二人っきりの時間
まずはこの世界のことについて教えてあげないとな。
こっちは異世界系の漫画とか結構見てるから異世界のことについてはそこそこに把握してるつもりなのだが、相手はこっちの世界のことについては、おそらく何も知らないだろう。
教えるとなると、まず相手のことが知りたくなるな。こっちの世界に呼び出し、外見でエルフと勝手に考え込んでたのはいいものの、ぶっちゃけ相手が本当にエルフなのか分からん。
「君の名前教えてもらってもいいかな?」
「はぁ……、なぜ私のことを呼び出したのかは分からないけど、あなたの方から名乗るのが礼儀なのではなくて?」
うっ、ご尤もすぎて何も言い返せない。色んな感情がごっちゃになって、確かに礼儀が欠けていた。……となるとまずは、俺の部屋に来てもらった方が良いんだけど……。
「に、庭で立ち話しててもあれだからさ、そ、そのー、俺の部屋に上がってもらってもいいかな。俺の部屋あんまりきれいじゃないけど……」
ど、どうだ……?ごく普通で違和感なく誘えたのではないだろうか。ぶっちゃけちょっと前から夏休みを充実するために部屋片付けをしていた。きれいじゃないと言ったのは、あくまでも汚いと言われたときの保険だ。
別に俺の部屋に二人っきりになったからといって如何わしい行為をしようとしてるわけじゃない。ただ単に"礼儀"として上がらせるだけだ。本当に!
頼む!了承してくれ……!
「わかったわ、上がらせてもらおうかしら」
「わかった、ジュースとかお菓子持ってくるから俺の部屋で待ってて」
「じゅーす?おかし?なによそれ……」
やった!部屋に入ってもらえる!ぶっちゃけ死ぬほど緊張した……。
おっと、浮かれるのはまだ早い。これからジュースとお菓子を決めるという大事なミッションがある。ここでミスっては印象が俺の印象が下がってしまう。
ジュースは冷蔵庫の中に入ってる「午前の紅茶」、お菓子は万人受けするチョコでいいだろうか。下手に変なお菓子を出すと口に合うかわからないし、ましてや相手は異世界人。俺の漫画で得た知識だと、チョコレートは異世界には存在しない、又は、あるとしても高級な食べ物として扱われることが多い。「午前の紅茶」も出して間違いはないだろう。そんな事を考えながら、おぼんに乗せた。
ふぅ……。
部屋の前に来たはいいものの、いざ二人きりになると考えると緊張がすごいな。何を隠そう生まれてこの方、女性と二人きりになったことが無い!しかも初めて二人っきりになる相手がめちゃくちゃ美人。緊張しない方が無理があるだろう。
……あんまり待たせるのも申し訳ない。覚悟を決めて部屋に入るか。
「お菓子持ってきた」
「ねぇ、ジュースとかお菓子とか言ってるけど、それって何?って言うか、その黒いやつとその赤っぽい液体は?」
机の上にお盆を置くと同時に、軽く質問攻めをされた。
「この黒いやつはお菓子のチョコ、この赤っぽい液体は紅茶の中のストレートという種類。」
「へぇ〜」
興味なさそうに振る舞っているつもりだろうが、そわそわしていて落ち着きがないし、目が蘭蘭としている。これだけ体や表情などで表してくれると何を言いたいのかがだいたい分かる。
「このお菓子食べる?」
「えっ!いいの!?」
「うん、いいよ」
うん、予想通りの反応だ。その可愛さは予想外だったが。
「えっ!このチョコっていう食べ物めっちゃ甘い!それにこの紅茶とかいう飲み物は苦くて、チョコと一緒に食べると、っもうなんか凄い!」
美味しすぎて語彙力が低下してるではないか。あぁ可愛らしい。美人で可愛いとか最強じゃん!よく「天は二物を与えず」というが、そのことわざをキレイに反している。あまりにも可愛すぎて自然と笑みがこぼれてしまう。
……っと、見とれるより先にしなければいけないことがあるだろう。
「今からこの世界のことについて教えようと思う。短めにまとめようと心がけるけど、長話になりそうなんだけど大丈夫?」
「えぇ、長くなっても構わないわ。この世界を生き抜くために必要なことだもの」
「わかった。じゃあまずは……」
そこから一時間弱くらい、この世界のことについて一方的に話した。彼女はひたすらに相槌を打ってくれた。非常に話しやすくて助かる。
「……これがこの世界の主な常識。1回話を聞いただけじゃ分からないとこだらけだし、大まかな常識を伝えただけだからまだ分からないこともあると思う。分からないことや気になることはその都度聞いてほしい」
「わかったわ」
「それじゃあ、君のことについても教えてほしい」
彼女は少し考えると、口を開いて語り始めた。
「私はハイエルフのヴィオレーヌ。……まぁヴィオって呼んでくれれば嬉しいわ。年齢は130歳。家に帰ろうとしたらあなたの身勝手な行為でここの呼び出された。あとなにも話す情報がないわ。出身地とか言ってもどうせ分からないだろうし」
「いや、名前が知りたかっただけだから大丈夫。あと、勝手に呼び出したのは本当に申し訳ない。」
「別に怒ってるわけじゃないし大丈夫。ハイエルフだから環境の対応にも問題ないし」
本当に身勝手な行為をした気がする。でもまさか本当に出てくるとは思わないじゃんか!
……名前ヴィオレーヌか。外見に反さない美しい名前だ。それに加え、エルフの中でも上位種のハイエルフ!漫画とか見てる限り相当貴重な存在だったような気がする。
ひとまずお互いに話し終わったのは良いものの、特に何もすることがない。これは相当気まずい。
気まずさを紛らわすために時計を見ると、時刻は7時を過ぎていた。もうこんな時間だ。夜飯作んないと。
「ごめん、急いで夜ご飯作ってくるからそこら辺でくつろいでて」
「あら、料理なら私がやるわよ?料理するの好きだし」
本来なら任せたいところなのだが……。
「この世界の食材って見たことないやつばかりだと思うから俺がやってくるよ。自分で言うのもなんだけどこう見えても料理作るの得意だからね!」
そう言うと、腕をまくりながらキッチンへと向かった。
あけましておめでとうございます、ギリヤバメです!
数ある作品の中からこの作品を読んでくれてありがとうございます。
これからも頑張っていくのでよろしくおねがいします!