ピンチからピンチ
亡者たちの残骸の霧が晴れると、
「お前、白の魔道師だったのか」
男が今更なことを言う。
「さっきから光球撃ちまくってたでしょうが」
こいつ、剣振ってるときはあんなに素早かったのに、頭は鈍いのか?
まぁ、それはどうでも良いとして、
「あたしは洞窟に入れないのね」
「亡者を全て倒す自信があるなら···」
「いや、無理」
入り口に一歩入っただけであんなにぞろぞろ湧いて出てくる連中の相手はごめんだ。
「自然の摂理を越えるのは簡単ではないと言うことだ」
男が悟ったようなことを言い出す。
「お前も、過去にこだわりすぎて、今をないがしろにしないようにな」
「···わかったようなことを」
文句を言おうとしてそちらを見ると、そこにはもう、男の姿はなかった。
結局あいつ、なんだったんだろ。
名前すら聞いてないことに気がついたのは、あたしが洞窟を後にしてからだった。
「ただいまー」
夕方、フェルの屋敷に帰ってくると、出迎えたのは、青い顔をしたティシカだった。
「アグネちゃん!どこに行ってたの?」
珍しく焦ってる。そういや、ティシカにはどこに行くか言ってなかったな。
「どうしたの?」
ティシカはあたしの腕を掴むと、二階に向かいながら叫んだ。
「エバ様が倒れたの!!」