第2話 白百合騎士団(後編)
===熟成期間===
この日を境に、ミナは常にセルヴァンナの傍らに控えるようになった。
身の回りの世話は進んで行った。
命令にはすべて従った。
――離れれば、殺される。
彼女にとってセルヴァンナは命綱そのものだった。
だから、離れるわけには行かない。
それは、生き残るために必要なことだった。
その異常な環境下で、次第にミナの心情も変化していった
恐怖は依存へと変化した。
彼女は、自ら進んでセルヴァンナに奉仕するようになった。
そこに何の違和感も持たなかった。
むしろ、そうしていることで安心できた。
「愛しています、セルヴァンナ様」
「ああ、ありがとう。私も君のことを愛している」
二人が恋仲になるまで、時間はかからなかった。
ミナは、セルヴァンナの微笑みを“救い”のように感じていた。
セルヴァンナのことを信頼するようになっていった。
それが “収穫”を愉しむための“熟成期間”だということには気づかなかった。
===地下室===
一か月が過ぎた頃には、ミナは安心しきっていた。
セルヴァンナとは相思相愛であり、何があっても守ってもらえる。
そう信じて疑わなかった。
それは植え付けられた幻想にすぎなかった。
そのことを、この日、思い知らされることになる。
「君に見せたいものがある」
案内されたのは、正百院の地下だった。
階段を降りるたび、空気が重く、冷たく、湿っていく。
鼻の奥に刺さる、生ぬるい金属臭が漂ってくる。
ミナはその正体を理解できなかった。
だが、地下室に入った瞬間――理解した。
牢に入れられた人族の女性たち。
全員が怯え、セルヴァンナを見ただけで震えあがる。
ミナは思った。
――彼女たちは、セルヴァンナの寵愛を受けることが出来なかったのだ、と。
だが、それは間違いだった。
彼女たちは“寵愛を受けたからこそ”ここにいるのだ。
「さぁ、ミナ。これを見てくれ」
さらに奥へと案内される。
そこには、金属製の“器具”が並べられていた。
その用途が“拷問”であることは、一目で理解できた。
「セルヴァンナ様、これは……」
「彼女たちは、私に身も心も捧げてくれたのだ。君と同じように。だから、好きに扱おうと思った。だが、折角だから、創意工夫をしようと思ったのだ」
その結果が、この拷問具というわけだ。
ミナは恐怖に支配され、動けなくなった。
歯がカチカチと音を立てて震える。
「私のことを愛していると言ってくださった」
「ああ、愛しているとも。だから、拷問にかけるんだ。その愛を余すことなく搾り取るために。そして、殺す」
セルヴァンナの声は、甘く、優しく、そして底冷えする程に愉悦に満ちていた。
その時、ようやくミナは気づいた。
最初から助かる可能性などなかった。
全ては、セルヴァンナのための娯楽でしかなかった。
そして、気づいた時には――もう逃げ道などどこにもなかった。




