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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第3章 『破壊を呼ぶ魔法少女』
114/123

15話 覚醒と敗北の味

 ■■■


「ずいぶんと遅いお目覚めだな、アテネ」

「待たせたわね、真理」


 アテネは目覚めたばかりで足元が覚束ないが真理に支えられなんとか立っていた。法具のグリフィンではなく、瞬時に魔力で生成した紅色の剣が爛々と輝きながらアテネの手に収まっていた。その剣はこれで役目を果たしたとでも言うようにすっと消え、アテネは拳をきゅっと握り締めた。


「ここはまだ芽婀の夢の中ってことでいいんだよね」

「あぁ、『原初の夢(ロイヤルガーデン)』というらしい夢の中だ」

「そう。なんでこんな目に合わせられるんだか聞いてもないけど、大体理解したわ。そこの女はよっぽど私のことが邪魔みたいね、あんな夢を見せて……」


 アテネは先ほど目の当たりにした恐怖に手がカタカタと震えそうになるのを気合で抑え、芽婀と相対する。


「あらあら、まさか本当に目覚めてしまうとは。てっきりもう目覚めないと思ってましたよ」

「それはご期待に添えなくて悪うございましたね」

「……さすがは『鬼狩り』といったところでしょうか。危機一髪の状況において力を発揮するのね、ますます計画に支障をきたしますね……」

「計画……?」


 芽婀はふぅとため息をつき、何かを切り替えるように大仰に手を広げる。その動作がさっと周囲の空気を一変させ、神聖な空間を生み出す。そしてそのまま芽婀は声を高らかに張り上げながら告げた。


「まず、竜崎アテネ。この世界が滅亡の危機にあることは知っていますか?」

「は? どういうこと……?」

「やはり知らない、と。それは嘆かわしいことです。では、私がお教えしましょう。

 私たちが今いるこの世界には鬼がいる世界と天使がいる世界が隣接しています。私達のいる世界を混ざり合ったという意味の混界(こんかい)、負の感情を喰らう鬼が生まれ出る世界を魔界、鬼とは逆に正の感情を元に生きる天使の世界を天界と言います。この世界は太古より互いに寄り添い、時に交流を交わしながら存在し続けました。しかし、魔界がより多くの負の感情を得ようと混界に進出した時、天界は危機を覚え一計を案じました。それは鬼に対抗しうる力を混界の住人に与えることでした。そして力を得た者は魔法少女として鬼と戦うことになりました。まずここまでが前提です。

 それから時が流れ、混界に歪が生まれるようになりました。これは鬼がこの混界に来るようになり、魔法少女が鬼と戦い大量の魔力が消費されるようになったためだそうです。この歪はやがて混界全体を覆い、この世界を滅亡させることになるでしょう。そこで私たちはある天使の導きに従ってこの歪を解消する計画を進めています。その計画のためには、『鬼狩り』の二つ名を得るほどの強力な魔法少女であるあなたの介入があっては計画に大きな支障をきたしてしまいます。具体的にはあなたには魔力を消費しないでほしいのです。あなたほどの力があるとなれば、普段の鬼狩りでさえ世界の歪を大きくしてしまいます。計画が失敗すれば世界が滅んでしまうのです。ですから多少な手荒な真似でもあなたにじっとしてもらいたかったのです。無礼な真似を申し訳ありませんでした。ですが、この世界のことを考えてほしいのです」



 芽婀は一気に喋り終え、大きく息を吐いた。辺りには薄桃色の煙が漂りアテネ達を包み込む。

 アテネは話を聞き終え、話を纏めようと頭の中を必死に動かそうとするが頭がどこかぼうとするのを感じた。世界が滅ぶ、芽婀の計画を邪魔しない、そのために何もしない。鬼狩りのしないし、芽婀が何しようと邪魔しない、それがいいそれがいいと何かが囁く。


「ぐぅ、つ、つまりどうひょこ……」


 アテネは目の前がぐるぐると回りそうになるのを感じた。そこで何かがおかしいことに気付く。


「な、なぜ、私に力があるんなら計画に加えない訳? そ、そもそも世界の歪なんて話聞いたことないんだけど……」


 アテネは頭を押さえながら体が倒れないように力を込めて姿勢を維持する。

 その言葉に芽婀は口元をくいっと持ち上げたまま何も言わない。


「くっ、これが幻惑魔法か。アテネ大丈夫か」

「えぇ、なんとか。それにしても今の話、どこまで信じられる?」

「全て、信じられない」


 真理のその断定的な言い方に芽婀はにやりと笑う。


「あら、そんなことないわ。全て本当よ。何も嘘は言っていないわ。歪みが大きくなっていることも、世界が滅びようとしていることも、天使の許で計画を進めていることも、そしてあなたたちが何もしなければいいというのも嘘ではないわ。なぜあなた達を計画に加えられないかは、適性がないからよ。時に非道なことを行ってでも世界を守ろうとする私たちと同じことができるかしら。世界滅亡を救うのために、例え愛しの人を殺さなればならないならば殺せるか、ということよ。例え話だけど、あなたにそれをするだけの覚悟・適性があるかしら」


「……それはわからない。殺さなければ世界が救われないとしたら、本当に私は殺せるかはわからない」

「そう。その程度の覚悟がないなら無理ね。私たちはそれだけの覚悟を抱えているの。だから邪魔しないでほしいわ」

「ちょっと待て。だいたいその話が嘘でないとしても俺たちが信じられると思うか?」

「あなた達に信じてもらえるか、それは仕方ないと思うわ。でも、私は世界を救いたいの。えぇ、世界平和のために! 多少の犠牲は厭わないの!」


 芽婀は何かを崇めるように両手を広げる。両目は瞑られ、見えない何かを芽婀は見ているようだった。


「やっと私の望むものができた、だから!」


 芽婀は爛々と怪しい光を灯す瞳を見開き、両手の指をそれぞれ鳴らす。

 何もない空間に2つの魔法陣が浮かび上がり、そこから虹色のナイフが浮かび上がる。芽婀はそれらを手に取り両手に構える。


「この永遠の空間に眠りなさい」


 その言葉と共に芽婀の手から2本のナイフが放たれた。

 直線の軌道を描いて虹色のナイフは飛ぶ。


 それをアテネは法具グリフィンを呼び出し、切り裂こうとする。

 しかし、まるでグリフィンがないかのようにそのナイフは飛び、そのままアテネの体を何事も無いように貫く。衝撃もなく、傷口も作らず。ただそれが幽霊であるかのように素通りした。


 アテネは何が起きたか理解する間もなく、激痛に見舞われた。体をざっぱり切られたような、それでいて中からじくじくと疼く痛み。芽婀が生み出したナイフを抵抗もできずに受けた結果であるのは一目瞭然だった。



「がはっ」

「アテネ、大丈夫か」

「あはは、それが“普通の人がナイフに貫かれた時の痛み”よ」


 魔法少女は常に魔力による強化が為されており、常人に比べ痛みに対する耐性が高い。戦いに赴くが故にそのような処理が自動的になされている。しかし、この場合芽婀の魔法によりそれらの防護壁を乗り越えて、純粋な痛みだけをアテネに与えた。夢による世界構築のシステムを利用し、世界の方からアテネに痛みが存在するように改変したというのがこの攻撃の正体だ。ナイフはあくまで狙いの照準で、ナイフを防ごうとしても痛みは別のところからやってくるという至極厄介な攻撃を芽婀は行っていた。


「ほら、追加よ」

「ちぃ」


 芽婀はもう片方のナイフを無造作に投げつける。それを今度は避けようとするアテネだったが、まっすぐ進んでいたナイフがアテネを追い掛けるようにしてかくんと曲がり、アテネを貫く。すぐさま痛みがアテネに襲い掛かる。


「このまま眠りなさい。眠れば、すぐに夢を見ることができるわ」


 芽婀は新たにナイフを生み出し、今度は真理に投げつける。痛みは真理にまで襲い掛かる。真理の魔力操作の力は芽婀の夢世界と相性が悪い。抵抗しようにもろくに抵抗できずに痛みにのたうち回らざるを得なかった。








 永遠に続くかと思われた地獄は、闖入者によって破られた。



「あははははははは、こんなところに引きこもってたのねェエエエエエエ!!!」


 山刀型法具で辺りの空間ごと切り裂きながら、煌めかしく美しいプラチナブロンドの髪を靡かせた全身黄色のずたぼろな服に身を包んだ少女が現れた。彼女は気勢を上げながら、今まで掴んでいたぼろ布のような塊を芽婀に投げつけた。それを芽婀が生み出した布で受け止めると、それはゴミではなく少女、貫口咲良だった。


「ねぇねぇ、早く教エてよ。じゃないとこれ壊しちゃうよ? ねエ、天使はどこ? あのクソったれな天使様はどこなんですかアアアアアアア!?」


 山刀型法具、その名もディザスター、で木も石も関係なしにずばずばと斬り付けながらゆらりゆらりと芽婀へ接近する少女は、神崎神影だった。


「はぁ、まったく使えない子ねぇ。大方ここに逃げ込もうとしたところを捕まえたんだろうけど、もっと役に立てよォ、このオナニー野郎!おい、寝てんじゃねーよ」


 怒りに打ち震える芽婀は力尽きている咲良を蹴り付ける。衝撃でびくりと動くものの、まともな反応を見せない。


「きゃははは、そんなお仲間連れてる時点でアンタのお株も知れたもんだなァ」

「うるせーよ、このパツキンがぁあああ」

「やんのか、コラァ、ア”ァン」


 まるでヤクザのような応酬を交わす二人を尻目に、アテネと真理は行動を起こす。


「今よ、今のうちに逃げ出すのよ」

「あぁ、わかったよ」


 ちょうど神影が切り裂き壊した空間目掛けて、アテネと真理は走る。見た目はかっこ悪いが、命に係わる以上そうも言ってられない。ただ生き延びるために逃げるほかなかった。


 神影が侵入した出口に飛び込む寸前、真理には神影がこちらを振り向きにこりと笑みを浮かべたように見えた。それはまるで次出会った時は容赦しないと言っているかのようだった。


 アテネと真理は真っ逆さまに落ちる様な感覚に陥り、そして目を見開けば元の工場地帯に戻っていた。


 精神的に多大なる疲労と痛みを背負った二人は何もしゃべることなくただひたすらに家を目指した。何より芽婀との戦闘は二人の心に深い傷を与えたのだった。




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