*
ちょっと先の未来の話になります。
■■■
■■■
「……なんで、なんでここまで」
アテネは目の前の光景が信じられなかった。つい先ほど、何時間か前はいつも通りの変わりない日常の光景が繰り広げられていた。アテネが見溢れた、ビルが立ち並び、人がそれぞれの目的に従って歩き回り、空が青く輝いている光景が繰り広げられていた。“いる”のではなく“いた”。過去の出来事の話だ。
そして、今。そんな光景は戦闘の余波で壊れ果てた。街は瓦礫の塊となり、空は強大な魔力の影響で紫に染まり切っている。
アテネはそれを生み出した敵を睨み付ける。打つ手なく、打ちひしがれながら。
「それはワタシのネガイだから。こんな濁り切った世界なんてイラナイ。ワタシが、作り直すノ!」
空に浮かぶ豪奢な装いに身を包む少女は脳裏に浮かぶ幻想郷に思いを馳せ、手を空へ伸ばす。パチリ、パチリと魔力が爆ぜ、世界の侵食が進む。
「アナタだって、そう思うでしょ? 『鬼狩り』」
「たしかに、そう思わないはずがない。この世界はどこか間違っているとは私も思う。だけど、こんなやり方をして本当にいいと思ってるの?」
「えぇ、このやり方しか世界を救えない」
アテネの問いかけに間髪を入れずに答えが返ってくる。
「強引に世界を捻じ曲げる方法しかないのよ。この世界から不浄を消すには。そう思うでしょ、神の代行者」
空に浮かぶ少女は、アテネではない少女へ声を投げかける。
「代行者ナンテ気取るつもりはないンだけどねェ……」
「あら、そうだったかしら。まぁ、何人のワタシが何度アナタへ同じことを言ったか知らないけど」
「……ふん、覚えてねェよ、そんなこと」
「大人しくワタシに喰われてくれれば教えてあげられるヨ」
「ほざけ、過去ナンザ興味ねェ」
「そう言う割には過去に固執している気がするけど。気のせいかしら」
「……その減らず口。全然変わらないモンだなァ」
空に浮かぶ超越者と喧嘩腰に言葉を交わす少女は痛む体を無理やり起こしながら空を見上げた。それをアテネは悔しげに見つめた。自分にはもう抵抗する手段を持っていないから。もう自分が立ち向かえる次元を超えてしまったと感じてしまったから。アテネのプライドなぞとっくのとうに砕け散っていた。
「サァ、始めようか。最後の戦いヲ‼」
「ふふ、アナタにとってはこれは何度目の最後の戦いかしら。最期にしてあげようかしら」
「ほざけェエエエエエエエエエ‼‼」
少女と少女はぶつかり合う。己の信念を掛けて、世界を命運を掛ける戦いを始める。
それをアテネは黙って見ているしかできなかった。
■■■
■■■
「大丈夫、アテネならできる。俺は信じている」
「なぁ、戦いが終わったらさ。一緒に海行こうぜ。また大輔や早苗を誘ってさ。ダブルデートって奴をさ。いや、アテネは二人きりの方がいいか?」
「始めるぞ、この世界を反転させるとびっきりの奴をなあ!」
「凍り付け、この世界に撒き散らされたまやかしなんか。全部、一切合財、動きを止めろ! 『ニヴルヘイム』‼‼」
「後は任せたぜ、絶対にアイツを倒せよ……俺はもう、眠い」
「私、頑張るから。真理が導いてくれた道だから」
「いくよ、私」
■■■
次話は前話までの流れに戻ります。