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鬼狩りの魔法少女  作者: ひかるこうら
第3章 『破壊を呼ぶ魔法少女』
104/123

5話 撃突

 ■■■


「やあ、お帰り」


 無事に3体の鬼を倒してきたアテネと真理が家に帰ると、玄関に緑色の体毛の犬がちょこんと座り込んでいた。


「あら、久しぶりね。セロリ」


 アテネはなぜ待ち構えるようにしてセロリがそこにいるのか疑問に思いながら玄関で靴を脱いだ。

 魔法獣であるセロリはいつもいつの間にか家の中に入り込んでいる。何か魔法でも使っているだろうか、とアテネは思っている。


「そうだね。それにしてもお疲れ様。蜘蛛の魔女に、銀の魔女、そして入道雲鬼だね。どれも普通(・・)の魔法少女なら苦労する相手だね」

「相変わらずさっきの話なのによく知っているね」

「ボクは情報収集が好きでね、君たちの活躍は注目させてもらっているよ、竜崎アテネ、神内真理」


 てへっと効果音を自ら出しながら無表情な顔で首をかしげるセロリ。


「それで、何か用事でもある?」

「そうだよ、まぁ入ってきなよ」


 セロリはあたかもこの家の主のような振る舞いを取りながらリビングへするりと行ってしまった。


「あれ、ここ俺の家だよな……?」







 ■■■


「で、今日の用事は何? たしかこの前は狂暴化している鬼の話をしにきたよね?」

「そうだったね。今日はちょっと趣が違うかな」


 ふさふさとしたべろんと長く伸びた耳を垂れ下げながら用意された容器に入ったミルクをぺろぺろと舐めながらこくんと頷く。アテネはそんなセロリを見ながらコーヒーの入ったカップを口元に運ぶ。真理は台所にてアテネとセロリの飲み物を用意した後自分の飲み物を用意していた。



「どんな話?」

「まず、君達は最近魔法少女が何者かに倒されるという話を聞いたことあるかい?」

「えぇ、魔法少女協会でその話は聞いたわ。“魔法少女狩り”って言われていて、なんでも魔法少女が憔悴して見つかるとか」

「そう、その魔法少女狩りのことだ。まだ君に伝えていなかったけれど、知っているなら話は早い。実は君にその魔法少女狩りの容疑者容疑者を伝えようと来たんだ」

「!? 容疑者がわかってるって?」

「まぁあくまでも魔法少女狩りの疑いがあるってことにしか過ぎないのだけれど。もっとも魔法少女狩りがどういうものかわかっていないからね。そこのところはなんとも謎が多い」

「それで、誰なの?」


 アテネの詰問に、セロリはぺろりと口元に付いたミルクを舐め取りながら言葉を紡いだ。


神崎(かんざき)神影(みかげ)。“消滅”・“爆発”・“破壊”を操る魔法少女さ。なんでも実際に、魔法少女を追い回す姿が目撃されているからね」

「「!?」」


 アテネと真理は言葉を失った。まさか、またその名前を聞くとは思わなかったからだ。



「知っているよね?」

「え、えぇ。知っているわ、一度戦闘を交わしたもの」

「ふふん、君たちの戦いはボクはちょうど見ていたからね」

「そう、魔法少女狩り、ねぇ。一度詳しく話を聞かないとね」

「くれぐれも気を付けてくれよ、彼女はあらゆる意味で強いんだからね。話だけで済まないんじゃない?」

「えぇ、わかっているわ」


 アテネはぐいっとカップの中に残っていたコーヒーを喉に流し込む。


「それで神崎神影という魔法少女について知っていることを教えてほしいわ」

「まぁ、ボクの知っている限りでよければ。とはいえどもあまりプライバシーに抵触するようなことは省くけどね」


 そう言いながらセロリは無表情な顔を一層無表情にして、神崎神影が魔法少女になった過去を簡潔に語るのだった。








「といった感じさ。まぁ、ボクが直接(・・)契約した訳じゃないけど、大方こんな感じさ」

「「……」」


 セロリの話にアテネと真理の二人は押し黙った。どこかで聞いたような、それでいて予想を超える凄惨な話だったからだ。


「“破滅を喜び、破壊を楽しむ”、ねぇ。なんとも酷い願いね」

「まぁね。ボクもそう思うよ。聞いた時はこのボクでさえも声を荒げて正気か、と言ってしまったよ」

「いつも沈着冷静なセロリがね、わかるきがするわ。私もそう思うから」

「……かわいそうって一区切りにしていいのか困るな。自ら望んだともいえるしそうじゃないとも言えるし」

「あら、真理にしてはずいぶん甘い意見じゃない。そういうのは“狂っている”っていうのよ。現に私だって契約を交わした時は狂っていたと思うし」

「そういうものかな」

「狂っているか、頭の中がお花畑じゃなければ魔法少女になんてならないわ」

「こんなこと言うのはボクの立場上変だけど、ボクもそう思うね。何かしらか精神的に欠陥を持っているからこそ魔法少女になるという選択肢を得る。ボク自身そういう子を狙って契約を持ち掛けているといっても過言ではないね」

「まったく悪趣味ね」

「そうじゃないと契約が取れないんだよね」


 セロリは小動物した姿に似合わない、仕事に疲れた中年男性のようなとほほいう声を上げた。

 そして次の瞬間には真剣な雰囲気を纏っていた。


「さて、竜崎アテネ。君は神崎神影をどうするつもりかい?」

「話を聞いて、もしも魔法少女狩りというなら殺すわ」

「もしも魔法少女狩りが実は世界平和のためにやっていると言われたら?」

「そんなはずないじゃない!」

「いや、そこはまだわからない。ボク達がまだ掴んでいない情報を元に行動している可能性が高いからね。それが善か悪かはわからないよ」

「……それだと、したら……」

「どうするかい? 殺してしまうのかい? 殺さないで見過ごすのかい?」

「……それは、決まっているわ。私たちに危害を加えるというんであれば殺す。そうでないなら見過ごすわ。善か悪かなんて関係ない。私たちに影響があるかないかで決めるわ」

「ふん、迷いはないようだね。それは良かったよ」


 セロリは自らの尻尾をゆさりと揺らす。


「彼女が扱う魔法はどれも強力だ。正直魔力を圧縮して作り出した消滅の意を持つ黒い刃はもう見たくもないね」

「黒い……私の時は無色だったよ」

「魔力には感情が直接表われるからね。色が濃ければ濃いほど威力が高いってことは知っているだろう?」

「えぇ、そういうこと、ねぇ」

「属性が付与されているならそちらの色に左右されるけど、神影の場合魔力を魔力のままとして扱うからね。特に影響が出やすいのさ」

「……」



 アテネは先日の神影の戦いで明らかに手加減されていたことを思い出し、唇を噛み締めた。



「真理、頼りにしているわ」

「あぁ、任せろ。魔法ならなんでも受け止めてやる。だけど、空中戦は勘弁な」

「次はそんな事無いようにするわ。もっとも話だけで済めば楽なんだけどね」


 アテネはじっと空のカップを見詰める。空のカップにはコーヒーの茶渋が底に残っていた。











 ■■■


「アハッ、早く根を上げてくれないかなぁ」

「そんなこと言われても、ねぇ! 私に向かって攻撃しきたのはあなただからねぇ」


 黄色のぼろ布を纏う少女と奇怪な触手を纏う少女がぶつかり合う。


 黄布の少女:神崎(かんざき)神影(みかげ)は赤黒く歪んだ球体をいくつも浮かべ、それらを相手に放り込む。触手の少女:貫口(ぬくくち)咲良(さくら)はそれらを機敏な身のこなしで躱していく。


「楯突くことは敵対行動と見なす! きみには簡素で質素な死亡通告を送ろうじゃないか、『放射』! 『放射』!! 『放射』『放射』『放射』『放射』ォ!!!」

「うわっ」


 神影は消滅の魔法を発動させる。新たに生成された薄黒い球体が7つ、咲良へ発射されて次々と破裂し周囲の空間に存在するものを消し去っていく。次々と放たれる『放射』に、咲良は躱し続けることができなくなり盾として魔物を召喚する。


「『召喚(サモン)=触手海妖クラーケン』!」


 青白い魔法陣が描き出され、そこからにゅるっと真っ白い下足(げそ)が這い出すようにして巨大な烏賊の姿をしたクラ―ケンが召喚された。そこへ神影の『放射』が炸裂し、下足(げそ)はすぐに引き裂かれた。


「甘い甘い甘いのよォ! そんなんで……」

「この程度で終わりかな!?」


 穴ぼこになったクラーケンはすぐにその肉体を再生し、触手をにゅるりと動かして神影の体に纏わりつこうと這い回る。


「へぇ、そこそこ楽しませてもらえそうね」


 神影は消滅の力を有した斧を手に生成する。


「召喚か、なるほど、それもいい! だけどわたしはそんなもの自尊心ごと吹き飛ばしてあげる。我、手にする刃にて結果を早急に導かん! 『滅斧』!」


 『滅斧』を構えた神影は自分の体に『加速』魔法を発動させクラーケンの懐へ飛び込んだ。ぬるぬると動く触手を華麗に躱し、胴体へ『滅斧』をフルスイングする。消滅の力を有した斧はクラーケンの体を容易く切り裂き、胴体を真っ二つに引き裂いた。


 轟、と轟音を鳴り響かせてクラーケンは体を地面に横たえる。それを神影は一瞥して、今度は咲良へ照準を切り替え『加速』を発動させる。『滅斧』を構えた神影は咲良の目の前へ高速移動した。


 咲良はクラーケンが倒されるや否や新たに召喚術を展開する。咲良の召喚術は伝承の魔物を魔力のある限りどんなものでも召喚できるレベルだ。召喚術しか扱えないが、召喚術は一流の腕前まで鍛えた咲良。

 召喚術の魔法陣が咲良の目の前に描かれ、そこから真っ黒い蛇の頭が9つ生えた魔物:ヒュドラが召喚された。


「きしゃああああああ!」

「いい子ね、ヒュドラ」


 そこへ神影が『滅斧』を構えて襲い掛かる。

 ぶんと振るたびにヒュドラの頭が一つづつ落ちるが、すぐさま再生し元通りになる。


「ねぇ、今どんな気持ち? 切っても切っても再生するものを切っている気持ちは!」

「あ”ぁん? まったくめんどくさいねぇ!」


 神影は『滅斧』をヒュドラの頭に突き刺し後ろに跳び下がり、ぱちりと指を鳴らす。


「爆ぜろ」


 『滅斧』は神影の意志を受け取ってその中に溜めこんでいた魔力を起点にして大きな爆発を起こす。焼き尽くすような爆風を発生させた『滅斧』は解けるようにして消え去り、ヒュドラは4つの頭を失い、こんがりと焼き焦げた。


「あーあ、壊れちゃうじゃない。まったくこんなんだったらはじめっから狙うんじゃなかった」


 咲良は大きく嘆息し、地面に手を押し当てる。


「でも、逃げるつもりはないかな」


 地面に魔法陣を描き、新たな魔物を召喚する。

 地面から緑の蔦がにょきにょきと生え渡り、咲良の身を守るようにして蕾を咲かす。


「そうかい、せいぜい楽しませてくれる?」


 神影は神影で、咲良の態度に笑みを浮かべ魔力を集め魔法を発動させる。


「これでも喰らってな! 救済の光、安寧へと導けェ!! 『消滅砲-圧縮式-』!!」


 神影の突き出した手の先からどす黒いビームが解き放たれ、咲良へ向かってその衝撃を撒き散らした。







 

次回は6月8日0時予定です。

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