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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第3章 『破壊を呼ぶ魔法少女』
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13話 凍て付く夢と眠り姫

 俺は……!


 俺は、彼女のために、竜崎アテネ(・・・・・)という最愛の彼女のためにこの世界から抜け出す。


 うまく俺の力が動いてくれたようだ。何か記憶にロックでも掛かっていたんだろう。となれば、これはきっと魔法とかそういったものでなったんだろうと察しはつく。


 ならば、ここから出るのも容易い。


「『無辺世界』!」


 魔法ならば魔力を吹き飛ばせばいい。

 これでこの世界から出られる。


 しかし。

 そんな俺をあざ笑うかのように、目の前の闇はふよんと水を手で掻いたかのように吹き飛ばしてもまた表面張力か何かの力に引っ張られて元に戻ってきた。まるで俺を逃がさない檻のように、いや、檻そのものなのだろう。俺の記憶までも弄ってまでアテネと俺とを引き離そうとする。なぜか、その理由はわからないが、ただ一つ言えるのは相手がだれであれ俺にとって敵だということはよくわかった。


 ならば俺が取る行動はただ一つ。


「このまま押し通る……!」


 手の平に力をかき集め、周囲でかっちりと結合している魔力を吹き飛ばす。たとえ、それが元にも戻ろうとも何度も何度でも繰り返す。そこに何か突破口があるかもしれないと思うから。早くこの場から抜け出して、アテネに会いたいから。自分がこういう状況に陥っていることを考えれば、アテネも似た状況に追い込まれているに違いない。



『ダーメよ、そんなんじゃそこから抜け出せないわ』

「誰だ!」


 唐突に頭に響く声に、俺は思わず声を荒げた。この状況で話しかけてくる奴なんて味方なはずがない。


『まぁまぁ、落ち着きなさいな』

「落ち着けるか、この状況で」


 声から察するに若い女性だ。アテネとそう変わらない年のような、といっても声だけで年齢がわかるわけではないが。


『こんな形でごめんなさいね。私の名前は宵闇芽婀(よいやみめあ)。魔法少女よ』

「……魔法少女が何の用だ」

『あなたとは一度会ってみたかったの。だからこうして招待した訳で』

「これがお前の魔法か。ずいぶんと手荒なご招待だ」

『直接面と向かってだと怖くて』

「はっ、それで何が目的だ。ただ俺と会いたかった、そんなはずないだろう? 大方、邪魔だから隔離しているとかだろう?」

『まぁ、それもない訳じゃないけど。一番の理由はその力を見てみたかったの』

「力」

『そう、その力。魔法を無効化できる力。てっきり魔法を打ち消してしまうのかと思っていたけど、そうではなかったのね』

「……」

『見たところ、私の魔法を打ち破ろうとしていたみたいだけど。無理だよ』

「なぜだ?」

『そんなの。いいわ、あなたには教えてあげるわ』


 芽婀と名乗る少女が得々と自分が使う魔法について説明してきた。


『私が扱う魔法は基本的に“夢”なの。分類上は幻覚系魔法ってなっているけど、私のはそんなちゃちなものじゃないわ。私の夢は魔力によって一つの世界を構築する。世界っていうと大それたもののように思えるかもしれないけど。そして、一度囚われた者は条件を満たさないとそこから出ることができない。条件はその夢によって違うの。例えば、あなたが今そこにいる夢は絶望しなければ出ることはできないわ』

「ぜ、絶望……」

『ある意味私の夢は鬼の作る“谷”と似通ったものかもね。夢に込められた概念はそこに囚われたものを完全に封じ込める、ってなはずなんだけど。あなたはなぜか動けているのよね。さすが魔法を無効化できる、といったところかしら』

「……」

『夢といっても私が直接作ったものじゃなくてあくまで囚われた者によって世界が完成するのが特徴なの。私が悪夢を見せようとしても、それはその人によって姿形を変えるわ』

「風船みたいな感じか」

『そうね、勝手に膨らんでいくとい点では似てるわね。そして、中から出られないという点も』

「なるほど、な」

『あら、何かヒントを与えたみたいね』

「ヒントをくれたんだろ、俺の力を見たいがために」

『あは、バレちゃった』

「今からそっちに行ってやる」


 俺は一つのイメージを元に周囲に浮かぶ魔力をこそぎ集める。この力のことを俺はまだ知らないが、たぶん俺のイメージ通りに動いてくれるはず……やったことはないが成功する確信がある。吹き飛ばそうとしてもそれは勝手に膨らむだけで元に戻ろうとするのは道理だ。なぜなら夢は弾力に富んでるから。見る人のイメージでどこまでも広がる。限界まで広げてみて破裂するのを待って見るのも一つあるが、そこまで悠長にいられない。だから、俺はイメージ通りに魔力を収束させ力を解き放つ。イメージが俺に発動の(キー)を呟かせる。


「凍れ! 『デモンマクスウェル』!」


 魔力は原子の集合と仮定できる。そうだな、魔素としておこうか。魔素はいくつも繋がり合って魔力となり、使用する者の意志を受けてその形を変容する。繋がり方が変わる感じだ。同じ炭素でも立方体のように結合すればダイヤモンドになるし、六角形の板状に結合すれば鉛筆の芯のようになる。同じ原子でできていても結合の仕方によってその性質は大きく異なる。それは魔力に関しても言える。だからこそ、魔力は炎になったり氷になったりするのだ。そして、魔素は程度に差はあれども必ず振動している。特に形を成しているものこそ振動が激しい。空気中に浮かぶ魔力は変質した魔力に比べあまり振動していない。これはまだ形が定まっていなく力が掛かっていないからだと思える。それはさておき。俺はその魔素を操作し、振動を無くしていく。常に揺れ動く魔力を止めればどうなるか。それはある意味俺がよくやっていることだった。『アイギス』、魔力を完全に固定化して魔法はおろか物体の運動さえも停止させる不可視の盾。それはまさに今やっている魔力の振動停止だった。魔力が振動を止めればひたすらに硬いものに変わる。何も通さない、何も揺れ動かない。そして、伸び縮みしない。

 つまりこの風船のような夢を凍り付かせることでその性質を奪う。するとあっという間に自壊するだろう。風船を一瞬にして凍り付かせてみればわかるだろう。




 予想通りガシャンと目の前の世界は砕け散り、俺の目の前は真っ白な光に包まれた。




 ■■■


「これは……」


 真理は目の前に広がる世界に眩暈を覚えた。見ればなんてことない風景。遠くに建物が立ち並び、真理が立つ場所はちょうど丘で花が咲き誇り、夕日が辺りを照らす。何か奇怪なものがあるわけでもない、恐ろしいものがそこにいる訳でもない。


「なんだここは……」


 しかし、それは明らかに異常だとわかった。その世界は色を失ってい、何もかもが白と黒の色合いで構成された世界。灰色な世界。

 それだけでない。まったく音がしないのだ。周りが普通の光景(しかし灰色である)であるのに、鳥のさえずりさえも虫のさざめきさえも聞こえてこないのだ。


 空に鳥が飛んでいるのが見える。しかし、その鳥は空中で静止したままだ。


 色と音がないだけでその他がちゃんとしているだけに違和感が拭えない。



「さっきの闇とはそれまた違った……これも夢なのか」

「えぇ。これもまた夢。これは私の夢よ」


 真理が振り返れば、そこには鮮やかな桃色のワンピースに黒色のコートを羽織った少女がいた。


「改めまして。ここは私の庭、『原初の夢(ロイヤルガーデン)』」

「お前が、宵闇芽婀(よいやみめあ)か」

「えぇ、いかにも」



 いつかの時を切り取ってそのまま貼り付けた世界で、真理は足を止めた。そして後ろにいきなり現れた芽婀を黙ったまま見据え、おもむろに指を突き出した。


「アテネを返せ」

「返せも何も、その子ならそこにいるわよ」

「……!」


 芽婀が指さす先を見れば、地面からぬっとアテネの体が浮かび上がってくるところだった。アテネは地面に横たわりながら目を瞑り眠っていた。


「アテネ!」

「まだ目覚めていないようね」

「アテネに何をした!?」

「何って、あなたにしたように夢に案内しただけよ。ただそれだけ」

「くっそっ!」


 真理はアテネの体を抱き起し様子を見た。抱き起した衝撃を受けてもアテネは昏々と眠り続けていた。


「自分が見ている夢ならばできるかもしれないけど、他人が見ている夢に干渉なんてできるわけないよね」

「……」


 淡々と事実を述べられて真理は唇を噛み締めた。


「眠り姫が目覚めるまで、しばし歓談としましょう」

「……わかった」


 真理はアテネの体を抱えたままゆっくりと芽婀が示したテーブルへ足を進めた。





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