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思い出話

 いつも通り前回のあらすじをさせようとしたら、なんか語りだしちゃいました。

 その人に出会ったのは、私が五歳の頃でした。

 それまでの人生は、思い返したくもありませんね。

 私はファーム王国の貴族として生まれたのですが、その生まれた日から魔道師としての能力が備わっていました。

 なんでも、私の誕生日が先代の緑の魔道師の命日で、その能力が生まれたばかりの私に継承されたそうです。

 物心つく前からずっと言われ続けていた言葉は、

「お前は幸運だ」

 でした。

 幸運とは、何か。

 私自身は、魔道師になったことを幸運などと思ったことは、それまで一度もありませんでした。

 何をするにも家名のため。国家のため。魔道師ならば当然だと言われて育ちました。

「何故こんなことも出来ない!!」

 叱られる度に父親に鞭で打たれる日々。

 私の魔法は当時、そよ風を起こすぐらいが精一杯でしたが、父が言うには私は父が命じることが全て出来て当然だそうです。それに少しでも顔をしかめようものなら、

「なんだ、その生意気な顔は!!」

 また鞭が飛んできました。

 そんな私たちを、母親は心底興味がないといった目で見つめていました。というより、本当に興味がなかったのでしょう。

 父母が国から魔道師育成のために与えられた補助金を、私ではなく自分達のために使っているのも知っていました。

 けれど、私自身はそれをどうでも良いと思っていました。そのことに限らず、何もかもが。

 全てが、面倒だったんです。自死することさえも。

 そんなとき、ある噂が耳に入ってきました。

 街の外れに、亡くなった者に会える洞窟があるらしい、と。

 私はその洞窟に向かいました。

 会いたい相手がいたわけではありません。

 『死者に会う』とは、『そこに行けば死ぬ』ということだと思ったのです。

 私に一つだけ願いがあるとするならば、楽になることだったから。






 洞窟に着くと、具体的にどうしたら良いかわからなかったので、しばらく洞窟の床(といっても剥き出しの地面でしたが)にしゃがみこんで、じっとしていました。

「何してんだ?」

 いつの間にか黒い瞳をした十八歳程の少年が、そばに佇んでいました。

 今思うと、洞窟の中は暗かったのに、不思議と彼の姿ははっきり見えましたね。

「ここで幽霊の仲間になるんです」

 私がそう言うと、その人は、腕を組み、難しい顔をしていました。多分、呆れていたのでしょう。

「お前、名前は?」

「フェルネラード=フォン=エルデ」

「そうか。俺は―

 ―=ディンハードだ」






 私は自分のことを余すことなく彼に話しました。

 彼は話を聞き終えると、

「いつの世も、ろくでもねぇ親はいるもんだな」

 と、吐き捨てるように言いました。そして、

「暗いな」

 そう言うと、その人は手のひらから光を生み出しました。

「お兄さんも魔法が使えるんですか?」

「ん?ああ、まあな」

 ご存知でしょうが、この世で魔法が使えるのは、それぞれ緑や黄色など色の属性を持つ選ばれた人間だけだと決まっています。

「お兄さんは、何の魔道師ですか?白?黄色?」

 彼は少し考えてから、

「あえていうならほぼ全部」

 意味がわからず私が首を傾げていると、

「ここにずっといるのは自由だがな

 このままここにいても幽霊の仲間になるのは無理だぞ」

「何故」

「何故って言われても

 まぁ、いるのはお前の自由だが、気が済んだら帰れ」

「···帰っても、殴られるだけですし」

「そんな親父、魔法で反撃すりゃあ良い」

 私は驚きました。そんな発想、私にはありませんでしたから。

「そんなこと、しても良いんですか?」

 そう聞くと、彼は突然、

「お前、守りたい奴はいるのか?」

 そう聞き返してきました。

「わかりません」

 私がそう正直に答えると

「なら、魔法は誰かのためじゃなく、自分のために使え」

 私はその言葉の意味がわかりませんでした。生まれてこのかた、自分の能力は自分以外の誰かのために使うのが当たり前だったからです。

「良いんですか?」

「その魔法は、もうお前のものだ

 自分の身を守るために使って何が悪い」

 目が覚めるような思いでした。

 彼は私の頭を優しい手つきで叩いて、

「それでうまくいかなかったら、またここに逃げてくれば良い」






「どこに行っていた!!この役立たずが!」

 家に帰った途端、早速父が鞭を振るってきました。

 しかし、


 自分の身を、守れ。


 守って、良いのだ。

 そう思ったら、初めて風の結界が発動しました。

 結界は鞭ごと、父を五メートル程上空に吹き飛ばしました。

 この日から、父は私に手を出すことは出来なくなったのです。






 私はまた洞窟に向かいました。

 彼は私の顔を見て、

「少しはすかっとしたか?」

「すかっとしました」

 私はそのときにはもう、彼が幽霊であることは察しがついていました。

 それでも、彼が見せた笑みが忘れられなくて、私はそれからも洞窟へ通い、彼から魔法を習いました。






 けれど、それはそう長くは続きませんでした。

「もう、ここへは来るな」

 ある日、彼がそう言い出したのです。

「どうして」

「亡者たちが動き出してる」

 意味がわかりませんでした。

「お前が死にたいと思わなくなったからだ。だが、このままここにいると、死者の世界に引きずり込まれるぞ

 だから、もうここへは来ない方が良い」

「それでも構いません。お兄さんと一緒にいたい」

 べしんっと頭をはたかれましたが、不思議と痛くはありませんでした。

「今も、死にたいか?」

 私は考えました。

 私を取り巻く環境は、ほんの少しましになっただけ。

 けれど私は知ってしまった。

 自分のために生きて良いということを。そして、彼に教わった魔法の楽しさも。

 結論は、

「出来るなら、生きていたい」

 そう言うと彼は笑っていました。

 そして、いつものように私の頭を優しく叩くと、

「またな」

 彼とはそれっきりでした。






 それから数年が経ちました。

 私は宮廷魔道士になり、更に魔法を覚えて、街から魔物を追い払い、人から感謝されるようになりました。

 しかし、誰といても、彼といたときと同じ感情にはなることは出来ませんでした。

 そんなとき、出会ったのが隣国ディンハードの王子で、黄の魔道師―ハクジャでした。魔道師同士として引き合わされたのです。

 驚きました。

 ハクジャは彼に似ていたのです。

 生き写し、とまでは言いません。あの人の美貌に比べたら、ハクジャはその辺りの石と変わりませんから。言い過ぎ?そうですか?

 しかし、そのとき、薄々感じていた予感が形になったような気がしました。

 ハクジャは直系ではありませんが、千年前に世界を救った勇者様の血を受け継いだ一族。勇者様に似ていることは十分に考えられます。

 そして、ディンハードとは、王族ですら名乗ることの出来ない、勇者様の直系のみ名乗ることを許された名前。

 彼が使えないはずの魔法を使えたのも、納得がいきます。千年前は、全ての人間が魔法を行使出来たのですから。

 私は確信しました。

 千年前の死者。

 ディンハードの王族の血筋。

 そして名前。

 あの人は、千年前に世界を救った勇者様だったのだ、と。

 





 私が十八歳になった頃、両親の魔道士師補助金の搾取諸々の不正の証拠を全部王に突きつけ、両人とも追放して私がエルデ家の当主になりました。

 もう誰も私を殴ることは出来ませんが、今でも魔法の研鑽は欠かしていません。

 家のためでも、国のためでもなく。

 ただ、彼にもう一度会うために。

 そのために時折、スズランとかいう海辺の村に向かいました。

 ご存知の通り、そこには勇者様が使っていた剣が岩に突き刺さった状態で祠に奉られており、伝説では、勇者様の生まれ変わりだけがその剣を岩から引き抜けるのだと言われていました。

 そこに行けば、いつか彼に巡り会えるかもしれない。

 そう思っていました。

 そして遂に、その方は現れました。

 その姿は、ハクジャ以上に勇者様に生き写し、いや、あの時出会った勇者様そのものでした。

 その瞬間、私にはわかりました






 貴方こそ、我が主だ、と。


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