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第2話 救世烈団

  ===救世烈団===


 最難関ダンジョン《幽樹迷宮》で正気を保つことは困難だ。

 迷宮そのものが、目に見えない“呪い”のようなものをまき散らしている。

 並の冒険者であれば十歩も進まぬうちに幻覚に怯え、錯乱し、気づけば自分の舌をかみ切って死んでいる――そんな場所だ。


 内部に巣食う魔物はどれも災害級。

 軍隊規模で大きな犠牲を出しながら対処しなければいけないような、危険なものばかり。

 歴戦の上級冒険者でさえ、その気配に気づく前に命を奪われる。


 そんな死地の中を、九人の影が歩いていていた。

 本来であれば、一秒たりとも気を抜けないはずの場所。

 だが、彼らは世間話をしながら、まるで散歩でもしているかのように進んでいた。


 彼らの名は――『救世烈団』。

 世界で唯一のSS級パーティーであり、この迷宮への進入を許された唯一の存在だ。


 ナイトメア族のノワール。

 セイレーン族のミリア。

 精霊種のオルディナ。

 ドワーフ族のハムロック。

 獣族のガロウ。

 エルフ族のセルヴァンナ。

 竜種のエルダリウス。

 そして、古聖種のアレク。


 その全員が、世界に名を轟かす“特別な存在”だ。

 その余裕は、彼らの実力に裏打ちされたものだった。


  ===魔物との遭遇===


「魔物がいた。前方だ」


 ローブ姿の男――ノワールが、感情のこもらない静かな声で告げた。

 メンバーは即座に武器を構える――が、緊張はない。


 前方から現れたのは『鉱石トロール』。

 トロールの特異種であり、通常種の倍以上の巨躯を誇る。

 鉱石のように硬い身体を持ち、ひとたび暴れれば、周囲の地形が変わるほどの怪力を持つ。


 だが、鉱石トロールは咆哮を上げることもなく、身体を傾け――そのまま崩れ落ちた。

 ズシン、と地面が奮える

 救世烈団の面々は、あっけにとられていた。


「魔物が()()。だから、対敵する前に殺しておいた」


 ノワールが淡々と告げると、仲間たちは気が抜けた声を出した。

 リーダーのアレクが、半笑いのまま肩をすくめる。


「お前、意外とお茶目な性格だよな」

「……そうでもない」


 ノワールは、ナイトメア族の男性だ。

 年齢は不詳。

 肌は青白く、深紅の瞳を持つ。

 闇魔法を用いた暗殺を得意としており、かつての『魔禍戦争』では“もっとも多くの魔族を葬った男”と言われている。

 今回も、誰にも気づかれることなく、遠距離から鉱石トロールを仕留めていた。


「だが、魔物の群れなら近づいているぞ」

「それを早く言えよ!」


 アレクが叫ぶ。

 前方から、黒い“波”のような影が迫っていた。

 あれは軍災鼠(ぐんさいねずみ)の群れだ。

 一匹だけであれば、中堅冒険者でも倒すことは可能。

 だが、それが百匹を超えると、抗うことが出来ない“災害”となる。

 ゆえに、軍災鼠と呼ばれるのだ。

 かつて百匹の軍災鼠によって、一つの村が跡形もなく『消滅』させられたこともあった。


 そして――今回現れた数は、ゆうに千を超えている。

 アレクは、セイレーン族の女性――ミリアに指示を出そうとした。

 だが、その前に彼女は動き出していた。


 セイレーン族は“魔力を帯びた声”を操る種族だ。

 その中でも、ミリアの才能は突出している。

 魔法による“多重詠唱”を可能とし、詠唱不可能と思われていた“概念魔法”をいくつも実用化した。

 彼女にしか使えない魔法も多数存在し、それらは『音魔法』という特別な分類をされている。


「展開」


 六枚の魔法陣が、ミリアの周囲に浮かぶ。


「焔よ」「焔よ」「焔よ」「焔よ」「焔よ」「焔よ」


 魔法陣から、同時に詠唱の声が流れ出た。

 それは全て同じ声――ミリアのものだった。


「――召び出したるは紅蓮の焔」

「燃え滾れ」「燃え滾れ」「燃え滾れ」

「燃え滾れ」「燃え滾れ」「燃え滾れ」

「――束ね、束ね、全てを灰に」


 ミリア自信の口から発せられた詠唱により、六つの魔法が収束した。


 次の瞬間――。

 紅蓮の炎がうっそうとしていた森を焼き尽くした。

 周辺が一気に灰だらけの更地となる。魔物の群れなど、跡形もなくなっている。


 だが、これで終わりではない。

 今の音を聞きつけた災害級の魔物たちが、一斉に集まってきた。


 霧幻獣フォグライガ。

 蟲王ヴァミル。

 大猿獣バルバエイプ。

 獄炎竜フェルノレウス。

 どれも、国を滅ぼしかねない程の脅威だ。


「ここは私が行こう」


 聖騎士セルヴァンナが前に出た。

 長身の女性エルフであり、聖衣のような文様の入った鎧を身に着けている。

 その手に持つのは、美しい装飾の入った“聖剣ルミナール”だ。


 迫る魔物たち。

 並みの冒険者であれば手も足も出ないような魔物が、セルヴァンナに襲い掛かろうとする。

 だが、それが為されることはなかった。

 彼女が舞うように体を翻すたびに“不可視の斬撃”が放たれた。


 魔物たちの身体は、高精度の斬撃により静かに切断された。

 魔物たちは、そのことにも気づかないまま崩れ落ちた。


「これで終わりだな」


 セルヴァンナは、聖剣を鞘に納める。

 本来であれば、国が滅びかねないほどの脅威。

 それを撃破した彼らの“英雄的行動”に対し、メンバーは然程の反応を見せなかった。


 ここにいる『救世烈団』のメンバーは、全員が規格外。

 この偉業でさえ、彼らにしてみれば“日常”のものとなってしまう。

 ただ一人――“人族の少年”を除いては。


  ===人族の少年===


 その少年――レオンは、彼らの行動を畏怖の眼差しで見ていた。

 彼は、ただの荷物持ちであり、パーティーメンバーとしてカウントされていなかった。

 この世界において、人族にスキルはない。

 他種族に従うだけの存在。


 戦力として劣るため、高ランクパーティーに人族が加入していることは稀だ。

 世界最高峰のこのパーティーに参加していることは、これ以上ない名誉なことだ。


 そんな彼のことを、救世烈団は温かく迎えていた。

 魔物から守り、温かい言葉をかけ、仲間として笑いあった。

 レオンは救世烈団のメンバーを深く信頼し、尊敬していた。


 だが――この日、全てが逆転することになる。

 その“最悪の事件”は、すぐ近くにまで迫っていた。

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