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死の流儀(上)

仕事を辞める事だけが、心の支えだったから、辞めた後の事を考えていなかった。

かなり心を病んでいたから、先の事まで考える余裕もなかった。

仕事を辞めて、これからの事を考えた時、真っ先に、手元にある通帳を開いた。

この先、生きていけるか、通帳の残高に掛かっていたからだ。

この先、安泰。とは、言えない金額を見て、何を今更と、分かりきっていた事に肩を落とした。

ふと、あの子だったら…と、音沙汰のない妹を思い出す。

私には、一つ下の妹がいる。

妹は、子供の頃から破天荒で、何かしら親に迷惑を掛けていた。

物心がついた頃には、欲しいオモチャを買って貰えないからと、風呂敷包を抱えて隣の家へ家出した。

風呂敷包の中身は気になったが、未だ謎のまま。

母親は、お隣さんに迷惑だからと、直ぐに、妹の要求をのみ、妹は、欲しいオモチャを手に入れる事が出来た。

中学生になると、学校で友達と一緒に髪を脱色した。と、母親が学校へ呼び出され、担任と母親に、こっぴどく叱られたが、妹は、臆する事なく我が道を突き進んで行った。

高校生の時には、洋服を万引きしたと、店から母親へ連絡が入り、この時も、母親は店へ飛んで行く事になった。

店での妹達の態度は、かなり悪く、反省の色もなく、親を呼ぶぞ。と、脅されても、顔色ひとつ変えずに、許しを請う事もしなかったそうだ。

当時の私は、これこそ〝朱も交われば赤くなる。〟を、身をもって示している妹に関心していた。

可哀想な母親は、米つきバッタのように、謝る事しか出来なかったようだ。

有難い事に、警察へは通報されなかったので、補導歴はない。

成人してからも、車を買い替えて欲しい。と、家出をしている。

この騒動の時、私は社会人として、家を出て一人暮らしを始めていた。

そんな私の所へ母親から、妹が車を買い替えて欲しいと、また家出をした。妹から連絡があれば、車を買い替えるから、家へ戻るよう伝えて欲しいと、伝言を頼まれた。

案の定、その日の内に、妹から私の所へ連絡が入り、私は、いい歳をして、まだそんな事をやってあるのかと、やんわり伝えたが、妹には、私の言葉は届かず、意気揚々と家へ帰り、新車を手に入れた。

私は、妹とは本当に血を分けた〝きょうだい。〟なんだろうかと、疑っている。

私と妹では、全てが真逆、私が暗なら妹は陽、まあ、そうなった原因の一つは、母親の「情けない。」を聞くたび、私だけは、真面目に生きてやらなければと、自分へ言い聞かせ真っ直ぐに歩んで来たからだ。

羽目を外す。という事を知らない。

だから…、この歳になって、仕事を失い。途方に暮れている姿を親に知られる訳にはいかなった。

本音を言えば、一度くらいは羽目を外してみたかった。

それが出来ない自分が歯がゆい。

まぁ、今更、どうする事も出来ない。

さて、何処でどう死のうか。

ここで死ぬと、事故物件になり、家主に迷惑が掛かる。

生きている時も、他人に迷惑を掛けられないのに、死んだから良いや。と、他人に迷惑を掛ける事は、当然出来ない。

きっと、母親も人様に迷惑を掛けるような事をした。と、悲しむだろう。

今まで、必死になって守ってきたものを一瞬にして壊してしまう訳にはいかない。

そうだ、その前に、身辺整理をしておかないと。

要らない物は処分して、通帳や印鑑、生命保険の証券も分かるようにしておかないとな。

あー、死ぬのも簡単ではない。

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