8話 桐陵高校のアテネ(3)
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あっという間に午後の授業が終わり、放課後になった。
部活に行く人達が教室を去って、その教室には真理とアテネ、大輔と早苗だけが残っていた。
「一ついいか?大輔と早苗、部活はいいのか?」
真理は確認の意味も込めて聞いた。
「俺は大丈夫だ、一日くらい休んでも変わんないからな。どうせ今日も大貧民やるんだろうし」
「私も大丈夫だよ。まだ一年だから、体力作りだろうし。私はいつも家でやってるから」
「そうか」
アテネは早苗に聞いた。
「じゃあ、昼の続きのようだけど。魔女の痕跡とかは?」
「それはちょうど俺らがここに入って来てから見られるようになったようだな」
「じゃあ一年生に化けている可能性が高いのね」
「そういうことになるね」
真理は気になっていたことを二人に聞いた。
「大輔、早苗。お前らが関係者だと今まで気付かなかったが、いつ動いていたんだ?」
「うーん、夜かな」
「夜だな。深夜2時くらいまで」
「よく補導されなかったな・・・」
「そこは気合いで乗り切ったんだよ~」
「過去に5回ほどされかけたけどな」
「それはそれで凄いな・・・」
アテネは大輔に聞いた。
「安部くんって女の子に興味ないの?」
「ん?」
「竜崎、なんでいきなり。」
「あーちゃん何か根拠でも?」
いきなりの発言に三人とも何を言っているのか掴みきれていなかった。
「根拠はね、私の自己紹介の時にクラスの男子はみな私を品定めするような目で見ていたけど、安部くんはそんなに興味のないようにしていたから。
もちろんそう見えただけなんだけど」
「・・・いやそれは、大したりゆ」
「「大輔はロリコンだから」」
「・・・そうなの?安部くん」
「なんで二人してそんなこと言うんだよ、ハハハ。
竜崎さんに誤解されてしまうじゃないか、変態って」
安部は必死に否定した。
「安部くんっておもしろいのね・・・そこは触れないでおくわ」
「・・・」
そして、互いに気になっていたことを聞きながら放課後の時間を過ごしていた。
その話にピリオドを打ったのは早苗だった。
「あーちゃん、やっぱり私の強さ、気になる?」
「そうね、さっちゃんの戦力が知りたいな」
「私もよ、あーちゃん。いくらあの二つ名を持っているとしてもね、共闘するとして強さ知らないとね」
「早苗、気をつけろよ。怪我しない程度にな」
「どういう話になっているんだ・・・」
かくて、アテネと早苗の模擬戦が始まった。
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「じゃあ、ここで良いかな。いくら結界張るにしても人目に付きたくないし」
「いいわよ。これくらい広ければ」
早苗とアテネは結界を張る場所を吟味しながら、行き着いた先は近くの公園だった。
「じゃあ、いくよ」
早苗は虚空から一振りの太刀を取り出し、魔法少女へと変身した。
早苗のコスチュームは白を基調とした巫女服で黄色で縁取られていた。元々和服系統の服が似合っていた早苗に、この巫女服はとても似合っていた。さらにあまり飾りのない細身の太刀を携えている姿は凛々しく綺麗だった。
真理は思わず見惚れていた。
「そうだな、誰だってあの姿に見惚れてしまうよな、真理」
「あぁ」
早苗は武装を展開し終えるとアテネを促した。
「じゃあ、あーちゃんの姿、見せてよ」
「わかってるわ」
アテネは右手にはめた指輪を軽く翳した。
すると、指輪は碧色に光を放ち、鎌を虚空から生み出した。
そしてコスチュームは真理が始めに見たのと同じく、上はひらひらとしたレースであしらわれたドレスを羽織っていた。下はミニスカートでそこから出る生足を惜し気もなく出していて、靴は膝まで覆うロングブーツだった。
「これが私の魔法少女としての姿だよ」
早苗はアテネの鎌を見て言った。
「やっぱりあの法具ね。間近で見られるなんてね」
真理は早苗の言葉が気になり隣にいる大輔に聞いた。
「竜崎のあの鎌って有名なのか?」
「真理は知らないのか。たぶん、法具についても知らないんだろうな。
じゃあ、まず法具の話からしようか」
「まず、法具っていうのは魔力を注ぐと特定の効果を発揮するものなんだ。もっともほとんど魔力のいらないタイプのものもあるが。
法具はそれこそ山ほどあるんだが、どこにあるかといえば、魔法協会が保持していたりや道端に落ちていたり、鬼が持っていたりする」
「鬼が持ってる・・・?」
「そうだ、力の強い鬼が使ってくる場合がある。竜崎さんのあの鎌だってそうだ。名前は“グリフィン”で、こっちは名前を知らないがある魔女が元々持っていたそうだ。この魔女との闘いは熾烈を極めて、たしか6人の中規模戦団で挑んで竜崎さんだけが最後まで闘ってなんとか勝ったようだ。で、その鎌は竜崎さんのものになったんだ」
「竜崎ってそんな凄かったのか・・・」
「そうだね、俺も正確な数が知らないが何回も魔女を屠っているし。竜崎さんの強さはあの鎌だけの力だけじゃないからね、元々の身体能力・魔法攻撃が凄いからね」
「じゃあ早苗は大丈夫なのか?そんな奴と闘って話になるのか?」
「竜崎さんとの相性もあるし、簡単に負けるとは思わないよ。それに早苗も竜崎さんほどではないけどかなり強いからね」
「そうなのか?」
「うたぐり深いね、真理は。早苗が持っているあの刀の法具の名は“六連星”でこれはおじさんの形をとっていた人鬼が持っていたものだ。妖刀と呼ばれていた時期もあったようだ」
「そんな物を持っているのか、知らぬ間に早苗は凄いことしていたんだな」
「じゃあ、あーちゃんいくよ!」
「かかってきなさい!」
早苗は“六連星”を小さく振りかぶり、アテネに向かって切り掛かった。
対するアテネは“グリフィン”を構え、こちらも同様に切り掛かった。
二人の立っていた地点の中間点で太刀と鎌が交差する。金属同士のような甲高い音が鳴り響く。二人は即座に振り向き、再び切り合いになった。
真理には、互いに力量は同じくらいでありように見えた。
その純粋な得物による切り合いを終わらせたのは、アテネだった。
「南方の風よ、吹き荒れろ。『灼熱の烈風』!」
アテネが魔法攻撃を仕掛け、距離を取った。
対する早苗は、
「轟け!風を伴いて我を運べ!『疾風迅雷』!」
自らを雷を纏い、アテネに肉薄した。
・・・
互いにその魔力の許す限り魔法を打ち、得物を叩き付け勝負を決めるべく闘った。
そして、
「爆ぜろ!」
早苗が放った雷の塊が声を合図に中に溜めていた電気を放った。近くにいたアテネにまともに当たる。
「いっ!くそっ!さっちゃんもよくやるわ」
「よし!
我に従いし雷の力、ここに集まり参じて敵の仇と為せ!雷は神の落とし物。神の手を離れ暴れ回れ!『雷の騒乱』!」
早苗が膨大な魔力をかき集め魔法を展開していく。
「ついに切り札を使うのか」
「切り札なんて持っているのか?」
「そうだ、あの雷の騒乱は多くの雷をランダムに配置して解放するから、あの量の雷撃を回避するなんて不可能に近い。ガードしても数がたくさんある雷を前に全て捌ききれるはずがないからな。あれを使うってことは相手にとって死を意味する」
「じゃあなんで最初からぶっ放さないんだ?」
「あの詠唱の長さでか?ある程度相手に隙を作らせないと、詠んでいる間に攻撃されて魔法が失敗するぜ」
「あぁ、だから雷の球で竜崎を足止めしてたのか」
アテネは早苗が纏いつつある膨大な魔力の影響を見て厳しい顔をした。
(ということはさっちゃんは、どでかい上級魔法を撃ってくるのね。しかも雷系統の。回避のしようがない・・・
やっぱりアレを使うしかないのか)
アテネは右手に鎌を構え直し、左手の指輪に自分の意思を送り込む。
『起動。『竜の眼』展開。ならびに『竜の風』使用準備』
早苗は自分自身が持つ最強の魔法を撃った。
「いっけ~!」
早苗の周りを漂っていた雷が意思を持つかのごとくアテネに襲い掛かる。逃げ道を塞ぐようにして周りから襲い掛かる。
すると、アテネは鎌を四方八方から襲い掛かる雷に向かって振り切った。
「唸れ、グリフィン」
グオォォォン
その鎌から放たれた斬撃は襲い掛かる雷を切り裂き、吹き飛ばした。
そしてそれはアテネの周りに殺到した雷撃全てが吹き飛ばされ、消滅した。鎌の一撃を喰らっていないところまで全て。
雷撃をも消し去る暴風の中、眼の色を金色にしたアテネが、そこに無傷で立っていた。
早苗は一瞬呆然する隙に、アテネは鎌を再び構え直した。
「『加速!』」
アテネは早苗の懐まで急接近し、鎌の峰の方で脇腹を打った。その一撃で早苗は吹き飛んだ。
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「やっぱり、あーちゃんは強いね」
「そんなことないよ、あそこまで追い詰められたの久しぶりだよ。ホント、危なかった」
「そう、最後のアレ、なんなの?私の切り札を吹き飛ばした魔法」
「あれは・・・何というか、身体強化と武器強化を二重に掛けたかんじかな?」
「なんで疑問形!?」
「うーん、あんまり教えられない代物だから・・・」
「えぇー、そうなの?」
そして、模擬戦を終えたアテネ達は家路に着くのだった。
*2012.2.3に修正しました。