6話 桐陵高校のアテネ(1)
犬鬼に襲われた次の日の朝、真理は一人で、うつらうつらと朝食を食べていた。
まぁ無理もない。
なぜならここ二日間、不思議なことが立て続けに起こったのだから、寝不足なのである。
「味噌汁はどこ?」
アテネが起きてきた。
「味噌汁は戸棚の中に元がある。
朝早いな、まだ寝ていても大丈夫じゃないかな」
「そうもいかないのよ、今日は早めに出かけないと間に合わない」
アテネは手早くお椀に味噌汁の元を入れお湯を注ぎ味噌汁を作ると、一気に飲み干した。
そして洗面所に行った。
「…あぁ眠い」
■■■
真理はいつも通りの時間に家を出た。
もうすでにアテネは家を出ていたので、鍵をかけているのだった。
(それにしても俺は何なんだろうな)
真理は昨晩のことを思い出しながらふと思った。
アテネには昨晩自分が見たままを伝えた。
さすがに素人の自分には手に終えなかったからだ。専門家であるアテネになら何かわかるのではないかと。
真理は今この時点ですでに自分が普通の人ではないと感じていた。
アテネに会ってからの自分がしたこと、記憶の封印が少し解け戻ってきた昔の記憶を総合的に考えると、自分には何か異能の力を持っているのではないかと思った。
しかしアテネにもそのような力を知らなかった。
仮に真理が"能力者"であるとすると、能力者は一つの力しか使えないため、さらに能力者の力は目に見える現象しか起こせないため、ありえないそうだ。
アテネは「超能力者協会(Supernatural Ability Society):通称SAS」という"能力者"を統率している団体にまで問い合わせして調べたらしい。
少なくとも真理は能力者ではない。魔法を無効化し傷を癒し、あまつさえ物理障壁を展開した。それぞれ統一性のない力のラインナップだ。
アテネ曰く、真理には魔法や超能力では説明できない別次元の力が宿っていると。
真理には自分に宿っている力をまだ理解できていない。
(まぁ、別に問題があるわけじゃないし、後でいいか。
いつか俺の力についてわかるだろうし)
しかし、真理の存在に魔法少女が接近したことで事態が動き始めていることに、真理は知る由もなかった。
■■■
真理はいつも通り学校に着いて安部と話して朝のHRが始まるまでの時間を過ごしていた。
そしてHRの時間。始業のチャイムが鳴ると同時に担任の先生が来た。真理の担任は、河野香織という妖艶な雰囲気を持つ女性だ。
円熟した体つきをしているのに肌がみずみずしいという年齢不詳の、今年この学校に来た先生だ。
「今日はこのクラスに転校生が来ました。では、竜崎さんどうぞ」
(・・・?今、竜崎さんって言ったよな。まさか・・・)
河野先生の呼び声で、教室のドアが開き、一人の少女が入って来た。
「じゃあ竜崎さん自己紹介お願いするね」
「はい、先生。
私の名前は竜崎アテネです。この時期に急遽家の都合で転校することになりました。よろしくお願いします」
黒板に名前を書いてそう言った。
ちょうど最前列に座っいる真理の目の前に、ブレザーを着たアテネが立っていた。
真理はアテネが目の前にいるということが理解できなかった。
なぜこの学校に入って来たのか、と。
クラスメイトは綺麗な顔立ちをしていてどこかのお嬢様のように立っているアテネに釘付けだった。
「じゃああんまり時間ないけど竜崎さんに何か質問とかあるかしら」
河野先生は質問を促した。
「はい!竜崎さんは前はどこにいたんですか!?」
「前は京都の方にいました」
「趣味はなんですか?」
「基本的にいろいろしますが、特に読書です」
「好きな食べ物はなんですか?」
「果物とケーキが好きです」
(・・・なんか全然キャラが違う)
真理はアテネの様子を見てそう思った。
そんな真理にアテネはウィンクをした。
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そしてチャイムが鳴り質問も一区切りになった。
河野先生が教室を出て行き、野獣どもが教室の左隅に座ったアテネの周りに集まった。
質問の続きをするためだ。
「竜崎さんってどこに住んでいるの?」
その質問に対してアテネは至極当たり前のように言った。
「訳あって、神内君の家に居候させてもらっているの」
爆弾が投下された。
その発言によって騒がしかった教室が一瞬の内に静かになった。
凍り付いたかのようだった。
(おいぃぃぃ!何言っているんだ竜崎)
教室の野獣どもは神内をジッと見つめた。
その視線は一つの意味を持っていた。説明をしろと。
「いやいや、竜崎は俺の母親の方で関係があって、別に竜崎とはただの居候という関係だけで・・・」
真理は言い訳がましく説明をするが、周りの目は非難の色が浮かんでいた。
「おい、神内。居候が竜崎さんなのか!羨ましい奴め、俺と代われ!」
と左隣の小林レオが言った。
「いい年頃の男女が一緒の家に住むなんて・・・ふっふしだらだ!」
と後ろの席の風紀委員である三条詩織は言った。
右隣の大輔とその後ろの早苗は生温かい目で真理を見ていた。
「いや、だから家の都合でそうなったんだからさ」
1時間目が始まるまでその喧騒が収まることはなかった。
そんな真理のことをじっとり見つめる視線があった。
他のクラスメイトとは違った意味で。
まるで、品定めするような。
■■■
そしてなんだかんだあり、昼休み。真理はクラスメイトに囲まれる前にアテネに声をかけた。
「竜崎、昼飯食べに行かないか?まだ場所わかんないだろ?」
「いいですね、付いていきます」
真理とアテネ、それに大輔と早苗を含めた4人で学食へと向かった。
*2012.2.3に修正しました。




