話の終わり
「なっがい話」
フェルの話を聞き終えて、あたしは素直な感想を漏らした。
話のきっかけは、フェルの屋敷での夕食後、エバが、「フェルは何故そこまで自分を守ってくれるのか」という疑問を口にしたことだった。
するとフェルは長々と、聞いてもいないことまでべらべらと喋りだした。
エバは真面目に聞いてたし、ティシカは何度も聞いた話なのか気にせず夕食の片付け始めてるけど、あたしは途中から面倒になった。
思っていた以上に過酷な家庭環境には同情する。っていうか、周りの大人に虐待されてた辺り、あたしの生い立ちと若干かぶってるような気がして複雑。
だけど、
「それって、ほんとの話なの?」
あたしは思わずそう口に出す。
「は?」
フェルの眉間に皺が寄った。
「そもそも亡くなった人に会える洞窟とか、信じられな···」
あたしは気がつく。
フェルの周りで、風が唸りをあげ始めていた。こういうフェル、見たことある。確か前エバに手を出そうとした女をぶつ切りにしようとしたときに。
あたしを睨みつけてくるフェルの目にあるのは、ただ殺意のみ。
あたしは咄嗟に防御魔法を唱えようとする。
そのとき、
「フェルネラード!やめろ!」
必死なエバの声が響く。
風の唸りが止まった。
フェルはしぶしぶといった感じで、
「御意に」
あたしに向けていた殺気を収める。
伝説によると、スズランの村に奉られていた剣を抜いたエバは、勇者の生まれ変わりらしい。
そのためフェルはエバの言うことなら基本なんでも聞く。逆に言えばそれ以外には全く聞く耳を持たないが。
騒ぎを聞きつけキッチンの方にいたティシカが駆けてくる。
恐ろしいことに、信じたくないが、この可愛い美人はフェルの奥さんである。
ティシカはあたしに、
「ごめんなさいね
この人、この話題に関してちょっとでも突っ込むと本気で怒るのよ」
にこやかにそう言うが、旦那が人殺しかけたんだからもっと気合いいれて謝ってほしい。
「ティシカは、嫌じゃないの?
旦那が別の奴にここまで入れ込んでるのは」
ティシカはうーんと考えてから、
「それも込みで、あの人だもの」
とっても良い笑顔。
それは愛なのか、それとも面白がってるだけなのか。
しかし、あの思い出話に突っ込むなって···。
死者と会える洞窟なんて、眉唾も良いところだ。
でも、思ってしまった。
フェルの浮かれた妄言が本当なら、もう一度だけでも、父さんや母さんに会いたい、と。