【短編小説】TEAの味(リアルよりリアリティ)
箸を置いて茶を飲んだところでふと気がついた。
味がしない。
確かに俺は味蕾を潰しながら生きているクソ喫煙者だ。味を語る資格は無い。
だが味がしないのは別だ。
おれが狂っているか調理を間違えたか、どちらか。
おれが食ったのはスーパーで買ったそれぞれ40%オフのあん肝、ワカサギ、海老だ。
蒸したり揚げたり焼いたりした。
別に高級スーパーでは無いから素材だって大したものじゃない。しかも見切り品だ。
調味液の麺つゆがどんよりと光っている。
味がしない。
麺つゆの暴力的な味も感じなかった。
煙草に火をつけて考える。味を感じなくなった舌を煙が撫でる。
おれがグルメになったわけじゃない。グルメだった事も無い。
育ちは悪く無い方だが、バルチョーナクとしては三流だ。どこにでもいる粗悪なボンボン。どこに出しても恥ずかしいひと。
テレビではニュースが聴覚障害の企画を取り扱っている。イヤフォンとかヘッドフォンで大音量の音楽を聴いていた人たちが後年になって聴覚障害を引き起こしていると言う話だ。
味覚もそうだろうか?
だが思い出す限りは普通の食生活だった。
最近ではジャンクフードも摂っていない。
一度だけ味覚を鋭敏にした事がある。
流行っていたデトックスで三日ほど水だけで過ごした時だ。
もちろん珈琲も飲まないし煙草も吸わない。それだけで人間の味覚はかなり改善されるものだと知った。
デトックス断食明けのコンビニ飯は不味くて食えたものじゃなかった。調理人と言うのはもしかしたら常時あれに近い状態なのかも知れないと思ったのを覚えている。
ちなみにその状態だとスパイス類の効き目が凄まじく、真冬でもカレーを食った後に汗が止まらなくなったりする。
あれから随分と経った。
とは言え、だ。
自分のせいだろうか。
煙草を空き缶に押し込む。
スーパーの食材が味気ないのではないか?
味気ないと言うよりは味がしない。
各家庭での濃い味付けを前提にしているのだろうか。だとしたら消費者が素材の味などと言うものを端から信用していないのか。
そもそもスーパーに並んでいる食材はどんな食材なのだろう。
養殖だとか天然だとかそういう話をしているのじゃなく、もしかしたら全ての食品は3Dプリンターで作り出されたものでしかない可能性だってある。
スーパーのバックヤードに何があるかなんて誰もしらない。
母親の胎内みたいに電源に繋がれたプリンターが様々な素材を入れられて嬰児のような食品を送り出す工事があるとしたら?
白い作業服を着た店員たちがそれを素早くパックして店頭に並べる。
俺たち消費者がそれを手に取り、調理して喰う。
パックのどこにも本物だとは書かれていない。産地?それは原材料の生産地さ。
俺が買ったのも合成されたものだ。
あん肝もワカサギも海老も合成された食品だ。
本物のあん肝だとかワカサギだとかバナメイ海老とは書かれていない。
ここに並べられている食品は全てそうやって作り出された偽物かも知れない。
大豆代替食品なんかじゃない。もっと高性能の食品だ。
そう考えると俺はげっそりした気分になったが、そもそも俺は食品の何も知らない。
牛舎だとかを見た事が無いし、漁港に運び込まれた魚を見た事が無い。
例えば草原や海の奥で、やはり同じような3Dプリンターが起動していて定期的に各種の牛や豚、魚なんかを吐き出しているのかも知れない。
世界の海だってどこかに循環器があって、同じ水が処理されたり濃度をコントロールされながらぐるぐる回っているのかも知れない。
俺は晩飯に飲み込んだあん肝だとかワカサギだとかバナメイエビの残骸を歯ブラシで磨き落としながら鏡を見ていた。
そう言えば俺の顔にも本物だなんて書いてないので参ってしまうよなと思った。




