死と共に
見知らぬ人に声を掛けられ、何故か…
「こんな所にいても、寒いだけですから帰りましょう。」
そう促されて、一緒に歩き出した。
私が泣いている理由を聞くでもなく、ただ黙ったまま一緒に歩いてくれている。
今年一番の寒さのはずなのに、何故だか心地よく感じる。
一瞬だけでも苦しみから救われたような気がした。
薄暗かった道が、明るい街頭に照らし出され、まばらだった人影もぶつかり合う人波へと賑わいを見せる。
「ゆっくりで良いと思いますよ。ゆっくりいきなさい。大丈夫、また明日。」
そう言って、その人は笑顔を見せて去って行った。
ゆっくりいきなさい…。
私が使ってきた、いくは逝くしか選択肢が無かった。
だけど、あの人が使った、いくは逝くなのか、生くなのか、行くだったのかは分からない。
いつも逝く事を考え、夜に怯えながら過ごしてきた私は、明日、また逝こうとするだろう。
そして、あの橋に向かい、川底を見つめ、寒くて飛び込めそうにないと、呆れながら、あの人の言葉を思い出すのだろうか。
いつか立ち直れる日を迎えて、平穏な夜を過ごせる日が訪れるのだろうか。
そう思いながら、明日を迎えるのも良いかもしれない。
そうやり過ごしながら、逝く日を迎えても良いのかもしれない。
これから先も私は逝く事を諦めないだろう。
仕方がない、また死と共に明日を迎えよう。
あー、明日死ねればそれで良い。