だってそういう話だし
「ステラ、お前との婚約を破棄する」
当然の王太子パーウェル殿下のお言葉に私は耳を疑った。
「な、なぜでしょう。
憚りながら不肖ステラめはこれでも心の限り殿下へと尽くしてきたつもりです。到らぬところがあれば改めますので何卒ご不快の理由を伺わせ願いませんでしょうか」
ですがしかし、本当に私が耳を疑うこととなったのはこの後の言葉──。
「理由か……。強いていうならばこれが運命というものだからだ。婚約破棄宣言なしにはここから話が進まない。そういうことだから諦めてくれ」
正直何を言っているのかが解らない。普段から聡明だったはずの殿下にいったい何があったのでしょうか。
「……あの……、もしかして他に気になる女性がおられるとか。真実の愛を見つけたとかなんとか、そういう話を世間ではよく耳にしますし、もしかなさいますと殿下も……。
それでしたらお気になさらずに。私としても身の程は弁えておりますし、お妾の一人や二人受け入れる器量はありますので」
本当はそんなわけはない。されど相手は一国の王太子、側女の存在は不快といえども許容しないわけにはいかない。
「いや、だからそういうんじゃないんだって。ステラがどうこうって話じゃなしに物語の進行の問題なんだって。本当はこういうメタ的な会話は読者が白けるからタブーなんだけど……」
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どういうこと? もしかして本当に殿下の頭がどうにかなってしまわれたのでは……。
「やれやれ、兄上にも困ったものだ。物語と現実を一緒にしておられる」
背後より靴音もなく現れたのはパーウェル殿下の弟君であらせられるジョン殿下でした。
「物語か……。確かにそうだ。
だがしかしそれは仕方があるまい、なぜならこれは本当に物語なのだからな。つまり作品タイトルの通りこれはそういう話なのだ」
「……。ええっと……」
どういうこと? まさか本気で言っているの?
「ならば兄上、この場合この後の展開がどうなるか解っておられるますよね? 正直私としてはこういうのは望まないのですが……」
え? え? ちょっといったい?
ジョン殿下には話が理解できてるってこと?
それにこの後の展開って……?
「どうやら1000文字が近いようですね。
話の停滞は読者の望まぬところですし、そろそろ決着を付けさせていただきますよ兄上」
ズバン!
刹那の閃光。
足下に拡がる深紅の染み。
その主は倒れ伏したパーウェル殿下。
「王太子たる者が錯乱すれば国が乱れる。理不尽な理由で婚約破棄を行えば、その親族の離反を招くのみ。
『悪役王子』や『ざまぁ』なんて読み物の中だけで十分なんですよ兄上」
哀しそうな眼差しを浮かべるジョン殿下。
私も痛いほどに共感する。パーウェル殿下は何故にこのような馬鹿な真似を……。
◇◇◇◇◇◇
数日後、亡きパーウェル殿下の一室から幾つかの書物が発見された。
それら書物の中で触れられていたのは『予定説』。この世全ての出来事は予め神に決められたシナリオに沿って進むものであり、そこに人間の選択の自由は介在しない。ただ本人にその自覚があるだけかないかがその本人の意思か否かの違いである──だとかなんとか。
つまるところ、パーウェル殿下はこれら書物の思想を強く受けてしまったということなのでしょう。
ですがしかし、ならばなぜパーウェル殿下はこの度の件のことを神のシナリオを思い込んだのでしょうか。
王都ではジョン殿下の王太子柵立の儀式が行われるらしいと風の噂に聞く。
亡きパーウェル殿下を偲びながら、尼となった私は今日も郊外の教会にて祈りを捧げる。




