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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第3章 『破壊を呼ぶ魔法少女』
119/123

20話 たとえ、世界が滅んでも。

*3章のあらすじ。

 再び平穏を取り戻したと思っていたアテネと真理の前に一人の少女が現れる。“破滅を喜び、破壊を楽しむ”魔法少女:神崎神影。彼女はアテネ達に戦いを仕掛け、圧倒的な力を見せつける。

 それと同じ頃、魔法少女狩りという事件が起きていた。魔法少女が同じ魔法少女に襲われて魔力を奪われていたのだった。

 アテネ達は神影と魔法少女狩りに注意を払うことになるが、厄介ごとは増える一方だった。見たこともない厄介な鬼が現れ、撃退するものの事態墓意味されぬまま時間のみが過ぎていく。

 そしてアテネと真理は、神影とは違う魔法少女から攻撃を受ける。なんとかそれを打ち破るが、アテネは心に傷を負っていた。アテネは心に傷を負い自らの力を信じ切れず、ついに己の武器である法具が壊れてしまった。

 失意の中、アテネと真理は再び神影に出会うのだった。


 

 ■■■


 この世界、混界は天使が住む天界と鬼が生まれ出る魔界に挟まれるように存在する。混界は二つの世界に挟まれるようにしながら複雑な世界へと成長していった。意思を持つ者持たない物それぞれが混在し、意思を持つ者は持つ者でそれぞれの意志どれ一つ見ても同じものはない。全てがバラバラであり無秩序、それが混界そのものを現している。


 さて、そんな世界が混界な訳だが、隣り合う天界と魔界は混界に対してそれぞれのスタンスを保っていた。天界は沈黙を保ち混界にも魔界にも干渉しない。魔界はというと自らの繁栄のための負の力を得るべく混界へ裏から干渉していた。正の力を糧とする天界と負の力を糧とする魔界のあり方の違いだった。

 そんな関係がいつまでも続くかと思われた。一定の秩序が保たれることを平和というのならば変化していくことを考えると、この変化はゆっくりだったといえよう。

 天界の住人がようやく己れの閉ざした殻を割り、外の世界に目を向け始めたのだった。隣り合う混界、そして魔界の存在に目を向け、そして……



「天界と魔界が戦争を起こす、そうなった時どちらが善でどちらが悪かなんて関係ない。えェ、どちらも善であり悪なんだよねェ。だったら、さ」


 どっちも壊しちゃえばイイじゃない。


「互いに潰しあうんなら勝手に潰しあえって思うけど、なかなかそうもいかないんだよね。魔法少女を利用する天使がいたり、鬼と手を組んだりする魔法少女がいたりして」


 調べれば調べるほど私好みのへどがでるようなことばかり。


「だから、私はそれら全部をぶっ壊すことにした。天使も鬼も、そしてそれに加担しようとする魔法少女も」


 だって、私は―


「“破滅を喜び、破壊を楽しむ”魔法少女だもの」


 神崎神影(かんざきみかげ)はそう告げた。




 ■■■


 アテネは目の前の少女の言った言葉に言葉を失うしかできなかった。天界と鬼が戦争を起こす。それが何を意味しているのか、アテネには理解の範疇を越えていた。そもそも天界なぞ今ここで初めて聞いた言葉だ。伝承、創作物の中では度々登場する言葉だが、それがこの場に置いて何を意味するか。嘘や(まやか)しなんかではない、それが純然たる事実を告げているだけと、アテネは理解できた。


「あれ、なんか拍子抜けたような顔してるけど、あぁ知らなかったのか、天使だとか天界だとかソウいった存在に」


 神影の言葉がアテネの胸を穿つ。


「まァ、全部ぶっ壊して私がこの世界を手に入れるのもアリかなって最近思えて来たんだよねェ」


 神影の言葉がアテネの耳を震わせる。


「嘘々、ンな訳ないジャン。私がそんな大層なことできるとでもォ思ってる?」


 神影はその矮躯から違和感を覚えるほどの涼しげな薄ら笑いを浮かべる。


「私はただこの世界デ足掻くだけ。……こんな力を持っていてもできることは限られている」

「えっ、何?」

「何でもナイ。さて、決着をつケよう。足掻ケ、ムシケラども」


 神影を中心に積乱雲のようなどす黒い魔力のオーラが立ち込め、アテネ達に手を差し伸べる。


「……ケ・シ・ト・ベ・っ・♪ 集いし光、彼奴の罪を浄化せよ! 消滅砲-究極式-ゥゥゥゥッ!!!」

「真理!」


 アテネは真理の名前を呼びながら魔力を振り絞り神影の『消滅砲-究極式-』に魔法を叩き付ける。

 真理は自分に持てるすべてを込めるようにして拳を突き出す。


「私に持てる全てを賭して、全てを蹴散らせ!『烈嵐(テンペスト)』ぉおおおお!」

「『無辺世界』ぃいいいい!」


 アテネの『烈嵐(テンペスト)』と神影の『消滅砲-究極式-』がぶつかり合い、その後を追うように真理の『無辺世界』が全ての魔法を消し去ろうと光の渦を生み出す。そして、辺りは光に包まれ、アテネと真理は目の前が真っ白になるのを感じて意識を失った。


 爆発音。

 最後に立っていたのは一人だけだった。






 ■■■


「クッ」


 頭が痛い。最近よく頭痛が起きる。あれかしら、不摂生な生活をしているからかしら。


「チィ、面倒ダ」


 なぜ、自分がこんなことしているのか自分でもわからない。初めてその名前を聞いた時から何か気になった。まるで前からその名前を知っていたかのように。だが、私は一度もその名前を聞いたことなかったし、その姿を見たこともなかった。


 “破滅を喜び、破壊を楽しむ”。それが自分自身の信念だというのに、なぜ彼らに目を掛けてやったのかと自問自答する。しかし答えは出ない。なぜか、と自分に問えばなんとなくとしか答えが返ってこない。答えになっていないと思うが、それしか答えが浮かばないのも事実だ。

 いつもなら手加減せず殺すというのに。

 なぜ今日は、いやなぜ彼らに。


「はァ、ヤメヤメ。こんなこと考えたって無駄無駄」


 今考えることは天使のこと。アイツだけは何としてでも殺さないといけない。

 じゃないと、あの惨劇が……


 あれ?

 惨劇って何?


 考えても頭に浮かばない。でも確かに私は惨劇が起きると“知っている”。

 なぜ、私は天使のせいで惨劇が起こるって“知っている”んだ?

 なぜ、なぜ!?


「……!」


 考えれば考えるほど頭痛がひどくなる。もう何もしたくない気分になる。

 私はハァとため息をついて顔を手で覆い隠した。

 わからないことが多すぎる。知らないことが多すぎる。


「どういうことなンだよ……」


 それを確かめるためにも行動しなければ。

 そう思い直した私はとりあえず体を休めるべく住処へ戻ることにしたのだった。





 ■■■


 一人の少女は、廃墟に佇んでいた。

 夕暮れ。


 影が伸び、橙色の光が世界を包む。

 少女は一人、何をすることなくただ何かを待ちわびるようにして立っていた。


 いつまでも少女は経ち続けるかと思われたが、やがて変化が訪れる。

 廃墟の上空に突如亀裂が入る。

 まるでカッターで紙を切るかのように、空間に切れ目が入った。そこから白い羽を生やした一人の男が舞い降りてきた。


 少女はその羽男の姿を見て微笑む。どうやら少女の待ち人はその羽男のようだ。


「やぁ、どうだい?」

「まぁまぁといったところかしらね。あと3日もあれば十分じゃないかしら」

「なるほど。くくく、それはいい」


 羽男は邪悪な笑みを浮かべて空を見上げる。


「これで、ついに私の悲願が達成できる。この汚れちまった世界を“浄化”するという高尚な悲願が!」


 この男、この世界とは違う天界と呼ばれる世界の住人:天使である。魔界を毛嫌いし、鬼の存在を憎んでいる。この世界に蔓延る鬼を一掃したいと考えているのだった。


「そう、ね」


 対する少女はそんな天使の男を慈愛の笑みで見つめる。

 ……いや、慈愛の目などという生易しいものではない。まるで憐れみを掛けるかのように、あくまで年頃の少女が浮かべる目ではないものだった。


「でも、ね。もっといいやり方があるんじゃないかなって思うの。そんなまどろっこしいやり方なんかじゃなくてさ」


 少女は言う。


「貴方は世界を壊さないように世界を変えるって言ったじゃない。でもね、たとえ、世界が滅んでも。また、世界を作り直せばいいじゃない」

「な、何を……何を言っているんだ、君は!」

「つまりこういうこと」


 ぱちりと少女は指を鳴らした。

 天使である男は突如として目の前の光景が歪みどこかに落ちていく感じがして足を崩して倒れ込んだ。


「な、何をした!?」

「何って、今あなたを私の“夢”の中に閉じ込めているの。二度と外に出ることのできないもう一つの世界に、ね」

「こ、こんなことして許されるとでも思っているのか!?」

「許されるも許されないも、そんなの関係ないでしょ?」


 にっこりと少女は嗤う。


「だって私の勝手だし。この世界は私のモノにするって決めたもの。誰かに指図される謂れはないわ」


 少女はゆっくりと天使の頭の上に手を置く。


「お眠りなさい。世界が滅ぶその瞬間(とき)まで、その瞬間(とき)まで私の(かて)となりなさい。私の夢の住人(どれい)となりなさい」

「あぁ……がああああああああああああああ!!!」


 天使の男は絶叫を上げ、姿が薄れていく。

 少女の操る夢の世界に“喰われ”ているのだ。




 再び静寂は訪れる。


「さぁ、ここからまでが始まりよ。ハジマリのオワリ、いえ、オワリのハジマリかしら」


 その言葉が口から漏れ、少女の姿は霞のようにすっと消え去った。まるで最初から何事もなかったかのように。




 ただそこには廃墟が残るのみだった。

 世界は何事もなかったかのように回る。

 しかし、変化の時は確実に迫っていた。



前回からだいぶ時間空いて申し訳ありません。次回から完結まで週一更新を守っていきたいと思っていますのでどうか見守っていただけたら幸いです。

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