?」

 「もちろん」


 

 こうして二人は学校を回ることになった。


*2012.2.3に修正しました。

*真理の母親の名前を統一しました。2012.3.19

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