3話 魔法少女狩り
また新キャラが登場します。本当はまだ出すつもりはなかったのですが、私の厨二心が耐え切れなかったので止む負えなく、という次第です。気持ち悪い描写が苦手な方はラストの部分を飛ばしてください。ノクターン行きも考えたけど必要なところなのですみません。
それでは本編をどうぞ。
■■■
神影との戦闘を終え、帰宅した二人。
神影は何だったのか、なぜ神影はいきなり襲い掛かって来たのか、そして途中で戦闘をやめてどこかへ消えたのか。
気になることはいくつもあるが、二人はとりあえず家に帰ることを優先した。
「ふぅ、やっぱり真理の作るコーヒーは美味しいわね」
「作ったといってもただ豆を轢いてドリップさせただけだろ」
「ふふ、それでもよ」
二人はソファに座り夕食までの短い時間を楽しむ。体を休めるにしては大して効果のある時間ではないが、精神を休める意味ではこの短いゆっくりとした時間は意味のあるものだ。二人は神影との戦いで疲労した精神を休める。
「ねぇ、さっきのことなんだけど」
「あぁ、あの魔法少女か。名前なんていったかな」
「わからない。だけど、あんな強さだったら覚えている気がするけれど、記憶にないわ」
「はぁ、あの魔法凄かったよな。魔力を垂れ流して魔法現象はおろか実態にまで影響を与えるんだからな。まさに俺みたいな魔力の使い方だよな。よくガス欠にならないと思うよ」
「そうだったの、あの魔法。へぇ、どんな原理かわからなかったけど。でもね、たぶんあの魔法少女は本気を出してなかった、と思うの」
「根拠は」
「戦い方ね。私が対応できる程度に力を抑えているのが見え見えだった。思い出すだけイラつく。手加減されていたかと思うとね」
「……なんで手加減していたんだろ」
「私達の力を見極めたかった、この辺りだろうね。どういう目的かわからないけど」
「ふむ、なんにせよ情報が少ないから推測するには限界があるよな」
真理はカップに残っていたコーヒーを喉に流し込み、台所へカップを置きに行く。コーヒーの入っていたカップをそのままにしておくと、コーヒーの渋がカップに沈着してしまうから真理はついでにカップを洗うことにした。
「ねぇ、真理。明日特に用事がないよね」
「あぁ、いつもの土曜日だし、何の用事もないよ。しいていえばアテネと一緒にいるっていう用事があるな」
「まったくもう。なら、私の用事に付き合ってくれるよね」
「ん? 用事って」
「この件についてよ。あの魔法少女について調べたいし、後帰りのホームルームで先生が言っていた“妙な事件”についても調べたいし」
「言ってな、たしか。突然物が爆発したり地面がえぐられたり、だっけ?」
「そう。これって魔法少女に関わりがあると思うの。もしかしたら私たちに何かあるかもしれない。だから先に手を打っておきたいってね」
「なるほど。それでどこで調べるんだ? 図書館じゃあそんなこと調べられないぞ」
アテネはコーヒーカップを片手にソファから立ち上がり、くるっと半回転して真理の顔を見た。
「決まっているじゃない。こういう時は、『魔法少女協会』よ」
■■■
翌日。
アテネと真理は魔法少女協会の建物まで来ていた。
魔法少女協会とは、魔法少女の魔法少女による魔法少女のための組織である。魔法少女達が互いに情報を持ち寄ったのが始まりで、今では魔法少女や鬼に関する情報や周辺区域で発生している怪異、はたまた法具に関する情報など様々な情報が集まっている。情報を取集しているだけでなく、魔法少女の斡旋も行っており、ソロプレイが基本的だが倒せない鬼に対して何人かで挑ませるようにしている。さながらゲームのギルドのようなものと考えていいだろう。
アテネはすたすたと建物中に入っていく。真理も置いていかれないように慌ててついていった。
中はホテルのロビーのように小奇麗だった。多くの魔法少女がここに詰めかけていて情報を交換している。
アテネは勝手を知ったるロビーを突っ切り、受付にたどり着く。
「ちょっといいかしら」
「あっ、『鬼狩り』の竜崎アテネ様ですか。はい、なんでしょうか」
受付に座る妙齢の女性はかっと目を見開き営業スマイルを浮かべる。
「聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら」
「それでしたらこちらへ」
受付嬢はぱちりと目をウィンクさせ、奥の小部屋へ二人を案内する。
「どうぞ」
「ありがと」
「失礼します」
用意された小部屋の二人掛けの椅子に、アテネと真理は腰かけた。向かい側に受付嬢がそっと腰かけた。
「それでどういった情報をお求めですか?」
「聞きたいことは二つよ。まず一つ目は、魔法少女について」
「はい」
「名前はわからないけど、普段は黒髪でどこか病弱っぽいんだけれど、変身すると白金髪になってコスチュームは黄色い布を張り合わせたようなもの。そして使う魔法は、触れたものを消滅させる。これで絞り込めるかしら」
「少々お待ちください」
受付の女性は席を立ち、アテネが求める情報を探しにどこかへ消えた。
「おいおい、あんなんでわかるのか?」
「正直あんまり、だね。なんていったって情報が少ないから、難しいと思う。だけど、ある程度は絞り込める」
「そうか」
「ポイントは使用した魔法だと思うの。あの魔法を使うのは魔法少女でもかなり限られている」
魔法少女が主に使う魔法は火・水・風・土といった基本属性魔法に加え、その派生属性である焔・氷・雷・大地と特殊属性である光・闇である。神影が使用した『消滅』の魔法はこの分類に当てはまらずしいて言えば無色属性といったところか。
なぜ、魔法には属性がつくのか。それは属性が付く方が魔法として発現しやすいからである。魔法少女と言えども元はと言えば人間である。魔法を先天的に扱ってこなかった者が後天的に魔法を使えるようになって、魔力を魔法として扱う時にイメージすることから始める。例えば、炎を頭の浮かべ、そこに魔力を流し込み、そして魔法として炎がそこに現れるのである。これが魔法の発動させる方法。魔法少女が良く唱える文言はそのイメージを言葉として発し魔力を魔法として発現しやすくしたキーである。もちろん詠唱せずに魔法を使おうと思えば使えないことはないが、如何せん時間は掛かる上に複雑な魔法であればそれをイメージすることは大変難しい。故に魔法を発動させるときに詠唱を行うのである。
話を戻そう。魔力を魔法として出力するときにイメージが必要となる。その時にイメージに引き攣られて、どうしても魔法には属性が付くことになる。その属性は人それぞれ得意不得意がある。その魔法少女のイメージの強さが元になるからだ。火のイメージが強い魔法少女がいれば、逆に火に対して上手くイメージできない魔法少女もいるということである。無理に属性を無くそうとすればイメージは崩れ、魔法として成り立たない。
しかし、神影の使ったような『消滅』は属性を持たない。魔力を魔力のまま出力し、物体に触れた瞬間にそこに存在する物ごと押し流す。そのため属性が存在しない。よほど強いイメージを持たなければできない芸当である。魔法少女でないが真理の扱う力もこの系統に属する。魔力を魔力として扱い魔法に干渉するためである。
実はと言えば能力者の扱う能力も根っこのところは魔法と同じである。能力者の場合は使える属性が、魔法少女と違い一種類に限られている。それについてはおいおい説明することになるだろう。
「あの『消滅』の魔法はすごく珍しい。私の『竜の力』のようにね」
アテネはぽんぽんと自分の胸を叩いた。アテネの使う『竜の力』の場合、世界の負のエネルギーである『憤怒』を強引に引き出し自分の力と為すため、属性が曖昧である。いくつもの属性が重なり合っているといってもいい。このような魔法はそれこそ七つの大罪クラスに匹敵すし同じように巨大な力を引き出すことができる魔法少女に限る。
「なるほど。もし誰かわかったらどうするんだ?」
「特に何もこちらからはアクションを起こすつもりはないわ。あの様子からすると一回の接触で終わりにはならない。何度も戦うことになる、彼女の目的が達成されるまで。だから多く情報は持っていた方がいいでしょ」
「そうか」
アテネと真理が何度か言葉を交わしていると、受付嬢がいくつか資料を持って部屋に戻って来た。
「二人ほど該当しました。こちらをどうぞ」
差し出された資料を見る二人。まるで履歴書のような資料にはその魔法少女の名前・容姿、使用する魔法の一部、戦歴などが詳細に書き込まれていた。本来ならばこういった資料を直接見ることはできないが、『鬼狩り』という称号を持つアテネだからこそ閲覧することができた。
一人の名は、フレア=メイルシュトローム。
もう一人の名は、神崎神影。
「たぶんこっちだわ……」
「あぁ」
二人は神崎神影の資料を手に取る。神影の資料には肝心の戦歴や使用する魔法がほとんど書かれていなかった。使用魔法の欄には3つの単語がぽんと書いてあるだけ。『消滅』『破壊』『爆発』の3つだった。
「何、これ……何かあったのかしら」
「こちらですか、これは情報を取りそろえることができなくてこうなった次第です。姿を見せたことは一回きりですし、使用魔法についても目撃情報を元に記入してあるだけです」
「そう、まぁいいわ」
アテネは資料を机の上に置く。
「資料をありがとう」
「いえいえ、これが仕事ですので。一つ聞きたいのですが、何かこの魔法少女にあったのでしょうか」
「えぇ、先日いきなり戦いを仕掛けられたのよ」
「そうですか。最近多いですからね」
「そうなの?」
「えぇ、魔法少女同士の争いがここ最近増えていますね。やはり魔法少女狩りの影響で心情的に不安になっているんでしょうかね」
受付嬢の何気ない台詞にアテネは首を傾げた。
「魔法少女狩り……?」
「最近頻発している事件ですね。これに遭遇した魔法少女は憔悴した状態で発見されています。……鬼の可能性が強いと考えられていますが、まだ足取りが追えていない状態です。魔法少女の方々にはくれぐれも警戒するように言っていますが、被害は増大する一方です」
「死んでないと。それでその被害者は何か言っているかしら」
「いえ。一向に口を閉ざしています。そのため捜査が難航しています」
「そう」
アテネは眉を顰め思考を重ねる。いったい何が起きているのか、アテネは一抹の不安を感じた。
「教えてくれてありがとう」
「いえ。それでもう一つ聞きたいことがあるとおっしゃっていましたが」
「あぁ。最近、突然物が爆発したり地面がえぐられたりという現象が起きているみたいだけど」
「えぇ、確認されていますね。何人もの魔法少女が確認しています」
「どういうことかもう結論出てる?」
「いえ、こちらもまだです。おそらくですが、新種の鬼が出たのではないかと考えられています。または管理下にない魔法少女ないしは能力者の仕業ではないかと」
「なるほど、ね。ありがとう、助かったわ」
「お役に立てたようで何よりです」
アテネは受付嬢にお礼を言い、その場を後にした。
「何が起きているんだろうな」
「魔法少女狩り、ねぇ…… いろいろ気になることが増えたわね」
「あぁ」
アテネは両手を頭上に伸ばし伸びを行う。
「誰が何のために行っているの……」
アテネの言葉は途中で途切れた。
「!」
「真理も気が付いた? 行くわよ」
「おぅ」
アテネと真理は近くに鬼の存在を感じ取り、すぐさまその場に向かうのだった。魔法少女とその協力者として正義を果たすため、戦いに赴く。
■■■
夕日に照らされた公園。人気がなく寂しげな様相を見せるその場所に、二人の少女が太い紐のようなもので雁字搦めにされていた。一人の少女はオレンジ色のサマードレスを身に纏い、もう一人の少女は紺色のシャツに水色のローブを被った姿をしていた。二人の少女は魔法少女で、この紐のようなものはうねうねと動く醜悪な触手だった。どぎついショッキングピンクをした生々しい触手だ。それがまだ小学生か中学生ほどの少女たちに絡みつきその動きを封じていた。
「やめてぇ……ねぇ、もうやめてよぉ……」
「うえぇーん、もうやだよぉお」
少女は泣き叫ぶが誰も助けない。
少女たちの前には、一人の緑色の何かを纏った少女がにやにやいやらしい笑みを浮かべてベンチに腰かけていた。
「ダーメ。ほどいてあげないよ」
その少女はひどく愉快そうに笑みを歪める。
「いいねぇいいねぇ。その顔、そそるねぇ」
気色悪い何かを纏った狂気の笑みを浮かべる少女はくいっと指を動かした。
次の瞬間、もぞりと少女達を縛る触手が動き、少女たちは気色の悪さに悲鳴を上げる。
「いやああああああああああああああ!」
「あぁがあああああああああああああ!」
二人のその絶叫を心地よさげに聞きながら、自身の体に絡みつく緑色の触手を握り締めた。
「あぁん。いいわ、最高だね」
触手を纏うその少女もまた、魔法少女だ。『快楽呪縛のテンタクルス』という法具を持つ、貫口咲良という名の魔法少女だ。
「今宵も楽しめそうね」
咲良の舌なめずりするその姿は艶やかで、見るものを狂気に魅了するものがあった。
作者である私の趣味が炸裂した新キャラ登場です。ある方面の魔法少女モノには欠かせないものですね、触手。嫌い方はすみません。これでも描写は控えたのです、最初に書いたのを見ればどう見てもノクターン逝きを覚悟しなければいけないぐらいでした。一応全年齢ですからね、この小説。
今回は説明回のような感じでしたが、たぶん次回からは飛ばし気味で進んでいきます。
次回は5月25日0時を予定しています。
お楽しみに。