第6話 報告(後編)
===嘲笑===
小屋を出た救世烈団の面々は、しばらくの間“悲しみに沈んだふり”をしていた。
肩を落とし、沈痛な面持ちを作り、足取りも重い。
だが、それも小屋が見えなくなるまでのものだった。
小屋の明かりが見えなくなると、くすくす、という笑い声が漏れ聞こえてきた。
それが、仮面を外す合図だった。
彼らは互いの顔を見合わせると、嘲笑を弾けさせた。
「今回も面白かったなぁ! あのザイラスがあそこまで気を落とすとは!」
「まぁ、泣き叫んだりしていないのはマイナスポイントだけどねぇ」
アレクの言葉に、オルディナが楽しそうに続ける。
「あの男には、人情という物がないのだろうか。全く、嘆かわしいものだ」
セルヴァンナが非難するように言うと、ガルドが「俺たちが言える立場じゃないけどな」と答えた。
その言葉に、全員が声をあげて笑った。
「それよりも、オルディナ」
「ん、なぁに?」
「お前、笑うの我慢できなかっただろ?」
「だってぇ、あれ程までに“予想通り”の反応をされるとは思いませんでしたものぉ」
「後で罰金な」
「それに関しては、仕方がありませんわねぇ」
オルディナはにやけながら答えた。
「それで、これからどうする?」
「またダンジョンに戻るだろ? 第七層に行けば、誰もいない。ザイラスの反応を肴にして、一杯やろうぜ!」
「賛成!」
救世烈団の面々は、小屋での出来事が嘘だったかのように盛り上がった。
「深穴から聞こえてきたレオンの叫び声、最高だったよな」
「最高だったぜ」
「また、聞こえてこないかな?」
「急ごうぜ!」
盛り上がりが大きくなっていく。
そんな中――ミリアが不安げに疑問の声を上げた。
「あの、皆さん。ザイラスさんは、私達の言い分を信じていると思いますか?」
「それは重要か?」
アイクが質問で返す。
ほんの僅かではあるが、ミリアへの非難を含む声だった。
その声に、ミリアの肩がびくりと震えた。
騒ぎがしんと静まり返り、空気がひりついた。
救世烈団に所属するのは、高レベルの精鋭たちだ。
だが、その中でもアイクだけは別格だ。
彼の機嫌一つで、救世烈団のメンバーでさえ、命を落としかねない。
そこにすかさず、ノワールがフォローを入れた。
「仮に信じていないのであれば、その方が面白いだろう」
「どういうことだ?」
尋ねるアイクに、ノワールが答える。
「信じていないのであれば、ザイラスは“息子の敵”に丁寧な対応をせざるを得なかったことになる。我々に逆らったとしても、どんな目に合うかは分かっているのだろう。その屈辱を想像するだけで、面白いと思わないか?」
アイクの口端が、ゆっくりと吊り上がった。
「ああ、そういうことか! そりゃあ、最高だな! いっそのこと、折を見て、真実を告げに行くか」
「それはリーダーが決めてくれ」
「考えておくよ。ああ、そうだ。ミリア、悪かったな。少し熱くなっちまった」
「いえ……」
アイクが手をたたく。
「合同探索も今日で最後だ。さぁ、みんなで盛り上がろうぜ!」
救世烈団は、闇の中を軽い足取りで歩く。
そこに哀悼は一切ない。あるのは、嘲笑だけだ。
――彼らは知らない。
幽樹迷宮の深穴。
そこで、復讐の炎が燃え上がろうとしていることを。
そして、その焔がやがて――。
彼らの喉元に牙を立てることを。
第1章は、ここで幕を下ろします。
次章から、いよいよレオンの“復讐”が始まります。
第2章『一人目――セルヴァンナ・アウレ(前編)』では、
主にセルヴァンナの視点から物語が進みます。
謎のエルフ『リュミエル』が活躍します。
彼女は何者なのか――。
それにレオンがどうかかわっているのか――。
その全ては、第3章で明かされます。
出来れば、第3章まで見届けていただければ嬉しいです。
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