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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第3章 『破壊を呼ぶ魔法少女』
106/123

7話 災厄

 ■■■


 いくら平和を願っても、災いは無残にも襲い掛かる。

 こちらの事情を全く考えることなく、無慈悲にも破壊の種を撒き散らす。



 それが動き出したのは、ちょうどお昼過ぎのことだった。





 いつも通り早苗や大輔と一緒に教室でお昼ご飯を食べるアテネと真理。それぞれ弁当を持ち寄ってのお昼だった。大輔の弁当は早苗が用意したもの(金欠だからと言って大輔が早苗に頼んだもの)で、早苗の弁当は当然自分が作ったものだった。一方で真理とアテネの弁当は二人で役割分担しながら作ったものだった。


「はぁ、金が欲しい。バイトしようかな……」

「たしかにこの学園はバイトOKだけれどさ、バイトしている暇ある?」

「そうなんだよな……早苗のサポートしないと正直危なっかしいからなかなか難しいんだよな」

「今持っている金でやりくりするしかないんじゃないか?」

「そうはいうけどさ、真理。欲しいものがどんどん出てくるんだよ。とりあえず早苗からお金を借りて『紳士と幼女の七日間』は買えるとしてもだ、同じ日にかの有名なブランド『わっふるわっふる』から『聖域侵入~あのちっぱいの子も、ロリ巨乳なあの子も見放題な楽園(パラダイス)~』が発売されるんだよ!」

「なんつーうニッチなゲームなんだよ。現実味がないゲームだな、現実でやったら明らかに捕まるぞ。第一ロリ巨乳なんて妄想の産物だぞ」

「ニッチとは何だ、これでもロリゲーは結構人気あるんだぞ。なんだかんだ言って大概のゲームにロリ出てくるじゃないか」

「それはお前がやっているゲームだけだ!」

「ええい、それはお前が知らないだけだぞ!現実を見てみろ」

「お前に言われたかねぇ。俺はもうそういうゲームしないし」

「へ、人生の半分を損することになるぜ。ゲームっていうのはな、世界の真理近づけるんだぜ」

「ゲームって言ってもな、大輔。お前が言っているのはエロゲーのことだろ?」

「まぁな」

「はぁ、というより俺たちはなんでこんな話をここでしているんだって」


 大輔と真理はバカ話をしている隣で、早苗とアテネはこっちはこっちで女だけの話を繰り広げていた。


「ねぇ、どうやったら男の気って惹けるの?」

「うーん、男の人が喜ぶことをしてあげることかな……」

「悦ぶことって、どういうこと!?」

「ちょ、その悦ぶとは限らないと思うけど。えっとね、スキンシップ?かな」

「スキンシップ……私もやってるけどなぁ」

「女性らしさを出すとか」

「……例えば?」

「え、えっとねぇ……む、胸とか?」

「何度か風呂上りに大輔の前を胸が強調するようにして通ったけど効果なかったよ。一瞥もくれなかったよ」

「…………」

「はぁ、私最近思うんだよ。魔法で、小さくなれないかな? ちょうど小学生ぐらいに」

「ええっ! なんで……あぁ。そういうことか」

「大輔の気が引けるとしたらこれしかないと思うの。幸い私に全く興味がないっていう訳じゃないから」

「それってどういうこと?」

「前ね、大輔の部屋を掃除した時にね、厳重に保管されている箱を見つけたの。すっごい見つかりにくいところに置いてあったからたぶんすごい大事なものだと思うんだけれど」

「(なぜそれを見つけた!?)で、それで? 中には何があったの?」

「その中にね、なんと私の小さい頃の写真がいっぱい入っていたの。私が遊んでいる写真とか、私が歩いている写真とか、私がトイレに入っている写真とか」

「……! (それってストーカーなんじゃないの!?)」

「それを見てね、私思ったんだよ。私に全く興味がないわけじゃないって。少なくともあの頃の私のことは大好きなんだって」

「ちょ、それってどうなのかな!? 普通そう思わないよね!?」

「もしも私が容姿だけでもちいちゃくなれば、大輔は私にすっごい興味を示してくれると思うの」

「あ、うん」

「魔法を使うとしてどうやったらいいかな? 生体電気を操っても肌の若さは取り戻せても小さい頃に戻るとかできないんだよね……電気ショックで成長ホルモン弄って逆成長させようかな」

「……」

「本当は幻惑魔法がある程度使えるなら自分の姿に小さい頃の姿を投影してってできるんだけど、なかなかうまくできないんだよね。幻惑魔法って得意じゃないから」

「そ、そうね」

「ねぇ、アテネは何かいい考えある?」

「え、私?」







 弁当を粗方食べ終え、ざわざわとした喧騒の中、ふとアテネは窓の外を見た。

 先ほどまで雲一つない青空が広がっていたが、今見える空には真っ黒な雲が徐々にこちらへ来ている、そんな空だった。


 嫌な予感を感じた。

 たしか、今日は天気予報では一日中晴れだったはずだ。なのに、なぜ視界の先には禍々しい輝きを見せる雨雲、いや巨大な積乱雲があるのか。


 アテネは席を立ち、窓辺に駆け寄った。何事かと真理達がアテネを見るが、そんなことに構っていられず窓辺から魔力で強化した目でその雲を見た。

 その雲はいくつも層を作り見ているわずかな時間の間もどんどん大きくなっていくのがわかった。ふと遠くを見れば巨大な雲の下は大雨と雷が降り注ぎ、風が吹き荒れているのが見えた。


「ねぇ、これって……」


 アテネは同じように窓辺に近寄って来た真理や早苗、大輔に呟く。


「……台風っていうのかしら。それにしても突然すぎるけど」

「台風なんてまだ南の海上だって聞いたぞ。あと台風にしてはなんだかおかしくないか」

「これは台風じゃなくてスーパーセルだ。回転する継続した上昇気流域を伴った、同じ塊がたくさん寄り集まって構成されている非常に激しい嵐のことだ。特徴として、大量の雹、激しい雨(集中豪雨)、強いダウンバースト、そして時に竜巻を発生させる災害(・・)だ」


 大輔の言葉が決定的な事実を示した。


「たしかに起きてもおかしくないことだが、これはあまりに異常すぎる。急に発生し、かつ巨大すぎる。はたしてこれ自然に発生したものだろうか?」


 大輔の意図する意味を感じ取り、アテネはばっと遠く空中に浮かぶ巨大な雲を見据える。


「もしかしてあれは鬼だというの……!」


 アテネはくっと唇を噛み締め、教室を勢いよく飛び出る。


「おい、アテネ!」


 飛び出したアテネを追うように真理も教室を飛び出した。




「大輔……」

「俺たちも行くぞ! さすがにこれは竜崎達だけでなんとかできるものじゃないだろうからな」

「うんっ!」


 早苗と大輔は、アテネと真理の後を追い掛けるように教室を後にした。教室にはアテネ達の真剣な雰囲気に当てられた生徒たちが戸惑いを残したまま空を眺めるばかりだった。








 ■■■


 アテネ達は屋上にやって来た。ここなら巨大な雲をよく見ることができる。


「さて、あれの正体を見極めましょ」


 アテネはぱちりと指を鳴らして魔法少女のコスチュームに変身した。

 同じように早苗も変身する。


「視力を限界まで強化しても、特に何かわかるわけじゃないよ」

「たしかに視力ならね。でも、あれがもしも鬼だとするなら……!」


 アテネは右手を握り締め巨大な雲の方へ向ける。


「開け、現界への門よ! 『事象烈波(リリース)』!」


 捏ね上げた魔力を投射して、隠されているものを魔力で周りを多少改変しながら強引に表に引っ張り上げる魔法により、今まで見えなかったものが見えるようになった。


 上空に浮かぶ小さな埃のような鬼が何千も寄り集まって一つの鬼として姿を成した、スーパーセルの様相を装ったものがそこにいた。




「あれは……」

「でっかいな……」

「これは凄い」

「…………」


 4人は目の前の敵の巨大さに改めて感嘆の声を上げる。


「倒さなければ被害は大きくなる。短期決戦で行くわよ」

「とはいえ、実際に戦うのはアテネと早苗だけなんだけどな。さすがに俺は空を飛べないし」

「男どもはバックアップに回れってこったな」

「そういうことになるね」




 アテネはぽんと自分の頬を叩いた。


「さっちゃん、行くよ」

「うん」


 二人は地面を強く蹴り上げてその勢いを緩めることなく巨大な雲へ突撃していった。






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